「暴風雨や地震は滅多に起こらないし、自分は大丈夫」…そのように考えていた人も悠長に構えていられなくなるほど、各地で大きな自然災害の続いた今年の夏。
6月は関西地方で地震、7月は西日本を中心とした水災、さらに直近では北海道で地震が起き、報道される現地の被害状況に心を痛めた人も多いのではないでしょうか。また、ニュースで被害状況を知る中で、「自分が被災したらどうしよう」と不安をおぼえた人も多いことでしょう。
そこで今回は被災したときに役立つ税金の制度について紹介します。
所得税が全額免除!?知っておきたい「災害減免法」
万一被災してしまった際に覚えておきたいのが、通常支払っている税金(所得税)の負担を軽くする制度「災害減免法」と「雑損控除」です。
まず災害減免法は、「災害によって受けた住宅や家財の損害金額がその時価の2分の1以上」と、「災害にあった年の所得金額の合計額が1000万円以下」の両方を満たす人を対象に、所得金額に応じてその年の所得税が軽減または免除になる制度です。
確定申告の際、納税地の所轄税務署長に書類を提出することで適用されます。損害金額を計算する際には、保険金などにより補てんされる金額を除く点は注意が必要です。
例えば、年収500万円で、賃貸住宅に一人暮らしの会社員Aさん(独身)が、水害で時価(その時の商品としての価格。モノの価値は時間とともに下がる)200万円の家財道具の全てが使えなくなってしまったとします。Aさんは保険に入っていなかったため、保険金はありません。
このとき、損害金額は時価の2分の1以上であり、所得金額は1000万円以下のため、「災害減免法による所得税の軽減免除」を利用することができます。
また、年収500万円のAさんの給与所得(会社員が所得税、住民税等の計算時に、必要な経費が一定程度あるとみなして給与収入から差し引いた後の額)は346万円になります。上表の一番上500万円以下に該当するため、所得税額の全額が免除されます。
所得税と住民税が軽減!繰越もできる「雑損控除」
被災した人の中には、災害減免法の対象外の人もいるでしょう。その場合、「雑損控除」を利用することができます。
雑損控除は、自然災害や火災、盗難などで損害を受けた際に、
①(差引損失額)-(その年の総所得金額の1割)
②(差引損失額のうち災害関連支出額)-5万円
のどちらか多い方の額を確定申告することで、所得税と住民税を軽減できる制度です。
控除額を計算した結果、損失額が大きすぎてその年の所得税額から控除しきれない場合は、翌年以降も最大3年間繰り越すことができます。ここでの災害関連支出とは、災害で失った住宅や家財などを取り壊したり、除去したりするための支出などです。
また、差引損失額とは、資産の時価に災害関連支出と損害を受けた資産の原状回復にかかった費用を加え、保険金などで補填される額を引いて計算します。
先ほどのAさんの場合で雑損控除の金額を計算してみましょう。災害関連支出は10万円とします。
①(差引損失額)-(その年の総所得金額の1割)=(200万円+10万円)-346万×10%=175万4000円
②(差引損失額のうち災害関連支出額)-5万円=10万円-5万円=5万円
以上より、Aさんの場合は①の175万4000円を雑損控除として申告することができます。
ただし、175万4000円分税金が安くなるわけではありません。具体的には、所得税からはこの175万4000円に所得税率の5%をかけた8万7700円、住民税からは住民税率10%をかけた17万5400円、合わせて26万3100円が軽減されることになります。
2つの制度、どちらを利用する?
これまで確認してきた「災害減免法」と「雑損控除」は併用することができません。自分に有利な方を選択して確定申告時に申請することになります。
たとえば、災害減免法はその年の所得税のみに適用されますが、雑損控除は翌年以降も繰り越せるため、損失額が大きい場合は所得税も雑損控除を選んだ方が有利になることもあります。また、独自の制度を設けている自治体もあるため、市役所などに確認するのもよいでしょう。
もちろん、自然災害に巻き込まれないことが一番ですが、万一被害を受けてしまったときは、所得や被害状況、自治体独自の制度などを加味して、一番有利な方法を選ぶことで、なるべく負担を減らしましょう。