ホンダは先頃、しばらくは日本での販売をやめていたSUV「CR-V」を国内市場で復活させた。なぜ今、このクルマを日本に導入するのか。そもそもなぜ、このクルマは日本から姿を消していたのか。このタイミングでCR-Vの過去を振り返るとともに、その日本における可能性を考えてみたい。

日本復活を果たした「CR-V」。サイズは全長4,605mm、全幅1,855mm、全高1,680mm。価格はガソリン車が税込み323万280円~403万560円から、ハイブリッド車が378万4,320円~436万1,040円から

ライトな機構のSUVとしてデビューした初代「CR-V」

「シビック」「インテグラ」「S2000」「NSX」など、スポーティなモデルがイメージをけん引していたホンダだが、1990年代後半にはレジャーユースのクルマの開発に力を入れていく。その代表格となったのが初代「オデッセイ」だ。オデッセイは“クリエイティブムーバー”という位置づけで、「RV」(レクリエーショナル・ビークル)と呼ばれていたクルマに“走りの性能”を加味したモデルとして大ヒットを遂げた。

初代「オデッセイ」(画像提供:本田技研工業)

そのクリエイティブムーバーの第2弾として、1995年に登場したのが「CR-V」だ。初代のスタイリングを見ればわかるように、当時のクロスカントリー4WD的なパッケージングを採用してCR-Vは誕生した。パワートレインは2Lのガソリンエンジンだった。

このパッケージングでありながら、4WDシステムは非常にライトなものだった。採用したシステムは「デュアルポンプ」といわれるもの。前後タイヤの回転差を2つのポンプで検出し、このポンプを使って前後駆動力の伝達を行う方式のスタンバイ4WDだ。当時、すでにスズキ「エスクード」やトヨタ自動車「RAV4」といったSUVが登場していたが、それらに比べ、CR-Vはずっと軽微な装置で4WDを実現したモデルだった。

ライトな機構を採用していた初代「CR-V」(画像提供:本田技研工業)

当時はクロスカントリー走行が重視される傾向が強かった(といっても、日本にはそうした場所はほとんどなかったのだが)こともあり、同システムのオフロード性能は酷評を受けることもあったが、実は日本での使い勝手は非常によく、CR-Vは高い人気を得た。このクルマが登場するまでホンダは、クロカン4WD系の自社モデルを持っておらず、いすゞ自動車の「ミュー」を「ジャズ」という車名で販売したり、ジープ「チェロキー」を「クロスロード」という車名で売ったりしていたこともあって、CR-Vはホンダファンから支持された。

徐々に大きくなったボディとエンジン

大ヒットとなった初代CR-Vはその後、モデルチェンジを繰り返していくことになる。2001年に登場した2代目は、4WDシステムこそ初代同様にデュアルポンプ式だったが、そのシステムは進化していた。2代目CR-Vに搭載されたエンジンは2Lだったが、初代とは異なる型式のものであり、2004年のマイナーチェンジ時には2.4Lに置き換えている。

デュアルポンプ式という機構を引き継ぎつつ、進化も遂げていた2代目「CR-V」(画像提供:本田技研工業)

当時はSUVという言葉が根付くか根付かないかの時代で、日本国内のSUV人気はさほど高くなく、主流はミニバンだったのだが、世界的に見ると、2代目CR-Vは非常に評価され、ヒットした。初代の全幅は1,750mmとすでに3ナンバーだったが、この2代目は1,780mmにまで幅を広げた。

2006年デビューの3代目はさらに大きく、全幅は1,820mmとなった。エンジンは2.4Lのまま。このモデルチェンジの際に、デュアルポンプにワンウェイカムを組み合わせた4WD方式とすることで、後輪への伝達トルク向上とレスポンスの改善を図った。2代目までは2ボックスのクロカン4WDライクなパッケージングであったのに対し、3代目はモノフォルムとなったことも特徴だ。

横幅が1.8mを超えた3代目「CR-V」(画像提供:本田技研工業)

