Facebook傘下のVR HMDメーカーのOculusが自社イベント「Oculus Connect 5」で、同社の最新型VR HMDのOculus Questを発表した。
Oculusは昨年発表したOculus Goも好調で、従来のPCユーザー向けのVR HMD「Oculus Rift」では取り込めていなかったユーザー層の取り込みに成功している。それはなぜなのだろうか?
2つの種類があるVR HMD
VRを利用するために必要なハードウェアと言えば、言うまでもなくVR HMD(Virtual Reality Head Mount Display)だろう。VR HMDは、内部に2枚ないしは1枚のディスプレイパネルが入っており、被った人の目の前に来るレンズに投映することで、まるで人間に自分の周囲に仮想現実(VR)があるような視覚的錯覚を与え、高い没入感でコンテンツを楽しむことができる機器のことだ。
このVR HMD、外から見るとどれも同じゴツいメガネに見えるかもしれないが、実際には仕組みや構造などから2つの種類に分けることができる。1つは単体型で、もう1つがオールインワン型となる。
前者の代表例はHTCから販売されているVIVE(ヴァイブ)シリーズ、Oculus(オキュラス)から販売されているOculus Riftなどがこれに該当する。これらの単体型HMDは、それ自体はディスプレイになっており、そこにコンテンツを表示させるには、PCなどの外部コンピュータが必要になる。
そしてもう1つが、Oculusが先日発表したOculus Quest、そして現在も販売しているOculus Goのような製品。さらにはスマートフォンメーカーが販売していた、内部にスマートフォンをセットしてそのディスプレイを利用してコンテンツを表示する、Samsung ElectronicsのGearVRのような製品もこれに該当する。
こちらの特徴はVIVEシリーズやOculus Riftシリーズのような、外部にPCのようなコンピュータを必要としないこと。VRを楽しむのに必要なデバイスが、すべてVR HMDに内蔵されている形になる(だからオールインワンなのだ)。
単体型とオールインワン型、最大の違いは
シンプルにユーザーの視点でこの2つの方式の違いは何かと言えば、それはケーブルの有無だ。HTC VIVEやOculus Riftなどの単体型VR HMDでは、それ単体ではコンテンツを描画したりする機能を持っていないので、必ずPCなどのコンテンツを再生する機器を接続する必要がある。
また、こうした単体型VR HMDでは、ユーザーが装着しているHMDの位置を、外部におかれている赤外線のモーションセンサーで認識する必要がある。このため、センサーを設置する場所が必要になるほか、ユーザーが動ける位置はそのセンサーが感知できる範囲内という制限がある。
もう1つの制約は、利用するPCの性能が高い必要がある点だ。例えば、Oculus Riftの場合は、奨励環境ではPCにNVIDIAのGeForce GTX 1060ないしはAMD Radeon RX 480以上という、GPU(グラフィックスの描画を行なう半導体のこと)を搭載している必要がある。一般的なビジネス向けのPCでは、IntelのCPUなどに内蔵しているGPUしか内蔵していないことが多いため、そのままではVR HMD用のPCとしては利用することが難しい。そこで、PCもゲーミングPCと呼ばれる性能が高いGPUを搭載している必要があるのだ。
なぜそうした高性能なGPUが必要かと言うと、単体型VR HMDに内蔵されているディスプレイの解像度が高いからだ。例えば、HTC VIVEシリーズの最新製品となるHTC VIVE Proに内蔵されているディスプレイの解像度は2,880×1,600ドットになっており、リフレッシュレートと呼ばれる画面をリフレッシュするタイミングは90Hz(1秒間に90回)になっている。多大な数の画素数を1秒間に90回もリフレッシュするので、GPUにかかる演算量は膨大になってしまうため、高速なGPUが必要なのだ。
性能が足りないとどうなるかというと、リフレッシュする回数を減らしたり、描画しなければいけないところを端折ったりして対応するのだが、そうするとユーザーの目にはその端折ったところが不自然に感じたりして、いわゆる「VR酔い」と呼ばれる乗り物酔いと同じような症状が起きる可能性がある。それを避けるためにも、高性能なGPUを利用したPCは必須なのだ。
低価格なオールインワン型・Oculus Goが大人気に
そうした単体型HMDに対するオールインワン型のメリットは、PCや外部モーションセンサーといった外部機器と接続する必要がなく、そうした機能もすべてVR HMDの中に入っていることだ。多くのオールインワン型VR HMDはバッテリーも内蔵しており、すべてワイヤレスで利用することができる。
これまで、オールインワン型の多くは、スマートフォンを内部にセットしてそれをディスプレイや描画装置として使うという形になっていた。Samsung ElectronicsのGearVRがその代表例で、低コストにVR HMDを実現する方法として、コストパフォーマンスを重視する一般消費者に受け入れられてきた。
一歩進めて、最初からスマートフォン相当の機能を内蔵することはできないか?とソリューションを開発してきたのが、スマートフォン向けに半導体を提供している半導体メーカーのQualcommだ。Qualcommは数年前からそうしたソリューションを同社の顧客に対して提案してきた。それが実際の製品として発売されたのが、Oculus Goだ。
Oculus Goの特徴はオールインワン型のボディに低価格を実現できるLCDパネル、スマートフォンにも使われているQualcommのSnapdragon 821という半導体やバッテリーが内蔵されており、OSもAndroid OSベースとなっている。
つまり、スマートフォンの機能がそのままVR HMDになった、という点にある。かつ価格はストレージが32GBのモデルが2万3,800円(税別)、64GBのモデルが2万9,800円(同)という、従来のVR HMDに比べて圧倒的な低価格が実現されいる。
例えば、Oculus Riftを利用することを考えると、HMDだけで5万円(同)が必要で、さらにゲーミングPCのようなハイエンドの高価なPCが必要になる(多くの場合は10万円台後半~20万円台)。それに対して、上位モデルでも3万円を切った価格を実現したため、カジュアルユーザーやスマートフォンユーザーなどに大受けしてヒット商品になった。
Oculus Goのセンサーを高度化した新製品、来年発売
そして、そのOculus Goの上位版としてOculusが自社イベント「Oculus Connect 5」で発表したのが、Oculus Questだ。
Oculus Questは単体型VR HMDに採用されているような高解像度なディスプレイを採用しており、最大の違いはHMDの動きを検出する機能が、Oculus Goでの3DoFから、Oculus Questではより自由度の高い6DoFへと強化されていることだ。
非常に単純化して言うと、Oculus Goの3DoFではせいぜい頭の回転の程度の動きしか検出できないのに対して、Oculus Questの6DoFでは回転に加えて、傾きや前後左右の動きを検知することができる。これにより例えばVRのゲームをプレイするときに、動きの自由度が圧倒的に向上することになる。
Oculus Questではコンテンツを再生するための半導体も強化されている。Snapdragon 835というSnapdragon 821の1世代後の製品で、処理能力や描画性能が大きく向上している。ただし、ゲーミングPCに内蔵されているようなGPUに比べると性能は劣るため、コンテンツの再現力などではまだ差があるが、それはケーブルがないことの自由度とのトレードオフだと言えるだろう。
コンテンツの再現力などの点では単体型に譲るのは事実だが、ただHMDを被るだけで自由に仮想空間を動き回ることができるオールインワン型は、使い勝手の点でも、わかりやすさという意味でも、一般消費者には魅力的な商品と映る。
今後はOculus GoやOculus Questのようなオールインワン型VR HMDが普及していくことはほぼ間違いのない状況だと考えられている。今後は他社もそれを追いかけるような商品を投入しだして、本格的なVR時代がやってくることになるのではないだろうか。
(笠原一輝)