ワコムは、集英社の少女まんが雑誌「りぼん」と協力した夏休み企画「りぼんデジタルまんが教室」を開催した。大阪、札幌、福岡、東京の全国4都市で開催された同イベントは、各会場とも大盛況となった。ここでは8月14日、『ロックアッププリンス』を代表作に持つ漫画家・池田春香先生を講師に招いた、東京会場のようすをお伝えする。

  • 池田春香先生の実演を映し出すスクリーンを、真剣なまなざしで見つめる子どもたち

    池田春香先生の実演を映し出すスクリーンを、真剣なまなざしで見つめる子どもたち

子どもたちが初・デジタル絵に挑戦!!

今回開催された「りぼんデジタルまんが教室」は、プロの漫画家が使うような液晶ペンタブレット(以下、液タブ)を使って、ペン入れやスクリーントーン(以下、トーン)といった漫画テクを、講師の漫画家が描いたレッスンシートで基礎から学べる体験イベント。

今回、講師を務めた漫画家の池田春香先生は、乙女ゲームの世界を舞台とした『ロックアッププリンス』が代表作。集英社の少女まんが雑誌「りぼん」10月号(9/3発売)から新連載「たったひとつの君との約束」(原作:みずのまい、みらい文庫刊 キャラクター原案:U35)を開始する。

この講座に集まったのは、日頃からイラストを描いたり、描いたイラストを友だちと交換したりするのが好きだという20人の子どもたち。なかには将来、漫画家やイラストレーターを夢見ている子もいるというが、液タブに触れるのは全員、今回が初めてとのことだ。

池田先生が初めてタブレットに触れたのは中学1年の時で、仕事で使いだしたのは3〜4年前のことだという。当初は、ペン入れはアナログで行い、トーンと入稿をデジタルで行っていたが、現在は下絵やネームを含めほぼすべての作業をデジタルで行っているそうだ。ただし、アナログのほうが良い味が出る場合などは、決めカットだけアナログで作業していることを明かした。

また、最初に使ったデジタル機材は「親に買ってもらった、ワコムの1万円ほどのペンタブレット(板タブ)」で、使うきっかけはデジタルならではの「パキッとした塗り」をやってみたかったからだそうだ。また、デジタルの良さとして、机が散らかることなく絵が描けること、逆光でのフレアを簡単に表現できること、トーンを手軽に貼れること、レイヤーを使えることなどを挙げた。そして「若いうちから液タブに慣れ親しんでおけば、大人が勉強して覚えていくレイヤーの仕組みなどを自然と身につけることができる」と、子どもの頃からデジタルで絵を描くことのメリットを述べた。

  • 池田春香先生がペン入れするようすが、前面の大きなスクリーンに映し出される

    池田春香先生がペン入れするようすが、前面の大きなスクリーンに映し出される。下絵に使われたのは、夏の大増刊号りぼんスペシャル ミント(8月21日発売)に掲載される池田先生の新作『トゥインクルトワレ』の一コマ

液タブで下絵のペン入れをやってみる

実践のレクチャーでは、授業に使う下絵として、夏の大増刊号りぼんスペシャル ミント(8月21日発売)に掲載される、池田先生の『トゥインクルトワレ』の一コマが使われた。使用ソフトはセルシスの「CLIP STUDIO PAINT」。機材はワコムの「Wacom Cintiq Pro」や「Wacom MobileStudio Pro」が用意された。

まずは、池田先生が下絵の瞳にペン入れする様子を、やり方やコツなどの解説を交えながら披露した。最初は緊張気味だった子どもたちも、プロの漫画家による作業には興味津々で、その様子が映し出されるスクリーンを食い入るように見つめていた。

  • 実際にペン入れをする池田先生

    実際にペン入れをする池田先生。よどみなく筆を動かしていく

続いて、トーンの貼り方や瞳へのホワイト、光の入れ方、まつ毛の描き方についても解説。瞳は非常に難しく、黒い部分やグラデーションによって可愛さに差が出たり、あるいは実際の(瞳の)球体にはない部分にも光を入れた方が可愛いかったりするという。「可愛くなぁれ!」と思いながら描くと良いそうだ。

  • ペン入れ作業に打ち込む子どもたち

    ペン入れ作業に打ち込む子どもたち

レクチャーが終わるといよいよ、子どもたちも実際にワコムの液晶ペンタブレットを使って、ペン入れやトーン貼りといった作業に取りかかった。作業中は池田先生をはじめ、ワコムのスタッフやりぼんの編集者らが子どもの手元をチェックして周り、子どもたちの質問や操作のわからないところなどを丁寧にアドバイスしていた。

  • 液タブでの作業にスグに慣れてしまう子も!

