「ウルトラマン」シリーズをはじめとする数々の特撮テレビ作品で知られる円谷プロダクションによる新プロジェクト『ULTRAMAN ARCHIVES』の第1弾イベントとなる「ULTRAMAN ARCHIVES Premium Theaterスペシャルトーク&上映会」が、11月17日にイオンシネマ板橋にて開催された。スペシャルトークのゲストとして、『ウルトラQ』(1966年)第19話「2020年の挑戦」で監督を務めた飯島敏宏氏と、『20世紀少年』『YAWARA!』など多くのヒット作を持つ漫画家・浦沢直樹氏が登壇。作品の魅力について熱きトークが繰り広げられた。
「ULTRAMAN ARCHIVES」とは、『ウルトラマン』シリーズをはじめとする円谷プロがこれまで製作してきた特撮テレビ作品の魅力を、まだ作品そのものを観たことのない若い世代など、より多くの人々に伝えるために発足した"温故知新"の一大プロジェクトである。本プロジェクトの特色としては、連続テレビ作品から個別のエピソードをひとつピックアップし、単体の映画作品として多方面から深く掘り下げていくところにある。最初に選ばれたのは、円谷プロの第一回製作作品である『ウルトラQ』(1966年)より、第19話としてTBS系で放送された「2020年の挑戦」。「ULTRAMAN ARCHIVES」ではこのエピソードについて、今回のような「トーク&上映イベント」を開催すると共に、関係者や識者へのインタビュー映像を収録した「ビデオグラム(Blu-ray&DVD)」、「関連フィギュア商品」など多角的に展開し、幅広い世代にアピールしていく予定であるという。
今回の「2020年の挑戦」イベントはイオンシネマ板橋にて開催されているが、同時に全国のイオンシネマ14劇場(江別、名取、浦和美園、幕張新都心、シアタス調布、港北ニュータウン、新百合ヶ丘、金沢フォーラス各務原、大高、京都桂川、茨木、広島、福岡)でライブビューイングが行われた。トークショーは2部構成となっており、第1部では『ウルトラQ』の本放送を6歳のときに観ていたという漫画家の浦沢直樹氏に、当時の思い出を聞くという趣向で進められた。MCを務めたのは、映画評論家・クリエイティブディレクターの清水厚氏である。
『ウルトラQ』の第1話「ゴメスを倒せ!」が放送されたのは、1966年1月2日。偶然にも、浦沢氏の誕生日と同じ日だったそうだ。当時の視聴状況を鮮明に覚えている浦沢氏は、「あのときは2歳上のイトコの家で放送を観ました。でも始まる直前にイトコが『恐い』と言って泣き出しましてね。僕が『大丈夫だよ! 恐くないって!』となだめながら観ていた記憶があります(笑)」と、6歳になったばかりの日曜夜の出来事を懐かしく回想していた。
『ウルトラQ』は、"もしも自然界のバランスが崩れたら"をテーマに、われわれの住む日常の世界に通常では考えられないような突飛な事件が起きる1話完結のテレビシリーズで、東宝映画『ゴジラ』のような「怪獣もの」をはじめ、少年をメインに据えた「ファンタジーもの」や「怪奇もの」「SFもの」など、バラエティに富んだ作風が大きな魅力となっている。
幼少時代の浦沢氏はどちらかというと、子どもの目線を意識した「怪獣」エピソードよりも、大人っぽい怪奇・SF寄りのエピソードのほうが好きだったと語っている。清水氏より投げかけられた「浦沢さんが推す『ウルトラQ』のエピソードは?」という質問に対しては「同世代の方々は同じ体験をしていると思いますが、『悪魔ッ子』を観た日の夜は、トイレに行けなくなっちゃった(笑)。それくらい『悪魔ッ子』は恐ろしかったですね。これがベスト、というよりは"最恐"のエピソード!」と、少女の肉体から精神が分離し、夜な夜な交通事故をひき起こすというSF&ホラーテイストの強い第25話「悪魔ッ子」の伝説的な"恐さ"を思い出していた。
