女優の永野芽郁がヒロインを務めるNHK連続テレビ小説『半分、青い。』(毎週月~土曜8:00~)が、いよいよ今月29日に最終回を迎える。このたび、全156回を書き終えた脚本家の北川悦吏子氏にインタビュー。全6回の短期連載として掲載する。

第3回は、ヒロイン・鈴愛を演じた永野芽郁について。取材会やインタビューで常に笑顔で明るく、10カ月という長期間の撮影も「あっという間に終わる気がしています」とポジティブ発言をしていた永野だが、実は眠れない日や泣いてしまう日もあったという。クランクアップ時にその苦悩を知り、北川氏は「苦しんでいる人がもう1人いたんだな」と感じたそうで、年は離れているが「同志だった」と永野への思いを明かす。

  • 『半分、青い。』北川悦吏子

    北川悦吏子氏

――ヒロイン・鈴愛を演じきった永野芽郁さんに対して、今どのように思っているかお聞かせください。

毎日出ているのは芽郁ちゃんだけで、毎日書いているのは私だけ。朝ドラはヒロインと作家が大変だと聞いていましたが、絶対そうだろうなと。私1人地獄だと思っていましたが、芽郁ちゃんも地獄だったらしくて。クランクアップ時のパーティーのスピーチで「笑えなくなった日もあったし、眠れなくなった日もあったし、泣いている日もあったし」と正直におっしゃって、私と同じように、もしくは若い分だけそれ以上に苦しんでいる人がもう1人いたんだなというのが率直な感想です。現場でよく寝ているからこの子はタフだってみんなが言っていたけど、やっぱりタフなだけではあの感受性豊かなお芝居はできない。彼女がどれだけ苦しかったろうと思うと、年齢は離れていますけど同志だったと思っています。

――永野さんの演技に関してはどう感じていますか?

朝ドラのヒロインというと、収録時間が長すぎてなんとなく表情が平になっていくのを恐れていたんですけど、彼女はそれがまったくなく、ずっと集中して芝居をしてくれました。私が一番心に残ったシーンは、漫画が描けなくなった鈴愛が、秋風先生に「見限ったのか」と言い、ユーコとボクテにもひどい言葉を吐くシーンで、好きというよりすごいなと。あのときの芽郁ちゃんの顔が忘れられないですね。私はト書きで「いっちゃってる顔」って書いたらしくて、芽郁ちゃんは「いっちゃってる顔を自分でしたのを見たことがないからどんな顔かわからない。でもやらなきゃと思った」と話していました。

この作品は、あまりにもクリエイターの話に寄りすぎたかな、個人的なことを書きすぎたかな、という心配がありましたが、それだけにものすごい熱をもって書けたし、熱をもって演じてもらった。自分が確信を持っていることを書いてよかったのかなと。ずっと迷いはありましたが、今思うとあの芽郁ちゃんのシーンは忘れられないものになっているから、見ている人たちにも何か訴えるものがあったのかなと思っています。

  • 『半分、青い。』永野芽郁

――鈴愛は小学3年生の時に片耳を失聴するも、家族や律に支えられて明るく成長していきました。その強さと弱さのバランスはどのように考えられていたのでしょうか?

あまりそこの計算はしてなくて、鈴愛という強いヒロインを書きたいなと。左耳を失聴したり、漫画家としての才能がなかったとしても、人は生きていきようがあるという強いメッセージが自分の中にあったので、それを体現する意味で鈴愛というヒロインが生まれました。

■プロフィール
北川悦吏子
1961年12月24日生まれ、岐阜県出身。脚本家・映画監督。1992年に『素顔のままで』で連続ドラマデビュー。主な作品に、社会現象となった『愛していると言ってくれ』『ロングバケーション』、そして、『ビューティフルライフ』、『オレンジデイズ』など。2009年には、映画の世界にも進出し、脚本監督作品に『ハルフウェイ』『新しい靴を買わなくちゃ』。また、エッセイや作詞などでも人気を集める。NHKでの執筆は、2016年ドラマ10『運命に、似た恋』が初。NHK連続テレビ小説『半分、青い。』が2作目となる。

北川悦吏子氏の写真=撮影:萩庭桂太 場面写真=(C)NHK