    触るのは初めてながら、液タブでの作業にすぐ慣れてしまう子も多かった

フワフワの可愛い髪の毛、どうやって描く?

瞳の次は、髪の毛の描き方についての解説が行われた。池田先生は、髪の毛は細めでザラザラ感のない線で描いているそう。線が引きにくいときは左右反転させ、手首のスナップを使って描きやすいところから描いていくと良いとのこと。ちなみに、池田先生は髪を描くとき、芸能人の髪型や、インスタグラムの投稿を参考にしているという。

  • 池田先生のアドバイスどおり、手首のスナップを効かせて髪の毛を描く

    池田先生のアドバイスどおり、手首のスナップを効かせて髪の毛を描く子どもたち

なお、髪の毛を描くときに役立つ機能として「ベクターレイヤー」が紹介された。この機能を使うと、失敗した部分をやり直す際にほかの線と重なった部分までキレイに消せるため非常に便利だという。このほか、ペン入れ済みのキャラクターの帽子や洋服、背景などにトーンを貼っていく作業も実践した。

  • トーンを貼るのもデジタルなら楽々!

    トーンを貼るのもデジタルなら楽々!

池田先生が漫画を描く際によく使うお勧めのツールは「連続曲線」。アイテムなどの曲線を描く際、アナログでは雲形定規を用いるのが一般的だが、このツールは曲線上に適度な間隔で「点」をいくつか打っていくことで、その点同士がキレイな「曲線」として描かれるというものだ。もし歪んでしまっても点を移動させることで正しい曲線に修正できる。

  • 池田先生がオススメ!曲線を描くときに便利な「連続曲線」ツール

    池田先生がオススメ!曲線を描くときに便利な「連続曲線」ツール

日常で嬉しかったことがネタになる

最後は、子どもたちから池田先生への質問タイムとなった。「右手につけている手袋のようなものは何ですか?」という質問に対しては、「これをつけている部分は、(液タブの)タッチセンサーが反応しないのに加え、手汗などで、指のタップ操作が滑りづらくなるのを防いでくれる」と説明した。また、「ネタはどういうときに出るんですか?」という質問には、「日常生活で嬉しかった言葉や、こんな人がいてくれたらすごく助かること、あるいは自分に足りないもの、好きなモノなどを集めて漫画にしています」と回答した。

  • 池田先生が右手につけているのは、ワコムから販売されている「Smudge Guard 2本指グローブ」

    池田先生が右手につけているのは、ワコムから販売されているペンタブ向けグローブ「Smudge Guard 2本指グローブ」

また、「子どもの頃にしておくとよかったことは?」という質問に、池田先生は「友だちと遊んだり、喧嘩したり、男の子と仲良くなりたいと思ったり……、いろんな人間関係を楽しんでおくことが大切なので、ぜひ学校生活をエンジョイして下さい」と子どもたちにエールを送り、イベントを締めくくった。

最後に、池田先生は参加者にひとりずつ声を掛けながら、授業で使った原稿に直筆サインを入れて手渡し、子どもたちは笑顔で会場をあとにした。

  • 最後に池田先生と握手。将来「りぼん」に連載をもつ漫画家が誕生するかも!?

    最後に池田先生と握手。将来「りぼん」に連載をもつ漫画家が誕生するかも!?

このイベントで印象的だったのは、すべての参加者がこの日はじめて液タブに触ったのにも関わらず、実践の後半にはかなり慣れた手つきで作業していたことだ。好きなことに打ち込むときの子どもならではの集中力と学習能力の高さを、まざまざと見せつけられた思いだった。近い将来、この参加者の中からりぼんに連載をもつ漫画家が誕生することを期待したい。

  • 液タブでの作業をあっと言う間に習得。子どもは覚えが早い!

    液タブでの作業をあっと言う間に習得。子どもは覚えが早い!