10月13日、都内のベルサール新宿において、ワコム主催のクリエイティブセミナー「Wacom Creative Seminar 2018 - アーロン・ブレイズセッション」が行われました。ワコムは、液晶タブレット製品「Cintiq」シリーズをはじめ、プロから初心者まで幅広い層に向けた製品を販売。ユーザーを対象とした本セミナーには、アニメーションスタジオに所属するプロや関連教育の機関スタッフ、専門学校生など200名が集まりました。

プロのキャラクターデザイナーの技に触れる

この日のゲストは、キャラクターデザイナー兼アニメーション監督のアーロン・ブレイズ氏。約20年の間ウォルト・ディズニー・アニメーションスタジオでアニメーション作品を手がけ、現在も多数のアニメーション制作のプロジェクトに参加しているほか、世界中でアニメーション制作の教育活動や講演を行っています。

司会を務めるワコムの轟木保弘氏(エンタープライズエバンジェリスト)は、「アーロンさんのクリエーションの本質やエッセンスを学び、ぜひゲームやグラフィックなど幅広いデジタル作品の制作に活かしてください」と挨拶しました。

  • 元ウォルト・ディズニー・アニメーションスタジオでアニメーターとして活躍していたアーロン・ブレイズ氏によるセミナーが開催

セッション1では「キャラクター制作の心構えとデザインのコツ」を中心に説明。ディズニー時代は『美女と野獣』や『アラジン』、『ポカホンタス』、『ライオンキング』、『ムーラン』を制作、『ブラザーベア』では監督を手がけたアーロン氏。アニメーターとして初めて手がけた『アラジン』の虎・ラジャーや『ライオンキング』のライオン・ナラを例に、キャラクターデザインのポイントを解説しました。

「描く前のリサーチが一番重要です。まず台本を読み込んでどんなキャラクターか理解します。次に本物を見て研究し、動きや骨格を理解するのです。知識がつけばつくほど自分のキャラクターへと落とし込むことができます」

動物園でトラのスケッチを重ねて理解を深めたことだけでなく、『ライオンキング』では、ライオンの骨格に対する学びが後ろ姿まで破綻のないキャラクターを完成させたと解説。『ムーラン』のキャラクターでは、優れたアニメーターには複数のスタイルを描く柔軟性や一定のタッチの中で個性を出す力も必要だと紹介しました。

さらにデジタルツールの導入によるキャラクターデザインへの影響を、表現手法の拡大、加工技術や写真合成も含めた世界感まで描けるようになったと説明。写実系からカートゥーン系、ファンタジー系のクリーチャーデザインと幅広いタッチが可能になったと語りました。

  • 「デジタルで表現の可能性が広がった」という作品『SHRIMPY THE WHALE』(未公開)。ファンタジー系のクリーチャーデザインにもストーリーや意味を持たせてデザインする

また、現在の描画技術の基礎が、アニメーターになる前から描いていた動物の油彩画にあると説明。キャラクターデザインと異なると思われる油彩画も光と影の捉え方や動物の身体構造を把握する力が重要であり、ツールやメディアが異なっても活かせる点や、むしろ相互の創造性を高めることができると提言しました。

制作中にも質疑応答を受け付け、キャラクターのヒントを募るなど参加者との対話を重視していたアーロン氏。「講演中でもどんどん質問してください、日本の皆さんは礼儀正しいから」と笑いを交えて進めました。

即興でキャラクターをデザイン!

後半のデモンストレーションでは、動物の種類や年齢、性格、頭のよさ、喜怒哀楽など、会場から募った要素を元に即興でキャラクターを制作。

「アニメーションでも立体性や骨格を意識します。頬骨の出っ張り、眼や鼻など骨のない部分の凹みを落とし込むと信憑性が生まれ、共感できるキャラクターになります」

大小、丸と直線などのコントラストを意識した「バランスの悪い形をつくる」など、デザインの基本を織り交ぜ、大胆な再考も重ねてラフを制作。身体や筋肉の動きやコントラスト、個性の出し方を意識して描き込み、さらにバランスをより崩すために反転して視点を変えたり、動きを加えたりと調整を加えます。「動物を描く上で難しい点」や「動物の生態はキャラクター作りに反映されるか」など、受講者からの質問にその場で描きながら回答する鮮やかさには驚かされるばかり。

そしてローカルカラー(光や影をつけない地色)や、2方向からの光源を意識した影と光、ハイライトへと着色を進めると、立体感や質感が強まります。

流麗なデモンストレーションに、ブラシツールや多光源を意識した表現など描画技法への質問も。アーロン氏からは「最近は3Dアニメがを描くことも多いので実写的な光の当て方を意識している」という光源の話から、多数のカスタムブラシが用意されているなかで、線画用と羽根や水面などの表現に利用するテクスチャ・質感のあるブラシの2種類を主に使っているという秘密などが明かされ、その膨大な数に驚きの声が上がっていました。

また指先ツールを選択してエアブラシを使って周りをぼかしたり、覆い焼きツールを使ったりすると、奥行きや細部の明るさなどの質感が一気に変化。その様子を逃すまいとカメラで収める受講者が多くいました。

世界トップレベルクリエイターに質問!

ワコム製品を使って15年、現在は「Cintiq 22HD」と「Wacom MobileStudio Pro」ユーザーだというアーロン氏にいま使っている制作ツールについて伺いました。

――デジタルのアニメーション制作においてワコムの液晶ペンタブレットはどのような影響がありましたか? また現在の使いごこちはいかがですか。

アーロン氏:以前は時代は紙とペンで描いていましたが、描く時の感触やレスポンス、フィーリングがまったく変わらなくてすごいと思いました。ですからデジタル制作に移行した時も非常に楽でした。紙の感触と近くてギャップが小さかったのは本当にありがたかった。今ではもうワコムの液晶ペンタブレットがないと困るほどです。

――Photoshopではたくさんのブラシなどを使われていますね。他のツールとの連携や使いやすさはどうですか?

アーロン氏:とてもスムーズです。ブラシをつくる時にも相性がいいですよ。既存の紙と鉛筆でやってきた作業は全部W液晶ペンタブレットに置き換えられますからね。Photoshopはもちろんですが、他のペインティングソフトやアニメーション制作用ソフト、例えばTVPaint Animationなども使いやすいです。

――Cintiqシリーズはどんな層におすすめですか?

アーロン氏:デジタルでのクリエイティブに真剣に取り組みたいプロから新たに学びたい若い世代まで幅広くおすすめです。私も使って15年になりますが、自分に投資したい人にお薦めのツールだと思いますよ。