デジタル一眼レフカメラでシェア1位のキヤノンが満を持して投入するフルサイズミラーレス「EOS R」。発表会では語られなかった詳細や開発秘話を、キヤノン イメージコミュニケーション事業本部 ICB開発統括部門 ICB製品開発センター室長の原田康裕氏と清田真人氏にうかがいました。

  • EOS Rの開発秘話を伺った、キヤノンの原田康裕氏(左)と清田真人氏(右)

マウント内径はたまたまEFマウントと同じになった

――EOS Rはマウント内径が54mmということで、期せずしてニコンのフルサイズミラーレスカメラ「Nikon Z」の55mmとほぼ同じサイズになっています。従来のEOSシステムと同じ内径ですが、この数字になった理由は何ですか?

清田氏:将来のシステム展開を含めて、マウントの内径や位置、バックフォーカス、レンズ径、カメラのサイズをどうするか念入りに検討してきました。マウントの内径は大きければ大きいほどレンズ設計の制約が少なくなりますが、逆にカメラは大きくなってしまいます。バランスのよいところを突き詰めていったところ、54mmになりました。EFマウントのEOSと同じ内径ですが、あえてこの数字を狙ったのではなく、結果として54mmという同じ内径になった次第です。

  • EOS Rは、マウント内径54mmのRFマウントを採用する

――Nikon Zでは、16mmのフランジバックをシステムの重要な要素として前面にアピールしていました。EOS Rシステムでは「ショートバックフォーカス」という表現にとどまり、フランジバックの数字を明かしていません。なぜですか?

清田氏:レンズの光学設計においては、フランジバックよりもバックフォーカス(撮像面からレンズの後玉までの距離)のほうが重要となります。ショートバックフォーカスにすればレンズ設計の自由度が高まることもあり、従来のEFマウントでは不可能だったレンズを実現すべくシステムを設計してきました。ちなみに、RFマウントのフランジバックは20mmになりますが、バックフォーカスはレンズによって変わります。

  • 大口径マウントとショートバックフォーカスは、高画質化や光学系の小型化など、さまざまなメリットがあるとする

総合的な画質は一眼レフを上回る

――EOS Rのセンサー(撮像素子)は新たに開発したものですか?

清田氏:画素数自体はEOS 5D Mark IVと同じですが、センサー自体は新開発です。新しいデュアルピクセルCMOS AFの採用やEOS Rシステムに合わせたマイクロレンズの配置など、中身は大きく変わっています。

原田氏:ベースになったセンサーはありますが、EOS Rシステムの光学性能に合わせて最適化を図ったというイメージですね。

――今回、EOS Rでこのセンサーを採用した理由は?

清田氏:バランスのよさですね。高画素すぎず、かといって少画素すぎず、しかもEOS 5D Mark IVよりもISO感度を引き上げています。最新カメラのセンサーとしては、ちょうどよい性能に仕上がったのではないかと思います。

――EOS R、位置づけ的にはEOS 5Dクラスのカメラになるのでしょうか。

清田氏:そうだと考えています。

――EOS Rの画像処理エンジンは最新世代のDIGIC 8ですが、どのような特徴があるのですか?

原田氏:まず、従来よりも処理性能を大幅に引き上げたことが挙げられます。RFレンズの装着時にデジタルレンズオプティマイザの機能がリアルタイムに、より高速に実現できるようになったほか、デュアルピクセルCMOS AFの性能アップにも貢献しています。ノイズリダクションの性能も強化しており、EOS 5D Mark IVに比べて常用ISO感度が1/3段アップしました。

――EFマウントの一眼レフとRFマウントのミラーレスで画質の違いはありますか?

清田氏:総合的な画質は、基本的にEOS Rのほうが上回ると思います。一番の違いを生み出しているのがデジタルレンズオプティマイザで、レンズから来る情報をリアルタイムで処理できるようになりました。今まではDPP(Digital Photo Professional)での後処理が必要だったのですが、色収差や歪曲などをリアルタイムで、連写速度を落とさずに処理できるようになったほか、従来よりも高精細な絵が撮れるようになりました。一眼レフでも同様のことをしようと思えばできますが、RFレンズは光学性能が向上しているので、その点でも画質はEOS Rのほうが優れているといえます。

  • ミラーレスのEOS Rは、一眼レフと比べてさらなる高画質化が図られている

――EOS Rは、一眼レフで慣れ親しんだ光学ファインダーではなく、EVF(電子ビューファインダー)を搭載しています。設計で工夫した点はありますか?

清田氏:まず、アイポイントは結構こだわりました。視野角を追い求めずに、離れた位置からでも四隅が見えるようにこだわって設計しましたので、メガネをかけていても隅々までしっかり見えますよ。像のゆがみを減らすべく、光学的にも突き詰めました。視度調整範囲も、-4から+2まで対応します。これまでの光学ファインダーでは、そこまで広げたことはありませんでした。見え方のよさをぜひ体験してみてください。

  • EVFは、ファインダーの光学系にこだわって見えやすさを追求した

――EOS RはバッテリーがEOS 5D Mark IVと同じ(LP-E6N/LP-E6)ですが、これを選んだ理由は?

原田氏:開発当初はさまざまな可能性を検討しましたが、既存ユーザーのメリットになるといった判断もあり、最終的にEOS 5D Mark IVと共通化することにしました。

――バッテリーは大型なのに、バッテリーが収まるグリップは一眼レフEOSよりも小型化されているように感じます。

清田氏:グリップは、第一に正しく握れる形状を目指しました。LP-E6N/LP-E6というハイアマチュアクラスのカメラに使われている電池を格納しつつ、グリップが大きすぎず、しかもレンズとのすき間をしっかり確保して指が窮屈にならない形状を目指したところ、この仕上がりになりました。

  • バッテリーは、EOS 5D Mark IVなどと同じLP-E6N/LP-E6を採用。グリップに対してバッテリーをやや斜めに配置し、グリップが指が干渉しないような造形にするなどの細かな工夫を凝らしている

原田氏:ミラーレスの欠点であるバッテリー消費の大きさですが、デバイスそのものの省電力化やモニター制御の最適化を盛り込むことで、フルサイズでありながら従来のAPS-Cミラーレスや他社製品を含めてそん色ない撮影枚数を確保できていると思います。