浦沢氏が現在、小学館の『週刊ビッグコミックスピリッツ』で連載している「あさドラ!」の第1回で、「かつて第二次大戦でエースパイロットとして活躍したものの、戦後落ちぶれてしまった初老の男」が登場するのだが、この設定からは『ウルトラQ』第14話「東京氷河期」のゲストキャラクター・沢村照夫(演:有馬昌彦)をどことなく想起させる。これについて浦沢氏は「ちょうど『ウルトラQ』を全話観返している最中なんですけれど、『東京氷河期』を観ていたら『おっ!』と思いました。無意識のうちに頭の中に『東京氷河期』がすりこまれていたのかもしれません」と、まったくの偶然ながら、キャラクター設定を考える際に『ウルトラQ』からの影響が少なからずあったかもしれないと熱っぽく語った。
今回、劇場の大スクリーンにて上映される第19話「2020年の挑戦」について、浦沢氏は「『ウルトラQ』を全話観直したとき、ストーリー性と演出の良さで、改めてこの回がベストなんじゃないかと思いましたね」と、誘拐怪人ケムール人の暗躍を描く本エピソードへの思いを語った。そして「2020年の挑戦」の鑑賞ポイントを尋ねられた浦沢氏は、「ケムール人を演じた古谷敏さんのスタイルの良さですね。古谷さんは第20話『海底原人ラゴン』でラゴンも演じられていますが、本当にシュッとしたフォルムで、素晴らしいスタイルをしている。あの体型を見込まれて『ウルトラマン』(1966年)でウルトラマンを演じることになるんですね」と、ケムール人の日本人離れしたスリムなスタイルを見どころに挙げた。浦沢氏はさらにもう一点「すごく恐いシーンが後半にあります。未見の方に配慮してネタバレは避けますが、万城目淳(演:佐原健二)に化けたケムール人が正体を現すシーンに、ぜひ注目してください」と注目ポイントを語った。
続いて、浦沢氏がステージ上で『ウルトラQ』のイラストを描く「ライブドローイング」のコーナーへ。浦沢氏は「濃いマニアの方々もけっこういらっしゃるから"圧"がすごい。下手なものは描けないですね」と言いながらも、短時間で見事なケムール人と万城目淳のイラストを完成させ、観客をどよめかせた。
イラストの完成を祝うかのように、ケムール人がステージに出現。特徴的な効果音と不気味な笑い声を放ちながら清水氏と浦沢氏の間に立つと、浦沢氏から「肩の毛なみがおしゃれですね。ブランド感があるというか(笑)」と、デザイン、造形の妙味を絶賛されていた。
西暦2020年という未来(1966年当時)の時間を持つケムール星からやってきたケムール人は、科学と医療の驚異的な発達によって500歳もの長寿を得たものの、肉体の衰えだけは止めることができなかった。そこで彼らは地球の人間の若い肉体に目をつけ、肉体に生命そのものを移植する計画を進めようとした。驚くべきはその走行スピードで、スローモーな動作でありながら一歩の間隔が数十メートルもあり、背後から追ってくるパトカーとの距離をみるみるうちに離してしまうという名シーンが存在している。
「2020年の挑戦」のスクリーン上映が終わったタイミングで第2部が始まり、本作の脚本(ペンネーム:千束北男/金城哲夫と共作)と監督を務めた飯島敏宏氏がステージに現れ、浦沢氏と共にトークを行った。
飯島監督は「2020年の挑戦」を製作していた1965年当時を振り返り「あのころは今よりもずっと環境汚染がひどく、スモッグなどの"目に見える"公害が問題となっていました。ケムール人はケムール星から来た宇宙人という設定ですが、実は"未来の地球人"をイメージしているんです。このまま環境汚染が続くと、人間はあのような不気味な姿になってしまうだろうという」と、高度経済成長の裏側で深刻な社会問題と化していた工場や自動車の排気煙による大気汚染、工業廃液による水質汚染などの「公害」を意識して、未来世界の"変わり果てた人間"のイメージをケムール人に投影した。
