まさかの「最速対決」、一騎打ちで室屋選手敗退

ラウンド・オブ8は室屋選手のフライトから始まった。「ラウンド・オブ14はリズムよく飛べた。同じように飛んで、垂直ターンで少し強く回る」と説明した室屋選手はその言葉通りスムーズに飛行し、これまでの全選手の中で最も速い52.519秒を記録。コックピットで声を上げてガッツポーズを見せた。

  • 室屋選手

    超大型スクリーンの前を飛びぬける室屋選手。この日の最速記録を塗り替えるタイムに、まさかの逆転劇が待っていた (c) RedbullContentPool

ところが、対戦相手のチャンブリス選手は室屋選手よりわずかに遅いペースでスタートした後、最初の垂直ターンの頂点から横にひねるように急降下し、室屋選手より一気に0.5秒も短縮。そのままペースを保って51.984秒という驚異的タイムで室屋選手を下してしまったのだ。この対決でのチャンブリス選手と室屋選手のタイムは、この後のフライトを含む全記録のなかで1位と2位。対戦相手がチャンブリス選手のこのフライトでさえなければ室屋選手は勝てていたのだから、あまりにもアンラッキーと言うしかないが、これが「一騎打ち」のレッドブルエアレースだ。

  • グーリアン選手

    地元アメリカのグーリアン選手、ランキング首位でチャンピオンも期待されたが、ラウンド・オブ8で敗退し年間ランキングは3位に終わった (c) RedbullContentPool

室屋選手もこれには「今回は非常に満足いくフライトができましたが、カービーが信じられないようなスーパーラップ(記録)で飛んだので負けましたけど、良いクオリティのフライトができたので、良いレースだったと思います。風が(前日とは)完全に反対になって非常に難しい状況で、これをこなせるかはパイロットのクオリティにかかっているので、今日はうまくいったと思います」と、不運な敗戦ながらも満足な笑顔を見せた。

  • ホール選手

    ランキング3位のホール選手はファイナル4へ進出、ソンカ選手との直接対決に臨んだ (c) RedbullContentPool

このほかラウンド・オブ8では、年間ポイント首位のグーリアン選手と2位のソンカ選手が直接対決し、グーリアン選手が4秒のペナルティを受けて敗退。年間3位のホール選手はファン・ベラルデ選手(スペイン)に勝利したため、年間チャンピオンはソンカ選手とホール選手の決勝での順位で決まることになった。また今年初参戦のルーキー、ベン・マーフィー選手が年間4位のブラジョー選手に勝利し、前大会に続いて2回目となる決勝進出を果たした。

堂々のパーフェクトフライト、ソンカ選手がチャンピオンに

決勝のファイナル4は、4選手が順にフライトしてタイムで順位を決定する。ホール選手は先に飛んだグーリアン選手、マーフィー選手に1秒以上の差をつけてトップに立ち、最後のソンカ選手の結果で年間チャンピオンが決まることになった。

昨年の最終戦でもソンカ選手はファイナル4の最後にフライトしたが、好タイムを出せずに敗退して室屋選手の逆転チャンピオン奪取を許した。2年連続の屈辱は絶対に避けたいソンカ選手の、今年のファイナルフライトは集大成と呼ぶにふさわしい完璧な内容。中間ラップすべてでホール選手をリードし続け、堂々のゴールで今シーズン優勝と初の年間チャンピオンを勝ち取った。

  • ソンカ選手

    すべてのラップタイムでホール選手を上回る「完全勝利」だったソンカ選手のフライト (c) RedbullContentPool

ソンカ選手は今季8戦中4戦で優勝。これは昨年の室屋選手と同じ優勝回数だが、初戦と第2戦はエンジン不調で失格、第7戦もエンジン不調で敗退。第3戦は3位なので、エンジン不調を除けば優勝4回と3位が1回という圧倒的な戦績だ。2戦連続失格という不運なスタートを切ったことを思えば、操縦技術のみならず驚異的なメンタルとも言えるだろう。

なお上位7選手の最終順位は以下の通りとなった。

  1. マルティン・ソンカ(チェコ) 80点
  2. マット・ホール(オーストラリア) 75点
  3. マイケル・グーリアン(アメリカ) 73点
  4. ミカ・ブラジョー(フランス) 41点
  5. 室屋義秀(日本) 40点
  6. カービー・チャンブリス(アメリカ) 34点
  7. ベン・マーフィー(イギリス) 29点
  • マーフィー選手

    ルーキーのマーフィー選手は第7戦に続いて2大会連続の4位、年間ランキングも7位と大健闘 (c) RedbullContentPool

  • ソンカ選手とホール選手

    優勝したソンカ選手(右)を出迎える2位のホール選手(左)。年間順位も同じく首位と2位になった (c) RedbullContentPool

  • ソンカ選手

    テキサスにちなんでカウボーイハットをかぶり、愛妻の祝福を受けるソンカ選手 (c) RedbullContentPool

  • 表彰式

    今大会の上位3選手の表彰式。ソンカ選手(中)、ホール選手(左)に続いて地元アメリカのチャンブリス選手が3位に入賞した (c) RedbullContentPool

  • グーリアン選手

    年間ランキングの表彰式では首位と2位は同じ顔触れで、3位は惜しくも首位から下がった、やはり地元アメリカのグーリアン選手(右) (c) RedbullContentPool

最速の機体を操るチャレンジ、2019年へ

一方の室屋選手だが、昨年4大会優勝しての初チャンピオンから一転して、今年は1戦も優勝することができず、表彰台も2回にとどまった。

「今年は難しいシーズンだったと思います。レースを展開していくリズムがうまく取れなかった。ただ、機体のセットアップは良いし、2019年へ向けて良い仕上がりになっているので、来年は丁寧にひとつずつポイントを積み重ねて行ければ良いと思います」

そう室屋選手自身が語るように、各大会のタイムを見る限りは決して悪い成績ではなかった。ただ、今年は主翼の先端の小さな跳ね上げ「ウィングレット」を取り付ける改良を2回行ったのをはじめ、ほぼ毎回のように機体の改良を行っており、そのたびに機体性能の変化に慣れる必要があっただろう。中でも地元日本での開催である第3戦千葉大会では、空気抵抗を減らす代わりに安定性が低くなる小型垂直尾翼を導入したものの、予選のあと急遽従来の尾翼に戻し、本戦ではわずかな操縦のずれから失格するという痛恨の結果になった。

シーズン開幕前、室屋選手は「我々はチャレンジし続ける」と語った。その言葉通り機体改良に取り組んだ1年だったが、操縦フィーリングが変わる機体改良を繰り返しながら、完璧なフライトを続けるのは困難を極めたのだろう。だが、室屋選手の愛機は今大会でも全選手中最速クラスのタイムを出しており、そのポテンシャルは充分に高い。「時速370kmのモンスターマシン」を操るレッドブルエアレースのチャンピオン奪還へ向けて、室屋選手のチャレンジは来年も続く。

  • 室屋選手
  • 室屋選手
  • まさかの敗戦も、満足できるフライト内容に笑顔を見せた室屋選手。最速の機体を乗りこなし、再びチャンピオンを目指す挑戦が始まる (c) RedbullContentPool