こうした流れはオンラインだけではなく、オフラインにおいても起こっている。熊本県・宇土半島の山奥にある「サイハテ村」も、特有な価値観のもと形成されたコミュニティの1つだ。
「コミュニティ」の重要性が再認識されている。2017年にはFacebookが創業以来、初めて企業ミッションを変更したことが話題となった。
「コミュニティづくりを応援し、人と人がより身近になる世界を実現する――」
インターネットの発達に伴い、続々と誕生したYouTubeやFacebook、Twitter、Instagramなどのさまざまなプラットフォーム上で、人々は自らの趣味、趣向、価値観にあったコミュニティを選択、参加するようになった。
こうした流れはオンラインだけではなく、オフラインにおいても起こっている。熊本県・宇土半島の山奥にある「サイハテ村」も、特有な価値観のもと形成されたコミュニティの1つだ。
「お好きにどうぞ」というキーワードのもと、ルールもない、リーダーもいないという不思議な関係性で人々が住まうこの”変な村”が実践している「新たなコミュニティの形」とは何か。現地で村の雰囲気を味わってきた。
熊本県宇城市三角町にあるサイハテ村。天草市へとつながる宇土半島の山奥、約1万坪もの敷地に、約30人の住民が暮らしている。電車やバスは通っていないため、車でしかいくことができず、かつ道も狭いのでなかなか行きづらい。
サイハテ村に到着
記事にすると一瞬でサイハテ村に到着してしまうのだが、現地までの道のりは長く、とにかくアクセスが悪かった。思わず「到着」という必要のない小見出しを使いたくなるほどに、「とにかく無事に着いたこと」に達成感を得た。
?? : ようこそ、サイハテ村へ。
到着して最初に出会った村人は、サイハテ村の「コミュニティマネージャー」の、坂井勇貴氏。取材当日の村案内をお願いしていた人物だ。
筆者 (以下、田中) : 本当に人が住んでいるんですね……! とにかく、無事にたどり着けて良かったです。途中、何度も心が折れそうになりました。
坂井勇貴氏(以下、坂井) : お疲れ様でした。まさか原付で来るとは(笑)。ちょっと休憩しましょうか。
ルールもリーダーもない、“お好きにどうぞ”な村づくり
坂井 : 田中さんは、どうしてサイハテ村に取材に来ようと思ったんですか?
田中 : 実は私、熊本県出身で、実家がこの近くなんです。もともと、どうやら変なコミュニティがあるということは知っていて。今回、夏休みで帰省するタイミングで、取材してみたいと思って伺ったんです。
坂井 : だから原付だったのか。
田中 : そうなんです。ここに来る途中の山道で何度も、パンクするんじゃないか? とヒヤヒヤしましたが、なんとか無事に来られました。今回はこの村に一泊してみて、サイハテが実践する”新たなコミュニティの形”について体感したいと思っています。
坂井 : 是非この村の雰囲気を感じてみてください。じゃあ村の紹介をしていこうかと思うんですが、その前に。この村の唯一のルールについて説明します。
田中 : ルール?
坂井 : この村のルールは、ルールがないこと。ルールもない、リーダーもいない、”お好きにどうぞ”の村づくりを行っているのがここ、サイハテ村なんです。
田中 : (「ルールがない」のが唯一のルール……なんだかややこしいな)
サイハテ村を探索!
坂井 : まずはここが、今日泊まってもらうゲストハウスです。
田中 : 綺麗ですね。山奥にこんなに快適なゲストハウスがあるなんて……。
坂井 : 実はここ、2016年にクラウドファンディングで資金調達して作ったゲストハウスなんです。約200万円の資金を集めることができました。
田中 : ……これは、プールですか?
坂井 : はい、村の前身となった施設で使用されていたプールを村人達で綺麗にして使えるようにしたんです。
「エコ」に振り切らない、ハイブリッドなコミュニティ
田中 : 村の案内、ありがとうございました。のどかな場所ですね。ところで「エコビレッジ」というと、完全な自給自足を目指しているイメージを持っていたのですが、サイハテはそうではないんですか?
エコビレッジとは、持続可能性を目標としたまちづくりや社会づくりのコンセプト、またそのコミュニティ。以下のように定義されている。
・ヒューマン・スケールを基準に設計される。
・生活のための装備が十分に備わった住居がある。
・人間が自然界に害を与えず、調和した生活を行っている。
・人間の健全な発達を促進する。
・未来に向けて持続的である。
フリー百科事典「Wikipedia」より引用
坂井 : そうですね。サイハテでは、そこまでエコに固執しているわけではありません。そもそも昔(といってもここ数十年で)、エコビレッジが誕生したのは「環境破壊を止めたい」とか「資源の浪費を抑えたい」とかいう考えから。その想いは私達にもありますが、だからって「エコじゃないから」という理由で、生活の不便さをすべて享受しているわけではありません。食糧が足りなければ、買いに行きますしね。
もちろん、パソコンもスマホも使います。この村の住民の多くはクリエイターで、パソコン1つでWebデザイナーとして働いている人がいれば、ドローンを使っている人もいます。決してテクノロジーを否定しているわけではなく、私たちが目指しているのは、現代にあったエコビレッジの形、テクノロジーとエコが融合した”ハイブリッドなコミュニティ”なんです。
なぜ今、”コミュニティ”が重要視されているのか?
田中 : ハイブリッドなコミュニティ、ですか。
坂井 : はい。ここ数年、「コミュニティ」という言葉をよく聞くようになったのは、今一度、人と人との関わり方を見直すタイミングが訪れているためであり、そこで重要になるのが新たなコミュニティの形だと考えています。
私は以前、人口が100人ほどの村に住んでいました。そこではハッキリと「村社会」が存在していたんです。それは昔であれば、どの地域にも当てはまったこと。しかし、高度経済成長期を境にその社会が一部崩壊し、核家族が増え、コミュニティの形が変わりました。
当時はそれでうまくいったのですが、現在、社会とコミュニティの関係性が徐々にアンバランスになってきています。一生懸命働いてもお金がない、近所付き合いがないため子どもや老人の面倒を見てくれる人がいない、そもそも何をするにしても人手が足りない。私たちは、そういった問題を解決するための新たなコミュニティの形をここサイハテ村で模索しているんです。
インタビューは次の記事へ続きます、サイハテ村が新たなコミュニティの形模索する中で見えてきたこと、その課題などについて紹介します。