また、ケムール人が「宇宙からの侵略者」であるということについて飯島監督は、「1960年代というのは、まだ"火星には文明の進んだ火星人がいるかもしれない"と言われていて、宇宙に"謎"がたくさん残っていたんです。ですから当時は宇宙人が攻めて来るというお話に、現実味が残っていました」と、当時における宇宙人のリアリティについて説明を行った。飯島監督によれば、ケムール人の不気味な外見は宇宙服の類ではなく、長く続く環境汚染の影響によって人間の体質が変化した結果なのだという。さらに「太陽光の届かない暗闇で、周囲が何も見ることができないため、目が360度グルグル回るようにしてほしいとデザイナーの成田亨さんにお願いしたけれど、それはいくらなんでもできないと言われ、前に2つ、後ろに1つの"目"がある、あのデザインになったのです」と、人気ウルトラ怪獣を次々に生み出した美術デザイナー・成田亨氏との打ち合わせのようすを明かしてくれた。
飯島監督は『ウルトラQ』当時、TBS映画部ディレクターとして、主に娯楽色の強い時代劇やアクションもの、『泣いてたまるか』をはじめとする人情喜劇などを多く手掛けてきた。『ウルトラQ』では創設者の円谷英二特技監督が手腕をふるった東宝特撮映画のスタッフ陣と、TBSからやってきた映像ディレクターたち、そして円谷英二門下というべき円谷プロの若きクリエイター(脚本・金城哲夫、光学撮影・中野稔、撮影・高野宏一&佐川和夫など)の混成チームで製作が進められたそうだが、飯島監督は「映画VSテレビという構図は確かにありました。映画のスタッフから見ると、テレビの若造が来た、みたいな雰囲気だったんです。しかし、テレビがだんだんと力を付けてきて、予算をかけた作品も多く作られ始めた。僕たちも『映画じゃないんだ、テレビから来たんだ』という意識が強かったですね」と、歴史と伝統のある映画からのスタッフとテレビのスタッフがよきライバル関係にあり、映像に対するアプローチの仕方こそ違うものの、お互いが極めてクオリティの高い映像作りに励んだということが『ウルトラQ』の質の高さにつながったのだと話していた。
浦沢氏は「2020年の挑戦」で味わいのある存在感を発揮していた宇田川老刑事役・柳谷寛に着目し、再放送で初めて電波に乗った(現在は第28話としてカウント)「あけてくれ!」でも柳谷が重要な役でゲスト出演していることから、「『あけてくれ!』は『2020年の挑戦』の続きのエピソードなんだと思っていました」と、自身の思いを語った。製作順でいうと「あけてくれ!」は「2020年の挑戦」より前に作られたエピソードであり、飯島監督は「僕が『ウルトラQ』をやることになったとき、参考で見せてもらった中に『あけてくれ!』がありましたね。僕は『ウルトラQ』を"怪獣路線"にするため呼ばれたところがあるんだけれど、『あけてくれ!』を観て、ああ本当はこういうの(SFジャンル)をやりたいんだな、と思いましたよ」と、『ウルトラQ』の初期製作作品を事前に観ることによって本来の方向性を知ったことを明かした。
飯島監督の『ウルトラQ』への参加はペンネーム・千束北男として第1話「ゴメスを倒せ!」と第26話「燃えろ栄光」の脚本を手がけたのが最初だった。「ゴメスを倒せ!」は凶暴なゴメスと華麗なリトラが対決を行うエピソードで、「燃えろ栄光」は周囲の温度変化に連動して身体の大きさが変わる怪獣ピーターが登場するエピソードだった。浦沢氏は「22歳くらいのとき、アシスタントをしていたプロダクションの人たちがみんな『ウルトラQ』のファンでした。そこで僕は『ピーター』というあだ名をつけられました(笑)」と、思いがけないところで飯島監督の脚本作品の話題につながり、笑顔を見せた。
浦沢氏に似ている(?)とされるピーターと、連戦連勝のボクサー・ダイナマイトジョーとの不思議な友情を描いた「燃えろ栄光」について飯島監督は「自分で監督する作品と、ただ脚本を書くだけの作品とは違うものなんです。『燃えろ栄光』のときは自由な発想で書いて、ピーターを周囲の温度変化に合わせて小さくなったり大きくなったりする設定にしました。さあ、どう(監督は)撮るのかなと期待してね(笑)」と、イマジネーションの限りを尽くした脚本作りに努めたことを明かした。
