資生堂はこのほど、緊張などのストレスにより皮膚から特徴的な「ストレス臭」が発生することを発見したと発表した。このストレス臭は「ラーメンの上のネギ」のような臭いで、ストレス臭を感じると緊張などが加速する可能性があるという。

  • 資生堂はストレスにより発生する「ストレス臭」を発見したと発表した

    資生堂が「ストレス臭」に関するセミナーを開催した

20年以上にわたる資生堂による香りの研究

資生堂アドバンストリサーチセンターの佐藤潔センター長は、冒頭のあいさつにおいて「資生堂では基礎研究にもかなり力を入れているが、化粧品はきちんと研究をしていないという印象があり、その事実が意外と浸透していないのが現状。資生堂では20年以上にわたり香りの研究をしており、今回の発表はその成果」と述べた。

  • 資生堂アドバンスドリサーチセンターの佐藤潔センター長

    資生堂アドバンストリサーチセンターの佐藤潔センター長

資生堂はこれまでも「加齢臭」の発見など、においについての研究を長年にわたり行っており、今回の「ストレス臭」もその研究の過程から明らかになったという。

  • 資生堂ではさまざまな基礎研究などを行っており、実績を重ねてきた

    資生堂ではさまざまな基礎研究などを行っており、実績を重ねてきた

続いて、においがコミュニケーションに与える影響について、薬剤師でコミュニケーションカウンセラーの仲秋素志氏が解説を行った。仲秋氏は「パーソナルな空間は、人のにおいが届いてしまう距離。見た目も大きな印象の要素ではありますが、においの印象というのは見た目よりもより大きなインパクトを残すことがある」と話す。

  • 薬剤師でコミュニケーションカウンセラーの仲秋素志氏

    薬剤師でコミュニケーションカウンセラーの仲秋素志氏

嗅覚はほかの五感に比べて脳への伝達プロセスが短く、より印象に残りやすいためなのがその理由。そのうえで、「『ストレスがにおう』というのは大きな発見。私自身も驚いており、発表の内容が興味深いです」と締めくくり、ストレス臭に大きな興味を示していた。

ストレス臭は2種の硫黄化合物であることを特定

今回の発見に関する詳しい解説は、実際に研究に携わっている資生堂アドバンストリサーチセンターの勝山雅子研究員より行われた。

  • 資生堂アドバンスドリサーチセンターの勝山雅子研究員

    資生堂アドバンストリサーチセンターの勝山雅子研究員

ストレス臭の発見は「これは何のにおいだろう?」というところから研究が始まったと話す。もともと、体の中の状態が肌などに影響を与えると考え、体の中をモニタリングするための手段を常に研究していたという勝山研究員は、その過程で「皮膚ガス」に着目した。

皮膚ガスは体の状態によって皮膚から発生するガスを指し、血液採取などよりも平易に体の状態をモニタリングできるというもの。そこで、皮膚ガスのサンプルを採取したものの、非常に千差万別で一定の特徴がつかみにくいものだったという。

研究を進めていく中で、複数の研究員でサンプルのにおいを嗅ぎ、その印象を記述するという作業を行ったところ、別サンプルであるにも関わらず、同じ特徴的なにおいがしたことがあり、「これは何のにおいだろう?」と気になった とのこと。また、サンプルの印象は互いに見せ合わないように記述するのだが、複数の研究員が「ラーメンの上のネギ」という同じ印象を記述し、確かにそのにおいが存在することを確信したという。

あるとき、あまりに強くそのにおいがした被験者に体調などを尋ねたところ、「すごく緊張していて」と回答。白衣の人に電極を付けられたり、質問をされたりしてナーバスになっていたと明かされた。その後も、同じにおいがした別の被験者が何人も「緊張」という言葉を発したため、対人的なストレスとの関連に気づいたそうだ。

  • 緊張・ストレス状態にある被験者の皮膚ガスを採取したところ、40名全員からストレス臭を感じられた
  • 緊張・ストレス状態にある被験者の皮膚ガスを採取したところ、40名全員からストレス臭を感じられた
  • 緊張・ストレス状態にある被験者の皮膚ガスを採取したところ、40名全員からストレス臭を感じられた

その後、一定のストレス下において皮膚ガスを採取する実験を行うなど、研究を進めた。分析の結果、そのにおいが「ジメチルトリスルフィド」と「アリルメルカプタン」という硫黄化合物であることが判明し、この2成分を「STチオジメタン」と名付けた。STチオジメタンは運動などによる発汗などでは発生せず、心理的な変化によって生じることを確認しているとのこと。

会場ではストレス臭を体感できるように、ストレス臭のサンプルが用意された。筆者も嗅いでみると、確かにネギやタマネギのようなにおいが感じられた。このにおいを感じることで緊張や不安、混乱などの心理的な影響を引き起こすケースもあるとの説明もあった。

  • ストレス臭であるSTチオジメタンを実際にサンプルで体感し、STアンセンティッド技術により感じにくくなることも現場で実験された
  • ストレス臭であるSTチオジメタンを実際にサンプルで体感し、STアンセンティッド技術により感じにくくなることも現場で実験された
  • ストレス臭であるSTチオジメタンを実際にサンプルで体感し、STアンセンティッド技術により感じにくくなることも現場で実験された
  • ストレス臭であるSTチオジメタンを実際にサンプルで体感し、STアンセンティッド技術により感じにくくなることも現場で実験された

資生堂はSTチオジメタンに対し、「STアンセンティッド技術」と呼ばれる技術で対応。「STハーモナージュ香料」という香料でストレス臭を包みこみ、目立たなくするという技術だという。実際に、ストレス臭のサンプルにSTアンセンティッド技術を用いたスプレーをしたところ、ストレス臭を感じなくなった。

勝山研究員は「ストレス臭に対応することで、不要な緊張をすることがなくなり、プレゼンや会議、面接などの場がスムーズに進むようになるかもしれない。コミュニケーションを円滑にしていく技術になれば」と話した。資生堂は今後、2019年春ごろにストレス臭をケアする製品の展開を目指している。