岐阜市教育委員会は、なぜ本年度から全公立小中学校にPepperを導入したのか。その理由を赤地氏はこう語る。
「まずはPepperがコミュケーションロボットであるという点です。プログラミングに初めて触れる児童や生徒が興味を持って取り組める教材としては、非常に有効だと思いました。彼らがPepperにやってもらいたいことをプログラミングし、思い通りに動かなかった時の悔しさや、それを解決し思い通りに動いた時の喜びを岐阜市の全児童生徒に体験してもらいたいと思い導入を決めました」(赤地氏)
同委員会では「Pepper社会貢献プログラム2」導入にあたり、『Scratch』の他にもセンサーやモーターなどのパーツを組み立て完成したロボットをプログラミングで動かす教材を委員会内で使ってみた上で、コスト・機能・メリットデメリットの比較表を作成。それを財政担当部署へ提出し新規で予算を確保したという。
「それぞれの教材でメリットデメリットがありました。例えば、『Scratch』はプログラム言語の知識が不要で初心者でも簡単にプログラミングできますが、動かせるものはバーチャルなキャラクターですし、パーツを組み立てるロボットは安価でセンサーやモーターを駆使し、ある程度実用的なプログラミングが可能ですが、Pepperと比べセンサーやモーターのバリエーションが少ない上に組み立てる行為そのものが教師への負担となります。『Pepper社会貢献プログラム2』は決して安くはないですが、会話ができたりカメラセンサーやタブレットなど他にはない機能があること、ロボットとして完成形で提供されること、指導書の内容が充実しており教師への負担が少ないことなどを財政担当部署に訴求しました」(赤地氏)
また、Pepperのプログラミングツールとして「Scratch」をベースにした「Robo Blocks」がリリースされたことも、Pepper選択の大きな理由となった。それにより、2017年度に「Scratch」でのプログラミングを実施した29校の経験を活かすことができ、スムーズにPepperを導入できたという。
教育現場の反応
Pepperを使ったプログラミング授業は、週1回もしくは隔週1回のペースでパソコン室を使って実施されている。授業前半ではセンサーやサイネージを搭載した機器やサービスが日常生活でどう利用されているかを話し合い、授業後半ではパソコンやタブレット端末を使いその日のテーマに沿ったPepperアプリを「Robo Blocks」でプログラミングする。
例えば、授業前半に音声センサーが搭載された機器やサービスについて話し合い、授業後半はPepperの音声センサーを使ったプログラミングを行う、といった流れだ。「Robo Blocks」はブラウザ上でPepperの動きと胸のタブレットの表示を確認できるため、完成までパソコンだけでプログラミングができる。プログラムが完成したらPepperで実行し、クラスメイト同士でプログラムの体験や評価を行っている。
2017年度からPepperのプログラミング授業を実施している岐阜市立青山中学校は、今年2月に開催された「Pepper社会貢献プログラム スクールチャレンジ プログラミング成果発表会」において部活動部門で金賞を受賞するなど、積極的にプログラミング教育に取り組んでいる学校の一つだ。
同校のプログラミング教育を担当する福田教諭は、「Pepperを使ったプログラミング授業を実施すると聞いた時は不安でいっぱいでしたが、その後配付された教師用指導書には授業に必要な情報がすべて網羅されていたので、その指導書を読むことと模範プログラミングを事前に作成すること以外は特に準備することはありませんでした」と授業開始当時を振り返る。さらに福田教諭はプログラミング授業で意識している点についてこう続けた。
「近い将来ロボットが生活の中に普及していくと言われています。生徒たちには、ロボットを使って住みやすい世界を作っていくのはあたなたちだから、今からプログラミングを勉強していきましょう、というオリエンテーションをしっかり行い、プログラミング教育に対する意欲を高めることは意識しています。そこから生活に必要なものや役立つものを考え、それをPepperで実現するにはどんなプログラムが必要で、そのためにはどんなブロックを組み合わせていけばよいのか、というプロセスを経験してもらうことで、プログラミング的思考を育んでいければと考えています」(福田教諭)
福田教諭が話すように、2020年度から始まるプログラミング教育とは高度なプログラム言語を使いこなすプログラマーを育てる教育ではなく、適切なアプローチで目的を実現する思考能力を持った人材を育てる教育である。そのためPepperを使って身近なニーズや課題の解決を目指す岐阜市のプログラミング教育は同市の児童生徒にとって意義のあるものになるだろう。