改めて『ウルトラQ』という作品の魅力を"作り手"の飯島監督と共に語りあった浦沢氏は「現在のテレビドラマは個別の年齢層にアピールするものが多く、昔のように家族そろって同じ番組を観る機会そのものが少なくなっているかもしれない。僕の描いた作品はできるだけ幅広い世代、より多くの人たちに読んでもらいたい。面白いものを"みんなで"楽しもうとする文化が、今後もっと増えていってほしいですね」と、一家そろってテレビを囲んで番組を楽しんでいた60年代文化を懐かしみつつ、未来のエンターテインメントの在り方についての意見を述べた。
そして、トークの終了間際に、『ウルトラQ』ファンにとってうれしいニュースが発表された。『ウルトラQ』の35mmフィルム・オリジナル原版を初めて「4K」リマスター化し、かつてない超高精細映像でよみがえらせた『ウルトラQ 4Kリマスター版』の放送が決定したというのである。12月2日よりNHK BS4Kで第1話「ゴメスを倒せ!」を先行放送し、12月5日より本放送を開始。4K放送を記念した特別番組『だれも見たことがない『ウルトラQ』スーパーハイビジョンでよみがえる伝説の特撮ドラマ』がBSプレミアムにて12月1日に、BS4Kにて12月2日に放送される。
フォトセッションに入る直前、『ウルトラQ』でレギュラーの江戸川由利子を演じた桜井浩子、そして戸川一平を演じた西條康彦がステージに現れ、浦沢氏と飯島監督に祝福の花束を贈呈した。
マイクを持った西條は「今回上映された『ウルトラQ』を、撮影していたあのころが懐かしいな~と思いながら観ていました。"2020年"まであと少しですが、ここまで引っ張ることのできた『ウルトラQ』はすごいんだなあと、出演したほうとしてはビックリしています。『ウルトラQ』を撮っていたころは、経済でも映像の世界でも"転換期"を迎えていました。そんな中で仕事ができたこと、そしていい監督たちに出会えたことに心から感謝しています!」と、当時の一平と変わらない朗らかさでコメントを残した。
桜井は「こんな大きな画面で『ウルトラQ』を観るのは、私たちにとっても初めてのことで、すごく楽しかったです。これからもたくさんの場所で上映イベントがあるということですので、みなさんどんどんいらしてくださって『ウルトラQ』およびウルトラマンシリーズを好きになっていただければうれしいです」と、こちらも"由利ちゃん"の印象そのままのチャーミングな笑顔と共にあいさつした。
桜井、西條を交えて行なわれたフォトセッションでは、熱心な『ウルトラQ』ファンの男性から差し出された「星川航空」のキャップを西條が被り、最高の画作りが決まった。西條は「劇中で一平が帽子のつばをナナメにして被るのを、子どもたちが"一平かぶり"と呼んでマネしていたんだよ」と、懐かしそうに『ウルトラQ』放送当時のことを思い出していた。
浦沢氏は最後のあいさつで「改めて『ウルトラQ』は自分の人生にものすごく影響を与えてくれた作品だと思いました。これからも次の世代に向けて、『ウルトラQ』的な作品を作り、あのころの僕のような年齢の子どもたちが影響を受けてくれたらいいなと思っています」と語り、かつての自分が『ウルトラQ』に受けたような、子どもたちへの刺激となるエンターテインメント作品の誕生を切望した。
飯島監督は「私はすでに次の世代へバトンを渡したほうなんですけれど、若い方たちが頑張って良い作品を作ることに期待しています。そして、良い作品を生み出すことのできる"環境"を、ぜひみなさんに作っていただきたいです」と、過去作から多くのことを学び、先達からバトンを託された若い世代がぞんぶんに活躍することのできる環境作りが大切だと語った。
大盛況のうちにエンディングを迎えた今回のトーク&上映イベント、その「第2弾」が早々と決定した。次回は2019年2月16日の開催となり、上映作品は『ウルトラQ』第16話「ガラモンの逆襲」が選ばれた。『ウルトラQ』屈指の人気怪獣ガラモンが二度目の登場を果たし、東京の街を破壊しつくすという迫力満点の怪獣スペクタクルを、ぜひ多くの方々にご覧いただきたいところだ。
(C)円谷プロ