ANAホールディングス(ANAHD)と宇宙航空研究開発機構(JAXA)は9月6日、JAXA相模原キャンパスにて「AVATAR X」プログラムに関する記者発表会を開催した。遠隔ロボット"AVATAR"(アバター)の技術を開発し、将来は月面での活用なども目指すという。大分県に大規模な開発拠点を建設し、技術の実証実験と事業性の検証を行う計画。

  • 大分県に建設する「AVATAR X Lab@OITA」のイメージ

    大分県に建設する「AVATAR X Lab@OITA」のイメージ

  • 将来は月面でAVATARロボットが人間に代わって作業する?,A将来は月面でAVATARロボットが人間に代わって作業する?

アバター(AVATAR)とは何なのか?

AVATARというのは、一般的に自分の「分身」として使われる用語である。もし遠く離れた場所にロボットがあったとしても、ロボットからの映像を見て、音声をやり取りして、アーム操作ができたりすれば、まるで自分がその場所にいるかのような感覚になるだろう。つまり、ロボットが自分のAVATARになるわけだ。

  • ANAの考えるAVATARとは

    ANAの考えるAVATARとは

AVATARの実現には、ロボティクス、VR、AR、センサ、通信、ハプティクス(触覚)など、さまざまな技術が必要となる。世界の関心を集め、技術開発を促進するため、ANAHDはXPRIZE財団に提案して、賞金総額1,000万ドルの国際賞金レース「ANA AVATAR XPRIZE」を開始。早期の実用化を目指しているところだ。

ANAHDは、こうしたAVATAR技術を、「距離、身体、文化、時間、あらゆる制限を超える瞬間移動手段」と捉える。同社の片野坂真哉社長は、AVATAR技術について「医療、教育、観光、災害支援など、あらゆる分野での活用が期待される」と説明。「宇宙開発でも大きな力を発揮する」と、JAXAとの協力に期待した。

  • ANAHDの片野坂真哉社長

    ANAHDの片野坂真哉社長

今回、AVATAR Xプログラムで事業化を目指すのは、「宇宙空間における建設事業」「宇宙ステーションや宇宙ホテルなどの保守・運用事業」「宇宙空間におけるエンターテインメント」など。

  • アバター活用のイメージ
  • アバター活用のイメージ
  • アバター活用のイメージ
  • アバター活用のイメージ
  • アバター活用のイメージ
  • アバター活用のイメージ
  • アバター活用のイメージ
  • アバター活用のイメージ
  • アバター活用のイメージ

最初は地上での実証実験からスタート

まずは、地上での実証実験から開始する。大分県内に、月や火星の宇宙環境を模擬した技術実証フィールド「AVATAR X Lab@OITA」を建設。2019年より、実証実験を本格化する。そして2020年代の序盤に、地球低軌道での実証実験を実現し、将来は月面や火星まで展開していく考えだ。

  • 大分県の広瀬勝貞知事

    大分県の広瀬勝貞知事はビデオで出演

そのための第一歩として、コンソーシアムを立ち上げ、企業や団体と協力できる枠組みを構築する。片野坂社長は、初めて月面に降り立ったニール・アームストロング船長の有名なセリフをもじり「"That's one small step for mankind"だと思う」としつつ、「AVATAR Xを、世界へ、そして宇宙へとgiant leapしたい」と意気込みを述べた。

  • コンソーシアムに参加する企業や団体

    コンソーシアムに参加する企業や団体

アバターで月面基地を建設?

この技術には、JAXAも注目する。記者発表会に同席したJAXAの山川宏 理事長は、AVATAR技術について「人間がその場に行くことが困難な状況で力を発揮する。宇宙との親和性は高い」と指摘。「実現すれば、地上にいながらAVATARで月面基地を建設できる。月面を始めとした宇宙旅行も楽しめるだろう」と期待した。

宇宙空間は過酷な環境だ。特に人体にとって、放射線は大きな問題となり得る。宇宙ステーションの船外活動や、月面での作業に使うことができれば、宇宙飛行士への負担を大きく減らすことができるだろう。AIによるロボットの完全な自律化はまだ難しいが、認識や判断を人間が担うAVATAR技術ならば、現実的なソリューションと言える。

  • JAXAの山川宏理事長

    JAXAの山川宏理事長

またゲストとして登場した山崎直子・元JAXA宇宙飛行士は、実際に宇宙で活動した経験から、「クルータイムが大きな制約だった」と述べる。例えば実験1つするにしても、試料を準備したり後片付けをしたりと、時間がかかってしまう。そうした作業をAVATARが担当してくれれば、宇宙飛行士の貴重な時間をより本質的なところに使えるというわけだ。

山崎氏は、「これまで人類は、技術で身体の機能を拡張してきた。飛行機などの乗り物は脚の拡張、センサー技術は目の拡張、通信技術は耳の拡張で、AVATAR技術は人間の持つさまざまな機能を総合して拡張するものだと思う」との見方を示し、「人類の活動領域の拡大に貢献できる」と期待した。

  • 元JAXA宇宙飛行士の山崎直子氏

    元JAXA宇宙飛行士の山崎直子氏