東京メトロ中野車両基地の空はすがすがしい。電化された多くの車両基地に見られるような架線がないからだ。東京メトロ丸ノ内線は第三軌条方式の路線である。報道公開が行われた10月11日はあいにくの曇り空だったものの、新型車両2000系は鮮やかな赤に大胆な「サインウェーブ」を装い、取材者たちを待ち構えていた。
国際都市「TOKYO」に活力を与えるデザイン
世界から多くの人が集まる国際都市・東京。その中でも東京メトロ丸ノ内線の走るエリアは、日本の政治・経済・文化の中心となっている。東京メトロは新型車両2000系を導入するにあたり、丸ノ内線のキーワードを「地上」「活気」「先進的」と位置づけ、その象徴として「グローイング・スカーレット(Glowing Scarlet)」を車体カラーに取り入れた。「グローイング」は「鮮やかな」「活力のある」といった意味を持つ。
そんな赤い車体にあしらわれた、先頭車の車体側面下部から斜めに上部へ向かい、そのまま中間車の車体側面上部を通る「サインウェーブ」。開業当時から活躍した300形にもデザインされた丸ノ内線のシンボルが、ホームドアの時代に合わせ、車体側面上部にあしらわれる形で採用されることになった。
一方、車体前面を見ると、丸ノ内線にちなみ「丸」を意識した黒い楕円状の形状となり、その上部に行先案内や列車番号、駅ナンバリングを同時に表示できるフルカラーLEDの表示器がセットされている。こうした斬新なデザインで、大都会「TOKYO」に活力を与えようというのが東京メトロの意図である。「見てあっと驚くデザイン。『丸』を取り入れたデザインが売りです」と東京メトロ車両部設計課の荻野智久氏は言う。
丸ノ内線の初代車両300形は、技術と赤い車体の鮮やかさで当時の最先端を行く画期的な車両となった。現行車両02系は乗り心地の向上や省エネ技術を投入して快適さを追求し、都会的なデザインの車両として現在も親しまれている。新型車両2000系は歴代車両が歩んだ路線を踏襲するだけでなく、一歩踏み込み、大胆さを提示する車両となった。
充実した車内設備、充電用のコンセントも
車内の一般座席は赤・黒を基調としたデザインであり、優先席では黄・黒をあしらっている。座席とドア部分の仕切りも「丸」を意識したデザインで、天井は高く、開放感のある車内空間となっている。
座席付近の吊り手は、かつて丸ノ内線300形でも使用されていた水滴型の「リコ式」を意識したデザインであり、これについて荻野氏は「車内の優雅さを出すため」と説明していた。ドア周辺などに設置された吊り手は丸型である。
車内には無料Wi-Fiだけでなく、携帯電話などを充電できるコンセントや荷物掛け、小テーブルも設置。荻野氏によれば、コンセントは「緊急時のための試験的なもの」だという。譲り合って利用してほしいとも話していた。
各ドア上部に設置された車内ディスプレイは17インチワイド液晶を3画面配置し、うち2画面を使って停車駅を多く表示しての案内なども行われる。日・英・中・韓の4言語を連続して表示することも可能で、訪日外国人を迎えるための体制を整えている。
座席数は02系と比べて減らしたとのことだが、その代わりにフリースペースを全車両に設け、車いす・ベビーカー利用者や大きなスーツケースを持ち歩く人に配慮した。「長い時間乗車している路線ではなく、頻繁に乗降りがある路線としての利便性を考えて」と荻野氏は言う。また、車内放送も高音質になった。日比谷線に導入された13000系と同じく、ステレオだ。荻野氏はその意図を「聞き取りやすく、さわやかに。毎日のように使うものなので、良い音質で」と説明した。
外観デザインと車内設備については、「メトロ独自さをアピールしたい。銀座線や丸ノ内線はとくにデザイン性を高くしています」と荻野氏。他路線への直通運転がない、第三軌条方式ならではの車両づくりをめざしたとのことだ。
技術力による安全性・快適性の向上も
新型車両2000系は目に見える部分だけが優れているのではない。まずは省エネルギー技術だ。駆動システムに永久磁石同期モーター(PMSM)を採用し、フルSiC(シリコンカーバイド)による高効率な制御装置により、02系VVVF車両に比べて約27%の消費電力削減を見込んでいるという。災害などで停電が発生し、駅間で停止した場合も最寄り駅まで走行できるように、非常走行用バッテリーも搭載した。
台車は銀座線1000系でも実績のある片軸操舵装置を採用し、カーブ通過時の振動・騒音を軽減。乗り心地を向上させている。車体はダブルスキン構造として強度を向上。アルミ材料の統一でリサイクル性も向上させるとともに、「丈夫で堅牢な車体にしました」と荻野氏は言う。前照灯はLED化され、省エネルギー性と視認性を両立させた。
車内情報管理装置(TIS)を「WiMAX2+」使用のイーサネット方式として情報伝送の速度と情報量を向上させ、列車の状態を監視したり、なにかあったりしたときの素早い対応を以前よりも行いやすくしたことも特徴に挙げられる。「ダイヤが乱れたときの遅延回復の余力を増やせますし、おかしなときにも地上で先手を打てます」と荻野氏はメリットを語る。万が一の脱線の際、すぐに非常ブレーキがかかる脱線検知装置も搭載した。
これらの安全性・快適性向上に関して、荻野氏は「大勢のお客様の輸送を安全・安心にできるように設計しました」と説明していた。
鮮烈なデザインに加え、高い技術力を惜しげもなく投入した丸ノ内線の新型車両2000系は、2019年2月中旬頃から営業運転を開始する予定だ。余談だが、報道公開が行われている間、中野車両基地のそばを地元園児らが通りがかり、真新しい車両を見て歓声を上げていた。こどもたちをはじめ、多くの人に待ち望まれる車両であることがうかがえた。
丸ノ内線の現行車両02系は1988(昭和63)年にデビューし、平成の時代に活躍した。一方で地下鉄サリン事件という、歴史上の事件の現場となった車両でもある。平成から新しい時代へと変わる時期に登場した新型車両2000系。どんな活躍を見せてくれるだろうか。