多くの人が悩む現代病の一つ、アレルギー。サンスターグループは、掃除しても室内に残留するハウスダストを抑制する新商品「アレリア シールドミスト」(290ml/税別1,500円)の発売に合わせ、「アレルギーとハウスダスト対策の最新事情」セミナーを開催。
麻布大学獣医学部の阪口雅弘教授が、アレルギー対策の最前線を解説した。
ヒトの健康を守るために、動物や環境を含めた三者のバランスに目を向けようという考え方を「ワンヘルス」という。獣医学と医学が共同で、ヒトと動物の病気を治していこう、研究しようという取り組みだ。日本でも、「日本ワンヘルスサイエンス学会」が誕生し、研究が今進んでいる。
例えば、犬も人間も同じようにダニや花粉を浴びてアレルギーになることがあるが、そうした中で新しいことも分かってきた。「犬のいる環境で人間の赤ちゃんが生まれると、成育過程において食物アレルギーや喘息になる確率が非常に低くなってくる。犬特有のアレルギーにはなりやすいという面もあるが、それに余りあるくらい子どものアレルギーが少なくなる」といったことだ。おそらく犬にアレルギーを抑制する菌があり、それに暴露(細菌・ウイルス、物理的刺激などに生体がさらされること)されている可能性があるのでは、という方向で研究が進められている。
家庭内でのアレルギー対策
国際アレルギー学会における今年のテーマは、「地球環境変化と呼吸器健康」。地球環境の変化、温暖化はどんどん進んでいる。それに伴い花粉、ダニも増加し、その影響で花粉症も喘息も増えているという悪循環。ジョンズ・ホプキンズ大学の小児科、エリザベス・マツイ教授は、「アレルギーに対する家庭内の対策を行い、それを積極的に家庭内に介入していこう」という考えを示した。
アメリカでは、「環境整備」が重要という考えが主流となっている。具体的には寝具へのダニ対策、エアコン掃除を行うこと。ソファーはビニール製や皮張りなどの素材に替え、床はこまめに清掃し、フローリングへ変更すること。高性能空気清浄機の導入、ネズミやゴキブリの駆除を徹底するなど。これらが家庭内で正確に行われるよう、積極的に介入していこうという動きがある。
実際に、小児科医やアレルギー専門医などの医療従事者、教育や研修を受けた地域健康保健の従事者、ケースワーカーのようなスタッフが積極的に患者への教育、家庭内に入っての実地介入を行い、ダニやアレルゲンが低下したという実績がある。つまり環境整備が効果を上げれば、アレルギー症状が緩和されることがわかった。この研究で、マツイ教授は学会賞を獲得した。
ヨーロッパも、環境整備に対する介入が大切であるという考え方である。南デンマーク大学のハルケン教授は、「寝具を積極的に新しく変えていくこと」を提唱している。その結果、ダニのアレルゲンがどの程度減るかというと、「対策のある・なし」、それから「対策前・1年後」のそれぞれのダニアレルゲン量を比べると、介入を行わず整備方法を指導しただけではアレルゲン量が減らなかった。ところが、介入を積極的に行うことにより、10分の1程度にまでダニのアレルゲン量が減り、実際に臨床効果も出てきた。
つまり、単純に診察口で患者に「これをやりなさい、あれをやりなさい」と伝えるだけではなく、実際に家庭に行って指導していけばダニアレルゲンも減るし、臨床効果も出るという研究結果だった。
「環境整備」は成果とコストに効果的
ハーバード大学小児科のワンダ教授は、環境整備の専門家。ワンダ教授は効果はもちろんのこと、医療コストも大幅に下げられるという研究結果を発表した。例えば、気管支ぜんそく治療によく使われる薬を、環境整備を並行することによって、約3,000ドル以上かかっていたところを約2,000ドルに減らすことができるという内容だ。もちろん症状もよくなるし、医療費も減らせるということである。
さらに環境整備により、救急病院に行く回数も入院する回数もそれぞれ半分近く減らせると発表。これで年間1,600ドルぐらい減らせると試算、医療費削減の効果があるとしている。
マツイ教授による「アレルギー性喘息患者に対して家庭内での対策や患者への積極的介入を行うことでアレルゲン量が減少し、症状の低減につながる」という発表、ワンダ教授による「アレルギー性喘息患者に対して環境整備プログラムを実施した結果、治療費が減少し症状の緩和がみられ、投薬と通院に要するコストも減少した」という発表があった通り、環境整備の重要性が世界的にも認められたということになる。
温暖湿潤アレルギー大国・日本の現状
日本では、小児喘息の原因のほぼ90%がダニアレルゲンとなっている。ダニアレルギーのアレルゲンの閾値(危険因子としての量)は、その人ごとに決まっている。ダニが増えやすいのは、高温多湿のところ。湿気の多い日本は、寝具中のダニアレルゲン量は世界的でも屈指の多さとなっている。日本は特に、ダニアレルゲンの環境整備をしなければいけない国なのである。
阪口教授の研究として、さまざまな条件の下でダニアレルゲンの空気中の量を実際どれくらい飛んでいるのかを調べたところ、「居間で普通に生活している分にはそれほど高くないが、寝室で布団の上げ下ろしをしただけで、空気中のダニアレルゲンが量が100倍近く増える」ということがわかった。古い布団にはダニアレルゲンが多いため、睡眠中もアレルゲンに曝露してしまうことになる。
ダニアレルゲンには季節変動があり、5月は低く夏にかけて増えて、秋から冬にかけて下がる。これは臨床データとよく合っており、喘息が夏から秋口に多いのはこういう理由が挙げられる。少ないときと多いときを比べると、10倍ぐらいアレルゲン量が違うことになる。
スギ花粉症は、室内環境という面では関係なさそうだが、窓を開けておくとかなりの量の花粉が入ってくる。住居内のスギ花粉飛散量を1週間測定したデータを見ると、窓に近いところほどたくさん花粉が入ってくることがわかる。スギ花粉も室内環境汚染の原因の一つとして重要視し、花粉症患者がいる家庭は特に対策が必要である。また、将来発症することのないよう心掛けたい。
アレルギーといえば、ペット。犬や猫によるアレルゲンは少なくない。犬や猫を室内飼育している住宅の床ごみと空気中のアレルゲン量を測定したデータを見ると、空気中のダニアレルゲンより10倍から100倍近くペットのアレルゲンが多いことがわかる。ペットを飼っている家では、アレルゲン対策として環境整備に取り組む必要がある。
まとめ: アレルギー症状緩和には徹底的な「環境整備」
国際アレルギー学会や最新の研究から、室内環境におけるアレルゲン対策がアレルギー症状の緩和に有効ということがわかっている。日本は高温多湿のため喘息の原因となるダニアレルゲンが多く、ペットのいる家では高濃度のペットアレルゲンにさらされている。こうした環境のリスクを意識し、重点的な対策を行うことでアレルゲン症状を緩和できる可能性があるということだ。