アウディはフラッグシップセダン「A8」の新型モデルを日本で発表した。「Vorsprung durch Technik」(技術による先進)をモットーとするアウディの旗艦車種だけに、新型A8には世界最先端の機能が備わっている。それは、市販モデルへの搭載が世界初となる“レベル3”の自動運転システムだ。しかし、その機能は現状、日本でも本国のドイツでも使用できない状態だという。
世界初のレーザースキャナーを含む23個のセンサーを搭載
A8はアウディのフラッグシップであり、技術的ショーケースとしての役割を担うクルマでもある。フルモデルチェンジを経た新型A8は4世代目だ。今回の新型は、量産車として世界初採用となる「レーザースキャナー」1個を含む計23個のセンサーを搭載する。周辺の状況を認識する高い能力を活用した機能としては例えば、クルマの両サイドに塀が立っているような見通しの悪い交差点に進入する際、死角から近づいてくる物体を検知し、自動でブレーキをかけるなどの制御を行う「プレセンス360」がある。
数多くのセンサーを搭載し、そこから集まる情報を処理して周辺環境を認識できるのがA8の特徴。このクルマでアウディは、世界に先駆けて“レベル3”の自動運転に挑戦する。
自動運転レベル3を実装できる国は?
自動運転のレベリングについては以前、モータージャーナリストの清水和夫さんに解説して頂いたことがあるので、詳しくはこちらの記事をご覧いただきたいが、簡単にいうとレベル3とは、基本的にクルマのシステムが運転を担当し、システムでは対応しきれないような何らかの状況が出来した時に人間(ドライバー)が運転を代わるという高度な自動運転だ。
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ただ、この機能についてアウディ ジャパンのフィリップ・ノアック社長は、「認証がおりていないので、本国ドイツでも実装していない。法律などの状況が整った時に導入できるよう、アウディではアウトバーンなどでテストを行い、準備を進めているところだ」と話す。日本も含め、レベル3の自動運転が導入可能な国は、現時点で存在しないそうだ。
自動運転レベル3の実現を遅らせる2つの問題
なぜ、同機能を実装できないのか。アウディ ジャパン広報部の丸田靖生部長は「問題は2つある」とする。そのうちの1つは「国際的な技術認証」だ。
「自動でステアリングを操作してOKなのかどうかは、『欧州経済委員会』という国連のワーキンググループで議論されているところ。今の認証だと、時速10キロ以上で自動操舵はできない。その議論に時間が掛かっている」(丸田部長)
レベル3の自動運転ではクルマが状況を判断し、場合によってはレーンチェンジなどの動きを行うようになる。技術的にというよりも規制の問題として、自動操舵を是とするかどうかというのは、確かに重要な問題だ。
丸田部長が挙げたもう1つの問題は、より根本的なものだ。「クルマというのは運転者がいて、その人が運行するものと『ジュネーブ条約』や『ウィーン条約』では定義している。システムが運転するとなると、そこの根本を変えなければならない」(丸田部長)。つまり、クルマの定義そのものが、自動運転の登場で揺らいでいるのだ。クルマの新しい定義づけと、それを踏まえた各国での法整備が進まない限り、公道でレベル3の自動運転を行う市販車は登場しないだろう。
さらにいえば、法整備が進んだとしても、クルマには自動運転のためのハードウェアを追加する必要がある。例えば、ドライバーが寝ていないかどうかを監視する車内カメラであったり、自動運転中、ブレーキやステアリングが不具合を起こした場合に、それらをバックアップする二重の回路などだ。今回のA8に、そういった装置は付いていない。つまり、法整備が完了した時、スマートフォンのようにソフトウェアをアップデートすれば、ただちにレベル3の自動運転が可能になるというものでもないのだ。
技術認証、クルマの再定義、ハードウェアの追加など、本来の能力を発揮するにはまだまだハードルの多いA8。丸田部長は「レベル3までには、すごく距離があるということはご理解願いたい」と話していた。
(藤田真吾)