アラブ首長国連邦初の国産衛星「ハリーファサット」
ハリーファサット(KhalifaSat)は、アラブ首長国連邦(UAE)のドバイの政府宇宙機関であるMBRSC(Mohammed bin Rashid Space Centre)が開発した地球観測衛星で、ハリーファとは、UAE大統領のハリーファ・ビン・ザーイド・アール・ナヒヤーン氏の名前から取られている。
UAEは、2009年に「ドバイサット1」、また2013年に「ドバイサット2」といった小型の地球観測衛星をロシアのロケットで打ち上げ、運用を続けている。ハリーファサットはこれらに続く、同国にとって3機目の地球観測衛星となる。
ドバイサット1、2は韓国の衛星メーカー、サトレック・イニシアティブ(Satrec Initiative)が製造したものだったが、UAEに対して技術移転や人材教育が行われ、またUAEも衛星の製造・試験設備を建設するなど、衛星の国産化に向けた準備を進めていた。
ハリーファサットの開発は2013年から始まり、当初は韓国側で開発や製造が進められたものの、2015年ごろにUAEへ拠点が移っている。韓国側の協力は引き続き行われ、部品の一部も韓国から供給されているが、設計や開発はUAE側の専門家、エンジニアが中心となって行っており、国産化に向けたこれまでの取り組みが、実を結んだことを示している。
衛星には分解能0.7mの光学センサーが搭載されており、MBRSCでは「環境問題の解決、都市計画、都市管理に活用したい。また他国にもデータを提供し、自然災害に対する救助活動にも活用したい」としている。
打ち上げ時の質量は330kgの小型衛星で、設計寿命は5年が予定されている。
今回の打ち上げは、2015年にMBRSCが三菱重工に発注したもので、三菱重工とH-IIAにとっては通算3件目の商業打ち上げとなった。
また2016年には、これに続く形でMBRSCから火星探査機「アル・アマル(al-Amal)」の打ち上げも受注。打ち上げは2020年に予定されている。
4機の小型副衛星
今回の打ち上げでは、「いぶき2号」とハリーファサットの2機を搭載してもなお、ロケットの打ち上げ能力に余裕があったことから、東北大学などが開発した「DIWATA-2」、九州工業大学の「てんこう」、静岡大学の「Stars-AO」、そして愛知工科大学の「AUTcube2」の4機の小型衛星も搭載し、打ち上げられた。
「DIWATA-2」は、東北大学と北海道大学、そしてフィリピン科学技術省、フィリピン大学ディリマン校の4機関が共同開発した衛星で、フィリピンの国産衛星として造られた。
フィリピンは2014年に、4年かけて2機のフィリピン国産衛星を開発、打ち上げることを目的とした計画を立ち上げ、若手エンジニアや学生を東北大学と北海道大学に派遣。指導を受けつつ開発が始まった。2016年には1号機の「DIWATA-1」が完成し、国際宇宙ステーション(ISS)の日本実験棟「きぼう」から放出されている。ちなみにDIWATA(ディワタ)とは、フィリピン語で「妖精」を意味する。
その1号機に続くDIWATA-2は、1辺が50cmの立方体の形をしており、質量50kg。台風・気象の観測、雲の立体撮像、植生の観測、災害の監視などを目的とし、実用衛星としての活用を見込んでいるという。
九州工業大学の「てんこう」は、地球低軌道に存在する、さまざまなエネルギーレベルの放射線環境や磁束密度の測定や、各種炭素繊維熱可塑樹脂(CFRTP)の宇宙における劣化状況の観察、また全地球測位システム(GNSS)レシーバーやウルトラキャパシター(電気二重層コンデンサー)などの民生品が宇宙で使えるかどうかの実証といったミッションを行う。1辺が50cmの立方体の形をした衛星で、質量は約23kg。
静岡大学の「Stars-AO」は、超高感度カメラを搭載し、地上と同コスト・同頻度での天体写真撮影を目指すほか、超小型衛星と一般アマチュア無線局との通信を高速化・大容量化することを目指した、高速無線技術の実証をミッションとしている。寸法は約11cm×10cm×12cm、質量は約1.4kgの超小型衛星である。
愛知工科大学の「AUTcube2」は、主に4つのミッションを実施する。
1つ目は、衛星に搭載した高光度LEDの点滅させ、地上にメッセージを伝える実験。2つ目は、衛星の対向する二面に取り付けた魚眼レンズを使い、衛星の全方位の宇宙を撮影して地上に送る実験。3つ目は、1mW以下という超低電力の通信装置を使った、地上へのデータ送信実験。そして4つ目は、地上と衛星間、および衛星と衛星間での通信を行う周波数について、背景電波の環境(宇宙電磁環境)のレベルの測定である。
寸法は約11cm×11cm×12cm、質量は約1.6kgの超小型衛星である。
なお、当初の計画では、大阪工業大学の「プロイテレス衛星2号機」も搭載される予定だったが、衛星の開発が間に合わなかったことから搭載されなかった。
同衛星は一辺30cmの立方体で、電気推進エンジンの一種である「パルス・プラズマ・スラスター」を搭載。エンジンを噴射しながら飛行し、地球低軌道からの軌道降下を行うことを目指していた。同大学では「機動戦士ガンダムが背中のロケットエンジンを噴射し宇宙を自由に飛翔するシーンも夢ではない」としており、今後の完成と打ち上げの再挑戦に期待したい。
出典
・JAXA | H-IIAロケット40号機による温室効果ガス観測技術衛星2号「いぶき2号」(GOSAT-2)及び観測衛星「ハリーファサット(KhalifaSat)」の打上げ結果について
・JAXA | 温室効果ガス観測技術衛星2号「いぶき2号」(GOSAT-2)の衛星状態について
・平成30年度 ロケット打上げ計画書 温室効果ガス観測技術衛星2号機「いぶき2号」(GOSAT-2)/KhalifaSat/小型副衛星/H-IIAロケット40号機(H-IIA・F40)
・「いぶき2号」(GOSAT-2) | 人工衛星プロジェクト | JAXA 第一宇宙技術部門 サテライトナビゲーター
・Technical Specifications of KhalifaSat
著者プロフィール
鳥嶋真也(とりしま・しんや)宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関する取材、ニュースや論考の執筆、新聞やテレビ、ラジオでの解説などを行なっている。
著書に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)など。
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