ホンダのスーパーカー「NSX」に改良モデルが登場した。「誰でも乗れるスーパーカー」として誕生した初代NSXの志を受け継ぎ、2017年に復活を遂げた2代目NSXだが、改良を経た「2019年モデル」では一体、何が変わったのか。
3つのモーターを積む「スーパースポーツ」
ホンダは2016年8月、いったんは生産を終了していた「NSX」を復活させると発表。2017年2月に2代目「NSX」を発売した。2代目は初代が提唱した「人間中心のスーパースポーツ」というコンセプトを継承しつつ、新たにホンダ独自の電動化技術である3モーターハイブリッドシステム「SPORT HYBRID SH-AWD」を採用。フロントに2つ、リアに1つのモーターを積むことで、エンジンだけでは到達できない高レベルなレスポンスとハンドリング性能を獲得できたとホンダは胸を張る。
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電動化の恩恵として、2代目NSXでは「クワイエットモード」というドライビングモードを選べる。モーターとバッテリーだけで電気自動車(EV)のように走れるモードで、例えば住宅街にある自宅の出入りなど、人の目(耳)を気にする状況でも静かに走ることが可能だ。このあたりも、NSXが「誰もが乗れるスーパーカー」であるゆえんなのかもしれない。
一体感向上を目指した改良、新色のオレンジも登場!
2019年モデルの開発責任者を務めた水上氏によると、今回はドライバーとクルマの一体感向上を狙い、「クルマの姿勢を整えること」「旋回の軌跡が美しいこと」「コントロールしやすいこと」といったポイントに着目して改良を行った。それらを実現するため、まずは足元から固めようとの考えから、2019年モデルでは新たに開発した専用チューニングのタイヤを採用。ハード面のみならず、各種制御システムのセッティングパラメータにも変更を加え、人間の操作に対する制御の介入の仕方も積極的に見直したという。
もう1つ、改良で見逃せないのはデザインの変更だ。「よりワイドに、より低く」を目指し、フロントグリルを従来のシルバーからボディの同系色に改めたほか、前後にあるメッシュパーツのグロス感を高めたり、マット仕上げだったカーボンパーツをグロス化したりすることで質感向上を狙った。ただ、デザインの変更で特筆すべきポイントは、何といっても鮮烈なオレンジ色が登場したことだろう。
水上氏の話によると、初代NSXの発表当初、ホンダには「誰もが乗れるスーパーカーってどうなの?」と否定的な声も寄せられたそう。しかし、この「誰もが乗れる」という部分こそ、全てのホンダ車に通底する同社の哲学なのだ。「どうしても、ハイパワーなクルマを動かすとなると運転は難しいんですが、ホンダのクルマ全般にいえることとして、パッと乗っても、前から乗っているクルマよりも(容易に)運転できて、それが楽しさに結びつくというところがあります。“その日から乗れてしまう”というのが、ホンダのクルマづくりです」。これが、水上氏によるホンダ哲学の解説である。
ホンダにとってNSXは「残したいクルマ」
発表から2年で改良を受けたNSXだが、最後に、その売れ行きを確認しておきたい。ホンダによると、これまでの受注台数は当初計画を上回る約400台に達しており、日本における登録台数で見ると、「2,000万円以上の2ドアラージクラス」というカテゴリーではナンバーワンのシェアを獲得しているという(2017年2月~2018年9月末登録累計、ホンダ調べ)。ちなみに、このカテゴリーにはメルセデス・ベンツ「AMG GT」、ランボルギーニ「ウラカン」、ポルシェ「911」(ただし、2,000万円以上するもの)などのクルマが存在するが、日本で売れる同カテゴリー車種の「3台に1台はNSX」(ホンダ広報)なのだそうだ。
もっとも、ホンダ広報も釘をさしていたことだが、こういうクルマは何万台と売れるわけでもないので、販売ボリュームで比べても、あまり意味がない。むしろブランドとして、個性を打ち出したり、ファンを増やしたりするのに大事な商品といえるだろう。クルマは電動化、自動化、シェアリングの普及などを経てコモディティ化していくとの見方があるが、NSXを眺めつつ「こういうクルマは、メーカーとしては残していきたいもの」と語った水上氏の言葉からは、そんな時代を前にしたホンダの覚悟のようなものを、勝手に感じ取ってしまった次第だ。
(藤田真吾)