インターネットニュース配信サービスの「Yahoo!ニュース」と、書店員が勧めたい本を投票で決める「本屋大賞」が連携して実施する「Yahoo!ニュース | 本屋大賞 ノンフィクション本大賞」。記念すべき第1回の大賞に、作家で冒険家・角幡唯介氏の『極夜行』(文藝春秋)が選ばれた。8日の発表会では受賞スピーチのほか同社取締役会長・宮坂学氏とのトークセッションも行われ、多くの人にとって欠かせないツールとなっている「スマホ」も話題に上がった。
冬の北極で太陽が昇らない「極夜」。角幡氏は暗闇の中で4カ月間を一匹の犬と共に探検し、現代人が忘れつつある闇や太陽の原初体験を試みた。『極夜行』には、生死を懸けた単独行の過酷さと共に、「未知の世界」に身を投じた角幡氏の心の動きが克明につづられている。
探検や冒険の本質とは何か。「地理的な未知はほとんどない」と見つめる現代で、角幡氏は「地図」を「僕らの空間認識を可視化したメディア」と捉え、「その外側に行くのが探検。自分たちを作り上げているシステムの外側に行くことに等しい」と結論付ける。『極夜行』は、角幡氏にとって「脱システム」の冒険記だ。
トークセッションでは実生活にまで話が及び、「人間は自由。やりたいことを追求する権利がある」と主張する一方、「自分がバカなんじゃないかと思うことがある」と自嘲して笑いを誘う場面も。“失敗”を避けるためにレビューや口コミを調べてから消費行動に移る人が大多数であることを、角幡氏も実感しているようだ。
「うちの奥さんも何か買う時に当然調べるわけですよ。僕は調べないから失敗したりするんですが、『なぜ調べなかったの?』と怒られて。自分はバカなんじゃないかという気がしてくるんですよ。そういうのが嫌で、みんな(スマホを)使うと思う。便利というのもありますが、周りが使っていると染まっていくというか。使ってないのはおかしいですから」
そう語る角幡氏は、当然ナビにも頼らない。「カーナビも使ってないのでよく迷うんですよね。方向音痴ですから。東京に学生の時から20年ぐらい住んでますけど、いまだに池袋駅とかちゃんと歩けない。それぐらい方向音痴なんですよね」と打ち明け、「『これがあるのに使わないのって無意味じゃない?』という圧力を受けると、『そうだよね。じゃあ使おう』となる。それがシステムですよ。気合いを入れないと外側には出られない」と断言。「妻とケンカをしてもカーナビは使わない」と胸を張り、再び笑いをとった。
「肩肘張らないで素直に生きていていいんじゃないか」と穏やかな表情で訴え、「イヌイットは旅するときもGPS使いますからね。村人と連絡とるのはFacebookがいちばんいいんですよ。僕はFacebookをやってませんから連絡とれないんですよね」と探検の逸話を明かす角幡氏。現地の人からは「衛星電話持ってるのか? GPS持ってるのか?」と心配されることから、実際には所持していないが「持ってる」と言い張り「未知の世界」に赴くという。それも角幡氏にとっての「脱システム」だ。