先日開催されたフォトキナでライカ、シグマとともに3社でアライアンスを組み、フルサイズミラーレスカメラの規格「Lマウント」での協業を発表したパナソニック。Lマウントを採用するフルサイズミラーレスとして、4,700万画素の「LUMIX S1R」と、2,400万画素の「LUMIX S1」の開発も表明しました。
Lマウントでの3社協業にいたるまでの経緯や、今回の協業にあたってのパナソニックの考えを、パナソニックでデジタルカメラの開発にあたるキーマン2名に取材しました。お話をお伺いしたのは、イメージングネットワーク事業部 マーチャンダイジング部 課長の坂本維賢さんと、同じくイメージングネットワーク事業部 商品企画部 課長の伏塚浩明さんの2名です。
当初は、マウントの独自開発も検討していた
――今回のLマウントのアライアンスは3社共同となりましたが、ライカの既存マウントを採用した技術的なメリットは何なのですか?
伏塚:Lマウントは、フルサイズセンサーに見合う大口径であり、かつショートフランジバックで光学設計の自由度が高いということが挙げられます。
――パナソニックさんほどの経験と技術力があるメーカーであれば、新しいマウントを1から起こすことも可能だったのでは?
伏塚:どれぐらいのマウント径やフランジバックがベストなのかを社内で吟味しつつ、ライカさんをはじめ他社マウントを比較検討してきました。その結果、独自マウントを採用してレンズのラインアップを単独で増やしていくよりも、ライカさんがこれまでに用意しているレンズも含めてより多くのレンズを最初から提供できるほうがユーザーにとって好ましいと考え、Lマウントを採用することにしました。
――そもそも、なぜこのタイミングでフルサイズ参入を発表する運びになったのでしょうか?
伏塚:もともと、フルサイズの構想は2010年ごろから進めていました。事業的にやれる・やれないといった判断を続けていくなかで、4年ほど前から具体的な構想を練り出しました。協業の話は2年ほど前から進めてきて、発表が結果的にこのフォトキナのタイミングとなりました。
なぜ、キヤノンさんやニコンさんとほぼ一緒のタイミングになったのか、ということはみなさんが疑問に思われる点だと思います。これについては、本当に偶然としか言えないんです。キヤノンさんやニコンさんも、フルサイズへの流れを感じ取られて準備を始め、できあがったのがたまたまこのタイミングで重なったのだと思います。
マイクロフォーサーズは“使い分け”してほしい
――マイクロフォーサーズは、使い勝手と性能のバランスが優れた規格だと考えています。今回のLマウントでは、マイクロフォーサーズからの上位互換については考えなかったのでしょうか?
伏塚:その点については、社内でも十分に議論を重ねてきました。マイクロフォーサーズは、機動性の高さや高速レスポンスなどで優位性があり、そういった部分はほかの規格に負けていないと感じています。ただ、高画質や高感度を追求していくと、やはり大きいマウントや大型のセンサーを選択するのがベターという結論になりました。もちろん、それぞれに得意ジャンルやメリットがあるので、あくまでも“切り離し”ではなく“使い分け”だと思っています。
今回、これまでにない明るさを持つ広角ズームレンズ「LEICA DG VARIO-SUMMILUX 10-25mm F1.7」を同時に発表したように、マイクロフォーサーズならではのメリットを生かせるボディやレンズの開発は続けていきます。両方を使い分けて楽しんでいただけるシステムにしていきたいですね。
これまで、オリンパスさんとマイクロフォーサーズの世界を広げていき、40本以上のレンズをラインアップするまでになりました。今後も、既存レンズのリニューアルを含め、特徴のあるレンズを出したいと思っています。マイクロフォーサーズを捨てるということはまったくなく、オリンパスさんと一緒にこれからも盛り上げていきます。
欧州のディーラーと話をしていても、マイクロフォーサーズとフルサイズの2つのシステムはバランスがいいと評価いただいています。相互に互換性はありませんが、それぞれの特徴や得意分野がとても分かりやすい。APS-Cとフルサイズの組み合わせよりも、2つのシステムが近すぎないんですね。このあたりの使い分けのメリットをもっとアピールできたら、と思っています。
マイクロフォーサーズのお客様は、我々のカメラ事業を支えてきてくださった大切な方たちばかりです。これからも、みなさまの期待に応えていきたいと思っています。
――Lマウントとマイクロフォーサーズでレンズの互換性はないことは分かりましたが、フラッシュは?
伏塚:フラッシュは、当社のマイクロフォーサーズとLマウントで互換性があります。
――記録メディアは、SDに加えてなぜXQDにしたのですか?
伏塚:プロのみなさんに話を聞くと、連写枚数が多くてバッファフルにならないカメラが必要だ、という意見をずっといただいていました。フルサイズで画質を追求していくとデータ量が多くなりますし、処理速度もネックになってきます。そこで、XQDの高速性が欠かせないと判断しました。
――バッファ詰まりを早く解消する高速カードとしての最適解が、現状ではXQDだったということですか?
伏塚:そうですね。将来的なことを見据えての判断でもあります。
協業してもお互いライバル、戦略や商品展開は共有しない
――Lマウントのカメラ、まずプロ向けのフラッグシップモデルからリリースするというのは、どういった戦略なのですか? キヤノンやニコンのフルサイズミラーレスは、ともに一般向けの中級モデルからのリリースとなりましたが。
伏塚:マイクロフォーサーズを10年以上展開してきて、最近はGH5、GH5S、G9 Proといったハイエンドモデルを中心に投入してきました。そのような状況で、ユーザーのみなさんからは「これまでにないもっと上の表現ができるカメラが欲しい」という声を多くいただきました。中途半端な画質や性能にしてしまうとみなさんの要求に応えられないのでは、新しいフォーマットをやるならば新しい価値を生み出せるものにしたい、と感じました。
LUMIXは、カメラのブランドとしてはまだまだ弱いと我々も感じています。まずプロの方に認めていただけないと強いブランドにはなれない、と思いますので、プロ向けモデルから入って新しい価値とブランドを作りたいと思っています。
――ライカとの協業となると、ライカブランドに遠慮して低価格モデルがリリースしにくくなる、といったことはありませんか?
伏塚:それはまったくないと断言します。お互いの戦略や商品ラインアップはそれぞれ独自に考えていますし、そのあたりの情報共有は一切ありません。
坂本:今回、ライカさんが発表されたLマウントレンズ3本や、シグマさんの新製品も我々はまったく知らなくて、フォトキナの会場で発表を聞いてびっくりしたほどです(笑)。
そういった意味では、協業はしているがお互いライバルでもあるんです。ですから、将来的には焦点距離やF値などがかぶるレンズが出てくる可能性は大いにあり得ます。私たちメーカーとしては、ある意味やっかいですが、ユーザーのみなさんにとっては面白い規格になるのではないかと思います。
――3社の間で「安いラインはA社で作り、高いラインはB社で作ろう」といった協業をすれば、お互いに無駄なくラインアップを拡充できるのでは?
坂本:そういったことは法律的にできないんです。もちろん、他社がどういったものを出してくるのかをシビアに予想して、こちらも優位性のある製品を企画します。言葉を選ばずにいえば、勝つための「ガチの戦い」ですね(笑)。
――では、パナソニックが発売するLマウントのカメラやレンズは、パナソニックならではの独自性や面白さを期待していいのですね。
おふたり:もちろんです!
――これは面白い展開になりそうですね。ありがとうございました!