2011年に登場した4代目で、CR-Vは大きな転換期を迎えた。北米での販売を強く意識し、ロサンゼルスオートショーで発表を行ったのだ。ボディ全幅は1,820mmのままだったが、日本での販売台数確保のため、2Lエンジンは復活させた。

北米での販売を強く意識していた4代目「CR-V」(画像提供:本田技研工業)

現行モデルとなる5代目は、ホンダが2015年に発表したもの。しかし、日本には導入せず、北米、中国、アジア、南米、ロシアなどで販売してきた。この5代目で、ボディ全幅は1,855mmにまで広がった。

なぜ今、日本復活なのか

初代のデビュー時、CR-Vは日本でも非常に注目されたモデルだった。2代目のデビュー時も注目度は高かったように記憶しているが、3代目あたりになると、その注目度は少しずつ落ちていったような気がする。3代目のデビューは2006年で、翌2007年には「ストリーム」をベースとした「クロスロード」(前に述べたチェロキーのOEMモデルとは異なる、ホンダオリジナルのクルマ)が登場。大型化、プレミアム化したCR-Vをフォローしたのが、このクロスロードだったのだ。CR-Vが格を上げたことは、かえって注目度を落とす結果につながったのかもしれない。

ホンダオリジナルとなった「クロスロード」(画像提供:本田技研工業)

4代目のデビューは2011年だが、私の記憶では、広報活動はあまり積極的ではなく、ひっそりとしていた印象がある。ホンダの方針としても、日本でのCR-Vは、ちょっと横に置いた存在としているような感じだった。世界的にはSUVのシェアが加速度的に増えていたが、日本ではまだまだということだったのだろう。そんな流れもあり、5代目は発表当初、日本に導入されなかった。

しかし、2017年の東京モーターショーにホンダはCR-Vを展示し、日本での販売再開をアナウンスした。この背景には、日本でのSUV人気の上昇がある。2017年通年の登録車の販売台数を見ると、4位に11万7,299台でトヨタ「C-HR」が入っている。ホンダのミニバン「ステップワゴン」は4万6,457台で22位だ。すでに日本でも、レジャーユースのクルマの主流はミニバンからSUVにシフトしていると見ていいだろう。

2017年の東京モーターショーに登場し、このほど日本で発売となった5代目「CR-V」

「CR-V」を買う前に押さえておきたいポイント

CR-Vには2列シートで5名定員のモデルと3列シートで7名定員のモデルが存在する。この組み合わせのクルマは、日産自動車「エクストレイル」、トヨタ「ランドクルーザー」および「ランドクルーザー プラド」、マツダ「CX-8」、三菱自動車工業「アウトランダー」など選択肢が豊富。CR-Vは後発となるが、こうした実用性重視のモデルの場合は、じっくり選ばれることも多いので、後発で装備が充実しているモデルのほうが、販売面で有利なことも多々ある。そういう意味でも、CR-Vの売れ行きには注目していきたい。

シートは2列か3列か選べる。画像の右側に見えているのが3列目シートだ

アウトドアレジャーの盛り上がりなどもあり、今後しばらくの間、SUVが人気モデルとしてシェアを伸ばしていくことは確実だろう。ユーザーは「本当に3列シートが必要なのか?」であったり、「3列目にはどれくらいの体格の人が、どれくらいの距離ならば乗っていられるのか?」といった点を熟慮してクルマを選ぶことが大切だ。大人数で長い距離を乗るならば、SUVはミニバンに敵わない。

ただ、「ミニバンに乗っていたものの、3列目には滅多に人が乗らなかった……」という人は、SUVの良さを深く感じられることだろう。やはり、SUVの乗りやすさは、ミニバンを大きくリードしているからだ。もちろん、5名までしか乗らないなら、2列シートを選ぶのが賢い買い物だ。

荷室容量は2列シートで5人乗車時がガソリン車で561L、ハイブリッド車で499L。3列シートの7人乗車時は150Lとなる
(諸星陽一)