独ケルンで開催中の写真関連展示会「Photokina 2018」では、独Leica、パナソニック、シグマが発表したLマウントアライアンスが大きな話題となりました。このアライアンスは、3社がそれぞれの役割を果たすことで、マウントシステムの拡充を図るとしています。このアライアンスについて、シグマの山木和人社長に話を聞きました。
大口径マウント&ショートフランジバックはやはりメリットが大きい
――このアライアンス結成の経緯を教えて下さい。
シグマは、パナソニックとフォーサーズのころからの付き合いがありました。あるとき、パナソニックの方から「フルサイズをやりたい」とお声がけをいただいたんです。
実はそれ以前から、当社もショートフランジバックの新しいマウントでフルサイズミラーレスを作ることを決めていました。自分たちで新マウントをやるのもいいのですが、お客様がシグマのカメラだけに縛られてしまいます。他社と一緒にやることでお客様のベネフィットがあるということで、途中で戦略を切り替えました。これが2年ぐらい前です。
――フルサイズをやろうと考えていたのですね。
昔から、既存のFoveon搭載カメラのユーザーから「フルサイズが欲しい」という声はありました。sd Quattro HでAPS-Hセンサー搭載カメラを出したので、次はフルサイズでしょう、と。そういった要望を前からいただいていたのですが、ようやく機は熟したというか、やらなきゃいけないというか、そういう状況で決断した次第です。
――Foveonでフルサイズ、難しくはないのですか?
実際にセンサーの量産を始めてみないと何ともいえない面もありますが、すでに設計はできています。Foveonセンサーに限らず、フルサイズのセンサーを作ること自体に難しさがあります。他社がやっていますし、当社もチャレンジしようと思っています。
――歩留まりは大丈夫でしょうか。
その点はちょっと心配ではあります。それでも、このタイミングでフルサイズに行かなければいけないという判断で進めることにしました。
――ショートフランジバック、大口径マウントというのは、レンズ設計の自由度に影響をもたらすのですか?
大口径でフランジバックが短ければ、やはり光学設計の自由度は上がります。他社製品の話になりますが、例えばキヤノンが発表した28-70mm F2のレンズ(RF28-70mm F2 L USM)は、あのフランジバックと大口径があるからこそ実現できたと思います。
もっとも、そうではないマウントでの実現が不可能とは言い切れないですし、技術開発で何らかのソリューションは見つけられると思います。とはいえ、条件的にどちらが有利かというと、大きくて近いほうが有利なのは間違いないです。
――今回のフォトキナで発表したレンズは、既存のフルサイズ用やAPS-C用の交換レンズをLマウントとして出すというものでした。
もちろんそれだけではなく、新規設計のレンズをLマウントで出していきます。新しいレンズは、いろいろなタイプのレンズをバランスよく拡充していかないといけないと思っています。当社もレンズラインアップは多くないので、あまり偏ったラインアップにするのではなく、手堅いスペックのレンズもあれば、ちょっと面白いレンズもある、というようにバランスを取っていこうと思います。
――ボディに関しては、どんなスペックを想定してらっしゃるんでしょうか。
それに関しては、まだコメントできる状況にありません。
――Lマウントの仕様について、3社で決めるようなことはあるのでしょうか。
基本的に、ハードウエアの部分は既存のままで変わりません。その中でやりとりする信号とかデータとかをアップグレードする、といった拡張の余地はあると思っています。懐の深いレンズ交換式カメラのシステムにすべく、3社で話し合っていきます。
――Lマウントで動画撮影に強いカメラを作る、という方面は考えてらっしゃいますか。
Foveonセンサー自体は動画にすごく強いセンサーかといわれるとそうでもないので、基本的に力点は静止画に軸足を置いています。ライカがLマウントとPLマウントのアダプターを持っているので、動画に強いLマウントのカメラが出た場合に、PLマウントのシネマレンズをつけて使う、というのは十分あり得ると思います。
今回、パナソニックが発表した「LUMIX S1/S1R」は4K/60pで撮れるので、そこでPLマウントのシネマレンズを使いたい、という声が出ても不思議ではないと思います。
――ところで、フルサイズのFoveonセンサーをdp QuattroのようなLマウント以外のカメラに搭載する可能性はありますか?
将来の製品に関することなのでコメントはできませんが、可能性としてはゼロではありません。Lマウントだけのためのセンサーではありませんので。とはいえ、現在はLマウントカメラの開発に集中しているので、具体的に何か動いているというわけではありません。
――フルサイズになることで、画質面でどういったメリットがありますか。
新しいセンサーを作るにあたり、常に画質の改善に取り組んでいます。また、当社には14mmのF1.8(14mm F1.8 DG HSM)とか20mmのF1.4(20mm F1.4 DG HSM)、12-24mm(12-24mm F4 DG HSM)とか、ワイド側にエキゾチックなレンズがありますが、それをフルサイズで使うと12mmとか14mmの特徴が出ます。システムとしての魅力や完成度がより高まっていくと思います。
Lマウントのカメラはシグマらしい個性的な製品を少数出していく
――現在開発しているLマウントカメラのターゲットは決まっていますか。
まずは、既存のFoveonのカメラを使っていただいているお客様です。あとは、シグマのレンズ交換式カメラを使ってみたかったけど、SAマウントでは……と二の足を踏んでいたお客様がトライしてくれることを期待したいです。
ショートフランジバックになったことで、キヤノンEFマウントとLマウントのアダプターも投入する予定ですので、当社のキヤノン用レンズを持っているお客様はアダプター経由で使っていただけます。Foveonセンサーの描写に興味を持っているすべての方に使っていただければと思っています。
――ユーザー層は広がりそうですか。
もちろん期待はしていますが、お客様に使ってみたいと思わせるカメラを作っていくのが私たちのやるべきことかなと思っています。単に他社さんと組んだから自動的にお客様が来るとは思っていないので、それなりにいいものを作っていかないといけないとは思っています。
――ボディのラインナップはどうなるのでしょうか。
具体的な数は言えませんが、シグマは体力のある大きい会社ではないので、フルラインアップでそろえるのは難しいと考えています。当社の製品は、ラインアップは少ないけれどそれぞれに特徴があり、Lマウントシステムがリッチで豊かなシステムになるような位置づけになるのでは、と思っています。それが何種類になるかは分かりませんが、当面は全方位戦略とは違うやり方になると思います。
――マウント交換サービスも行いますね。今回のことは想定していたのでしょうか。
正直、ここまでは想定していませんでした。ただ、デジタルになって、システムを変えるお客様がすごく増えましたよね。昔は、愛用しているカメラのメーカーをかたくなに変えない人が多かったのですが、デジタルになって「気に入ったカメラが出たからシステムをまるごと中古屋に売って買い換える」という人が多くなりました。
それでも、なかには「このレンズの描写が気に入っている」といった理由で使い続けるというお客様も少なからずいます。レンズメーカーしかできないサービスは何かと考えたとき、愛着のあるレンズをそのまま新しいカメラで使ってもらうのはありだろう、ということで始めました。
――改めて、Lマウントシステムの魅力は何でしょうか。
三者三様というか、そこが面白みだと思います。ライカはライカ独自のモノ作りの哲学がありますし、パナソニックは求めていく路線やバックボーンがあります。当社は他社にはないユニークな部分が強みですし、それぞれがちょっとずつ違っている。横並びの発想で同じようなものを作っていくというのとはまったく違うアライアンスだと思います。今までにないようなシステムにできそうな気がするので、期待してください。
――ありがとうございました。