今夏のワールドカップ・ロシア大会で眩い輝きを放った柴崎岳。西野ジャパンの攻撃を差配した正確無比な長短のパスは世界の注目を集め、大会後には女優の真野恵里菜と結婚。気持ちも新たに新シーズンに臨んだが、所属するラ・リーガ1部のヘタフェCFでは居場所を築けない試練に直面している。森保ジャパンに招集され、再び日の丸を背負った10月の国際親善試合シリーズで、苦悩と不完全燃焼の思い、そして新生日本代表をけん引する覚悟と決意を胸中に同居させる26歳の司令塔を追った。

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    柴崎岳

2シーズン目を迎えたヘタフェで直面している試練

いつもと変わらない淡々とした口調で、ちょっぴり苦笑いも浮かべながら、柴崎岳は所属するラ・リーガ1部のヘタフェCFにおける立ち位置に言及した。

「見たままじゃないですかね、はい。もちろん試合に関わるために改善しなければいけない部分もあるでしょうし、そこは自分として理解しているつもりです」

船出したばかりの森保ジャパンに招集され、今夏のワールドカップ・ロシア大会以来となる日本代表復帰を果たした10月シリーズにおけるひとコマ。司令塔が置かれた現状を、森保一監督も気にかけていた。

帰国していた時点で、2シーズン目を迎えたヘタフェでわずか2試合、合計で118分間しかピッチに立っていない。帰国直前の3試合はベンチにすら入れず、7月に結婚した女優の真野恵里菜さんとスタンドで観戦する姿がとらえられていた。

最後にプレーしたのは、後半17分から途中出場した9月16日のセビージャ戦までさかのぼる。身体的なコンディションだけでなく、試合勘を含めたメンタル的なそれにも不安が募ると言わざるを得ない。

「監督から求められていることを練習から表現していかなければいけないし、試合に出れば結果を求められる。そこはプロとして地道に、腐らずにやっていくしかない。同時に自分の強みも忘れることなく、バランスを見ながらプレーしていきたい。自分に対する信頼という部分は、揺るがないものがあるので」

柴崎自身も「比較的難しいシーズンを送っていると思う」と、ヘタフェで居場所を築けていない現実を素直に認めながらも、必死にファイティングポーズを取り続けている。

スペインではボランチに球際の強さを含めた守備力をまず求める。ヘタフェを率いるホセ・ボルダラス監督も然り。必然的に柴崎は[4-4-2]システムの2列目や最前線で勝負することを求められる。

しかし、サイドハーフでプレーするには縦へのスピードが、フォワードの一角ならば決定力が何よりも優先される。どちらのポジションでも、柴崎は中途半端な存在として指揮官の目に映っている。

再びスペインの地へ戻り、迎えた21日のラージョ・バジェカーノ戦。右サイドのMFフランシスコ・ポルティージョが出場停止となることを受けて、柴崎は4試合ぶりにベンチ入りを果たした。

しかし、先発にはディミトリ・フルキエが指名され、後半18分には両チーム無得点の均衡を破る先制ゴールも決める。5試合ぶりの勝利を、柴崎はベンチで見届けるしかなかった。

4年後のワールドカップ・カタール大会へ描く青写真

ヘタフェで試合に出られていない弊害は、日本代表戦のピッチにも少なからず影を落としていた。試合終了間際に投入された、12日のパナマ代表戦(デンカビッグスワンスタジアム)で試運転を済ませた柴崎は、16日のウグルアイ代表戦(埼玉スタジアム)のキックオフを告げる笛をピッチの上で聞いた。

ポジションはボランチ。コンビを組んだのは、7月下旬に移籍したシントトロイデンVVで新境地を開拓している遠藤航。ロシア大会で輝きを放ったポジションだが、柴崎自身は気持ちを新たにしていた。

「個人的には自分はボランチの選手だと思っていますし、僕のやりたいポジションはそこなので。ただ、ワールドカップとか、それ以前のパフォーマンスは個人的にはもう過去のことだと思っています。すべてを忘れて、代表選手としの立ち位置を一から築いていかなければいけないので」

ロシア大会では4試合すべてで先発し、正確無比な長短のパスを駆使しながら日本の攻撃を差配した。開幕前の芳しくなかった下馬評を覆す快進撃の原動力になりながら、特に攻撃面で手詰まり感も覚えていた。

