8月23日、横浜市パシフィコ横浜で開催された「CEDEC 2018」にて、ゲーム/eスポーツ業界のアナリストである但木一真氏によるセッション「eスポーツ産業におけるスポンサーシップ」が行われた。
グローバルブランドTOP20のうち、半数以上がeスポーツにスポンサード
今回、但木氏は、まだまだ黎明期のeスポーツ市場における、スポンサーシップのあり方について講演した。現在、eスポーツ市場は右肩上がりで成長しており、高額の賞金なども発生している。協賛する企業としては注目の市場ではあるが、実際、どれくらいの企業が現在スポンサードしているのだろうか。
Interbrand社が発表しているBest Global Brandsの2017年ランキングによると、上位20社のうち、eスポーツのスポンサーシップに取り組んでいる企業は55%と半数を超えた。代表的な企業として、Googleやマイクロソフト、amazon、コカ・コーラなどが名を連ねている。もはやゲーム業界内だけの話ではなく、一般的なスポンサー対象としてeスポーツがみられていることがよく分かる。
では、それらの企業はどういった形でeスポーツ産業にスポンサードしているのだろうか。1つはメディアへのスポンサーシップ、次に大会へのスポンサーシップ、最後にチーム・選手へのスポンサーシップだ。スポンサーシップをすることで、認知から販促へ繋げ、ブランド価値の向上を目指していく。
タイトルやジャンルによって異なるユーザー層
まず、認知をしてもらううえで重要なのが、eスポーツに対する向き合い方やゲームタイトルによるユーザー層の違いを明確にすることだ。
eスポーツを視聴するオーディエンス層は約250万人存在し、圧倒的に20・30代が多く、男性比率は70%を超える。プレイヤーは約69万人存在し、これも20・30代が中心だが、男女比が男性58%とオーディエンスよりも女性の割合が高い。
タイトルをみると『オーバーウォッチ』の場合、プレイヤーは20代中心で約90%が男性だ。『ストリートファイターV』では、年齢層が上がり30代が中心で約86%が男性。そして『シャドウバース』の場合は、10代が中心で女性が約25%と、これまでの2タイトルと比べ、かなり高くなっている。
タイトルによって、オーディエンスやプレイヤーの年齢層、男女比が大きく変わるので、企業はeスポーツという大きな括りではなく、訴求したいユーザーに合わせて、スポンサーシップのタイトルを選ぶ必要があるのだ。
また、ユーザーの中にも分類があり、ライトユーザーやハードコアゲーマーなど、ゲームに対するスタンスの違いで、訴求するポイントも変わってくるだろう。
グローバルかつバイラル的な拡散が期待できる
次に、eスポーツコンテンツの「バイラル的拡散」が議題となった。リアルスポーツと比べ、eスポーツ大会は動画配信サービスとの親和性が高い。配信した動画コンテンツをWebメディアが取り上げたり、SNSによって通知されたりすることで、コンテンツの視聴がより活性化する。Webメディアの記事を見た読者がさらにSNSで拡散し、SNSでバズった投稿を見たWebメディアがさらにそのことを記事にする、というコンテンツのバイラル的拡散が発生するのだ。
動画配信については、リアルタイムで配信する生放送やストリーミング、生放送終了後に配信、または撮影後に配信するアーカイブ、ゲームを中心にプレイヤーやタレントがコメントするWeb番組(ゲーム)、いわゆるテレビ番組的なゲーム以外のコンテンツをメインにしたWeb番組(情報・バラエティ)などがある。eスポーツのプロ選手が情報・バラエティにまで進出できるほど知名度が上がれば、さらにeスポーツ自体の知名度も上がり、スポンサーシップとしての価値も高まっていくだろう。
また、スポンサーシップをするうえで重要なのが、どれだけ多くの人に見てもらえるかだ。eスポーツは世界規模の大会もあり、タイトルによっては世界中で遊ばれている。8月にアメリカ、ラスベガスで開催された対戦格闘ゲームイベント「EVO 2018」では、日本企業であるCygamesがスポンサーとなった。日本でも「EVO 2018」の動画配信を視聴したオーディエンスは多く、大会スポンサーとなることで、グローバルな展開にも期待できるはずだ。
eスポーツはタレントよりもエンゲージメントが高い
以上が認知に関する項目。次は販促の面が議題になった。eスポーツの選手やチームのファンはロイヤルティが高く、多くのプロモーションの機会を獲得できるという。また、eスポーツのファンと一括りにしても、実際はチーム・選手のファン、タイトルのファン、ゲーム全般のファンとこれまた細部化されているのも特徴だ。
さらにおもしろいのが、eスポーツのチームや選手のファンはエンゲージメントが高いということ。実際、Twitterのフォロワー数が16万人近い司会のタレントと、Twitterのフォロワー数が2万人ほどのプロ選手を比較すると、プロ選手のコメント言及回数のほうが多いという結果が出た。人気の割には効果の薄いタレントよりも、プロ選手の方がエンゲージメントの高さでスポンサー効果も高いと言えるだろう。
また但木氏は、ゲーミングという独自価値についても言及した。ゲーミングと冠し、製品と結びつけることで、ブランドに新たなイメージを付加することができるのだという。仮に製品自体は既存のものを使用していても、低コストで新たな市場開拓を行えると言うことだ。
eスポーツはデジタルコンテンツであるがゆえ、ほかのデジタルテクノロジーとの相性も良く、適用範囲が広いのも特徴だ。すでにVR対応のeスポーツは始まっているし、ブロックチェーン技術を採用した仮想通貨で選手に寄付するという試みも行われている。また、AIによる対戦、ビッグデータによるeスポーツの試合やトレーニングデータの解析なども考えられるだろう。
認知、販促の面からeスポーツのスポンサーシップは、大いなる可能性を秘めている。マスへの広告を投下し、一定割合の人間を対象にする従来のスポンサーシップに比べ、訴求力の高さが魅力と言えるのではないだろうか。ピンポイントに絞りながらもグローバル展開が見込めるので、世界規模で見れば、訴求できる人数は決して少なくない。
(岡安学)