ソフトバンクとトヨタ自動車は4日、モビリティ分野で提携し、共同で出資した新会社「MONET Technologies」を設立すると発表した。

新会社は、まずは国内における社会課題の解決などを目指すオンデマンドモビリティサービスを提供し、その後、グローバルにおける自動運転によるサービスを提供していく考えだ。

トヨタの豊田章男社長は、「自動車業界は100年に一度と言われる大変革の時代。車の概念が大きく変わり、競争相手もルールも大きく変化している。情報によって町とつながり、生活を支えるあらゆるモノと繋がって社会システムの一部になる」と、両社の提携の背景を語った。

ソフトバンクとトヨタ自動車が提携。ソフトバンクの孫正義社長(左)とトヨタ自動車の豊田章男社長

当初は日本が抱える社会課題に取り組む

新会社のMONETは、代表取締役社長兼CEOに、ソフトバンク副社長の宮川潤一氏が就任。副社長はトヨタ代表取締役兼COOの柴尾嘉秀氏が就く。出資比率はソフトバンクが50.25%、トヨタが49.75%だ。資本金は20億円で、将来的には100億円までの増資を計画している。事業開始は2018年度中を予定する。従業員は両社の出向者を中心に、当初は30人程度になるという。

MONETが当初想定するオンデマンドモビリティサービスは、スマートフォンアプリなどで呼び出した自動車で人を運ぶ配車サービスや、移動コンビニやフードデリバリーなど、「物」を運ぶといったサービスが想定される。

まずはオンデマンドモビリティサービスを開始
日本の課題解決に繋げたい考え
MONETの目指す社会
2020年以降にe-Palette構想に基づくサービスを展開する

こうしたサービスの背景には、日本が抱える社会課題がある。65歳以上の高齢者が人口の1/4を越え、買い物困難者は65歳以上で820万人、免許返納社が過去10年間で12倍、それでいて地方自治体などが運営するバス会社の83%が赤字となっているといった状況下で、交通弱者の救済や地域交通の課題解決を目指す。地方自治体とも連携し、地域の交通事業者や各種サービス事業者と協力してサービスを展開する。

本丸は自動運転の規制緩和

とはいえ、これはあくまで今後のサービス展開に向けた布石という位置づけだ。日本国内には自動運転に対する法規制が依然として残り、普及には規制緩和が必須となる。MONETはまず、社会課題の解決のために戦略特区も活用してサービス展開を図る。これによって、規制緩和を促していく考えだ。

2020年以降は、これにトヨタのe-Palette構想に基づく自動運転サービスの展開をグローバルで実施する。トヨタは、Autono-MaaSという造語を作って、自動運転とサービスを組み合わせたプラットフォームの提供を目指している。そのために、同社はライドシェアの米Uberや米Getaroundなどと提携しており、今後のサービス展開に向けた取り組みを強化している。

新会社が提供するのは、Autono-MaaSと呼ばれるプラットフォーム

そうした提携の中で、常に現れるのが、各社の筆頭株主として投資を強化するソフトバンクの存在だった。Uber以外にも、中国DiDiや東南アジアのGrab、OLAというライドシェア4社の筆頭株主で、その4社を合わせると取扱高は10兆円に達し、「世界のライドシェア市場の90%ぐらいのシェアを持っているのではないか」(ソフトバンク孫正義社長)という。

トヨタはなぜKDDIではなくソフトバンクと組んだ?

両社は、自動運転車はまず、Uberなどのライドシェア事業者の導入から始まるという認識で、そうした場合に開発するトヨタと各社筆頭株主のソフトバンクが「ビジョンを共有することが将来のモビリティサービスの構築には重要」(トヨタ・友山茂樹副社長)と判断し、トヨタから声をかける形で両社の提携にいたったという。まずは両社の若手社員からなるワーキングチームが検討を重ね、提携するという結論になったことを聞いた孫社長は「本当か」と驚いたほどだったという。

自動運転で重要なAIに注力するソフトバンクは、出資した会社にAIに強い企業も多く、トヨタのAutono-MaaSと親和性が高い。そうした点からも両社の提携によって、トヨタが目指すプラットフォームの実現を加速させていきたい考えだ。

トヨタのモビリティとソフトバンクのAIを組み合わせてプラットフォームの実現を加速させる

孫社長は「まだ頭の中(だけの構想)」と断りつつ、「MONETは、両社の提携による第1弾。これからさらに第2弾、第3弾の、より深い、広い提携が進むことを心から願っている」と強調。豊田社長は「まだ見ぬ未来のモビリティを実現する提携。ソフトバンクとトヨタ、両社が仲間とともに描くモビリティの未来に期待して欲しい」とアピールしている。

提携した両社の代表。一番左は新会社で社長となるソフトバンクの宮川潤一副社長。一番右はトヨタ自動車の友川茂樹副社長

なお、トヨタ自動車はソフトバンクと同じ通信会社のKDDIの大株主で、両社はグローバル通信プラットフォームの構築で提携している。ソフトバンクとの提携は、モビリティサービス分野での提携として、KDDIのネットワーク分野の提携とは重ならないという位置づけ。KDDIも、「グローバル通信プラットフォームについて何ら影響を与えるものではなく、引き続き両社密に連携し、グローバルな市場で販売されるほぼ全ての乗用車に対して高品質で安定した通信を確保することに取り組んでいく」とコメントしている。

(小山安博)