2点のリードをひっくり返され、涙を飲んだベルギー代表との決勝トーナメント1回戦。高さのある選手、スピードのある選手を後半途中から投入してきた相手に対して、日本がピッチへ送り出した攻撃系の選手は本田圭佑(メルボルン・ビクトリー)だけだった。

「いろいろなタイプの選手が必要ということと、さまざまな状況に高いレベルで対応できる選手が必要だというところで言えば、今の時期から競争力のある日本代表チームを作り上げていかないといけない。ワールドカップのメンバーは23人ですけど、誰が出ても変わらないような、30人くらいのチームを作り上げなければいけない。交代選手も含めてさらに一丸となって戦わないと、ベスト16というところは突破できないのかな、と思っているので」

30歳で迎える次回のカタール大会へ向けて、柴崎は独自の青写真を描きながら森保ジャパンに合流した。中堅からベテランの域へさしかかる4年間へ、責任と自覚をより強めた跡が伝わってくる。

しかし、ロシア大会でベスト8に進出し、最新のFIFAランキングで5位につける強豪ウルグアイを撃破した直後に口を突いたのは反省の弁だった。

「自分としてはもっと、もっとできるかな、というレベルでした。(ヘタフェで)試合に出られていない部分の勘(の欠如)というものが、試合の中で多少はありました」

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ウルグアイ戦で顔をのぞかせた非凡なパスセンス

青山敏弘(サンフレッチェ広島)との交代で、ベンチに下がるまでの74分間。さまざまな感覚を必死にアジャストしていた中で、柴崎の「らしさ」が顔をのぞかせた場面もあった。

日本の1点リードで迎えた後半21分。ボールを前へ運ぼうとした相手選手を、敵陣の中央で遠藤と挟み込む形で止めた直後だった。こぼれ球を収めた柴崎が、すかさず鋭い縦パスを前線へ送る。

標的はペナルティーエリアの右角あたり。素早く反応した南野拓実(ザルツブルク)と堂安律(FCフローニンゲン)がちょっと交錯するも、こぼれ球に堂安が利き足の左足を一閃させる。

強烈なシュートを、3度のワールドカップに出場したウルグアイの守護神、フェルナンド・ムスレラ(ガラタサライ)も弾き返すのが精いっぱい。こぼれ球を南野が押し込んだ4点目が、結果的に決勝点となった。

「ワールドカップの時とは前線の選手たちのタイプが違うので、僕自身のプレーもちょっとずつ変えなければいけないと思っている。前線の選手たちは練習の段階から顔を出す回数や速く動き出す回数が非常に多いので、そういった意味ではパスを出しやすい感覚がある。僕自身が彼らにいいボールを供給して、気持ちよくプレーさせることができるかどうかをイメージしている」

新生日本代表の象徴となった2列目、23歳の南野、東京オリンピック世代でもある20歳の堂安、そして「10番」を託される24歳の中島翔哉(ポルティモネンセSC)の躍動感に触発されていたのだろう。

ボールを持てばドリブルなどの個人技で徹底的に仕掛ける「若手三銃士」のストロングポイントを引き出しながら、森保監督が求めるサッカーを柴崎はこんな言葉で具現化しようとしていた。

「ただ単にボールを保持するサッカーではない、と。まだ明確ではないですけど、イメージとしては縦にポゼッションしていく、ということ。その場その場で選手が判断して、ゴールにより近いプレーを選択していく。それができれば、日本の攻撃はよりダイナミックなものになるかな、と思っています」

ウルグアイ戦における4点目は、南野、堂安、そして柴崎が瞬時に縦へのイメージを共有した結果として生まれたものだった。非凡なパスセンスが、今も柴崎の中に力強く脈打っていることも証明された。

それを常に発揮するためには、所属クラブで常時ピッチに立ち続けるしかない。ヘタフェにおける現状を考えれば、来年1月の移籍市場で動くことも柴崎の選択肢に入ってくる。

■筆者プロフィール
藤江直人(ふじえ なおと)
日本代表やJリーグなどのサッカーをメインとして、各種スポーツを鋭意取材中のフリーランスのノンフィクションライター。1964年、東京都生まれ。早稲田大学第一文学部卒。スポーツ新聞記者時代は日本リーグ時代からカバーしたサッカーをはじめ、バルセロナ、アトランタの両夏季五輪、米ニューヨーク駐在員としてMLBを中心とするアメリカスポーツを幅広く取材。スポーツ雑誌編集などを経て2007年に独立し、現在に至る。Twitterのアカウントは「@GammoGooGoo」。