夫婦とにも仕事と家庭で多忙な毎日を過ごすことが多くなった昨今、子どもを望んでから授かるまでに、医療や専門家のサポートが必要になる可能性は誰もが持っていることかもしれません。厚生労働省の資料によると、5.5組に1組は不妊の検査や治療を受けたことがある(または受けている)とのこと。

不妊治療は精神的・肉体的な負担も大きいと聞きますが、経済的な負担も大きくて治療を断念する人もいるようです。治療にいくらかかるかは個人差がありますが、ある程度の経済的な予備知識は持っておきたいところです。

いつまで続くかわからない不妊治療

不妊治療は、妊娠・出産するまで、あるいは治療をやめる決断をするまで続くもの。治療を始めてすぐに妊娠する場合もあれば、何年も治療を続けている場合もあるようです。不妊に悩む人をサポートするNPO団体Fine(ファイン)が2017年に実施したアンケート調査「仕事と不妊治療の両立に関するアンケートPart 2」によると、治療期間は1年未満から10年以上と幅広く分かれています。

不妊治療には健康保険が使えるものと使えないものがある

治療回数を重ねるごとにそれだけ費用がかかってしまうことは想像できますが、治療法によってもかかる費用に差が出ます。というのも、治療法によって健康保険が適用になるものと、ならないものがあるのです。

ひとくちに不妊といっても原因はさまざまです。女性・男性のどちらかに原因がある場合もあれば、まったく原因を特定できない場合もあります。検査によって原因である疾患を特定できれば、その原因である疾患を治療することになり、健康保険が適用されます。例えば、男性不妊の場合では精索静脈瘤など。女性不妊の場合では排卵障害に対する治療などがあります。

ところが、女性・男性とも身体的に問題が認められないのになかなか妊娠に至らないというように、原因が見当たらない場合には人工授精や体外受精(顕微授精)を行うことがあります。この場合には健康保険は適用されません。

一般的な不妊治療の種類と費用

一般的な不妊治療といわれるいくつかの治療方法と、1周期(月経から次の月経まで)当たりの金額をまとめると次のようになります。

  • 一般的な不妊治療の種類と費用 (注: 厚生労働省リーフレット「仕事と不妊治療の両立に支援のために」およびNPO法人Fine「不妊治療の経済的負担に関するアンケートPart2」を元に筆者が作成)

不妊治療を経験したという人の話を聞くことがありますが、費用は数万円という人もいれば100万円以上かけているという人もいます。どの治療を何回行うかによっても大きく変動するものですが、保険が適用されない治療の場合は自由診療であることも忘れてはいけません。クリニック・病院によって個別に料金設定をしている部分も多いですから、各都道府県の不妊相談センターで診療機関などの情報提供を受けてみるのもいいでしょう。

知っておきたい不妊治療の公的助成

特定不妊治療といわれる「体外受精」と「顕微授精」については国の助成金を受けられる場合があります。助成金額は、1回の治療につき15万円まで(初回の治療に限り30万円まで)、凍結胚移植は7.5万円まで。保険がきかず高額になる不妊治療ですから、助成金が受けられるのは心強いでしょう。

ただし、助成金が支給されるには次の条件を満たしていなければなりません。

・自治体の指定を受けた医療機関で特定不妊治療を受けていること
・夫婦合算で年間所得が730万円までであること
・治療開始時の妻の年齢が43歳未満であること

なお、助成の回数には制限があり、妻の年齢が40歳未満の場合は通算6回まで、40歳以上43歳未満の場合は通算3回までとされています。

また、国の助成金の上乗せとして自治体独自の助成金制度を設けている場合もありますので確認してみましょう。

早いうちから準備したい妊活資金

本格的に治療に取り組むとなれば頻繁な通院が必要になることもあります。排卵周期に合わせた通院が求められ、事前に予定を決めておくことが難しいものです。治療そのものにも精神的・身体的な負担がかかると聞きますが、働く人にとって急な休暇の申し出、仕事の調整にさらなる精神的負担を感じるかもしれません。

不妊治療はデリケートな問題ですから、会社の誰にも言いにくく、仕事と治療の両立を難しく感じる人も多いようです。一方で、治療に専念すれば、子どもを授かる可能性が高まったり早まったりするかもしれませんが、収入が減る分、経済的な負担は高まってしまいます。

いくら必要かを特定するのは難しいものですが、安心して治療に取り組むためには、治療を始める時点ではまとまったお金がある状態にしておくことが望まれます。結婚資金や出産後の費用を貯める人は多いですが、妊活費用を貯めようと考える人はまだまだ少ないようです。結婚資金を貯めるのと同時進行で、妊活費用も準備していけば経済的な負担は免れることができるかもしれません。

一旦始まった妊活は、いつまで続くかわからないものです。実際に不妊かどうかという前に、早めの準備で安心して妊活に取り組めることを願っています。

※画像と本文は関係ありません

著者プロフィール: 續 恵美子

女性のためのお金の総合クリニック「エフピーウーマン」認定ライター/ファイナンシャルプランナー(CFP認定者)。生命保険会社で15年働いた後、FPとしての独立を夢みて退職。その矢先に縁あり南フランスに住むことに――。夢と仕事とお金の良好な関係を保つことの厳しさを自ら体験。生きるうえで大切な夢とお金のことを伝えることをミッションとして、マネー記事の執筆や家計相談などで活動中。