では、こうしたクロレッツのプロモーションにおいてデジタルマーケティングはどのような位置づけにあるのだろうか。今の時代、ブランドコミュニケーションにおけるデジタルチャネルの役割は大きく、ペイドメディアでのプロモーションだけでなく、コンテンツマーケティング、SNSを活用したソーシャルメディアマーケティングなどその幅も広い。森氏によると、クロレッツでもこれまで、テレビなどのマス広告を補う存在として、オウンドメディアやYouTubeなどデジタルのチャネルが役割を果たしてきたという。

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しかし、森氏は「これからはガムの魅力やガムを噛むシチュエーションを提案するためにパーソナライズなどマス広告とは違うデジタルのアプローチを工夫しなければと感じている」としながらも、モンデリーズのメディア戦略ではブランドのロイヤリティを高めるよりも、ひとりでも多くの購入者を増やしていくことを重視しているのだという。

つまり、デジタルマーケティングで消費者のロイヤリティを高めたり、ブランドエンゲージメントを高めるために予算を投入するよりも、クロレッツのブランドイメージや訴求したいガムの本質的価値に対する認知を維持・拡大するために広告のリーチを確保した上で、街頭や店頭で商品を実際に試す機会を設けたり、小売店での売り場を強化したりすることで、購入機会を増やすことが大切だと考えているのだ。

「もちろん、SNSを使ったエンゲージメントやロイヤリティの醸成が重要なのは理解している。しかし、市場を活性化させるための投資の優先順位としては、いまガムを噛んでいない人にいかにリーチするかを考えることが重要だ。そのために、マス広告やデジタルチャネル、OOH(屋外メディア)を活用している。広告を通じてクロレッツのブランドイメージを認知してもらうMental Availabilityを醸成しながら、思い立ったときにクロレッツがすぐに手に入るPhysical Availabilityを作っていかなければ、競合する商品に負けてしまう」(森氏)

取材して印象的だったのは、チューインガム市場で世界2位というトップ企業が、市場の持続可能性に対して強い危機感を抱いているということだ。消費者の嗜好性が多様化し、消費者の細やかなニーズに応える商品が次々に市場に投入されるなか、自社の商品・ブランドを消費者に受け入れ続けてもらうために新たな文化や習慣の創出に挑戦し続けるというアプローチは、ガム市場だけでなくどの領域においても重要なことだと言えるだろう。

森氏は最後に「市場がこのまま縮小を続ければ、ブランドそのものの存続にも影響を与えかねない。市場をリードしていくトップブランドだからこそ、今の状況に対して自社のブランドのことだけでなく市場全体の活性化を考えていかなければならない」と今後に向けた抱負を語った。ガム市場の復活に挑む今後のモンデリーズの挑戦に注目したい。

  • 「消費回復のためには自社ブランドだけでなく市場全体の活性化を考えなければ」と森氏