現役ビジネスパーソン世代に特化した新スタイルの銀行店舗、三井住友銀行汐留出張所「マネービバ@汐留」が7月30日にオープンした。27日のプレオープンイベントでは、慶応義塾大学大学院教授・岸博幸さん、元AKB48でタレント・ピアニストの松井咲子さんをゲストに迎え、興味深いトークセッションが催された。

  • 元AKB48でタレント・ピアニストの松井咲子さん(左)、慶応義塾大学大学院教授・岸博幸さん

テーマは「3つのキーワードで考える、これからのマネーとのつきあい方」。3つのキーワードとは「キャッシュレス」「働き方改革」「人生100年時代」。今後の気になるマネーとの関わりのヒントが見えてきた。

キャッシュレス時代、待ったなし

――こちらの「マネービバ@汐留」は、従来の銀行のスタイルを脱却した「キャッシュレス」というコンセプトを打ち出したものですが、お二方は現在、お支払いはどのようにしていますか?

松井さん「基本は現金ですね。スイカを持っているので、コンビニではSuica(交通系電子マネー)を使うこともあります」

岸さん「僕は基本的に現金は使わないです。クレジットカードやスイカをメインで使用し、それらが使えないときに現金で払うぐらいですね」

―-日本ではまだまだ現金での支払いが多いようですが、海外ではキャッシュレス化が急速に進んでいるようです。

岸さん「中国では露店でもスマホ決済でキャッシュレス。日本は遅れていますね。例えば日本の経済規模でいうとGDPが500兆円、その中で世間に流通している現金は100兆円。経済規模のおよそ20%ということになります。この比率がアメリカの場合8%で、一番低いのはスウェーデンです。国の経済規模の1%しか現金が流通していないということになります。小売店でもキャッシュお断りのお店がどんどん増えている状況です。フィンテックが世界的に進行してきているからでしょう」

松井さん「フィンテックという言葉は最近耳にしますが、まだよくわかりません」

岸さん「簡単に言えば、金融の世界にデジタル技術が入ってきて金融のあり方が変わるということ。具体的に言うと松井さんの関わる音楽の世界では、20年前はCDが主流だった。それがインターネット経由でのダウンロードやストリーミングに変化。利益の構造が、CDの売り上げからコンサートや握手会とかになって、産業構造が根本から変わってしまったんです。これはあらゆる産業分野で進んでいて、特にフィンテックという金融世界のデジタル化でそのあり方が根本的に変わっているんです。どう変わっていくかは誰も明確にわかりませんが、間違いなくキャッシュレス化は進みます」

  • 慶応義塾大学大学院教授・岸博幸さん「フィンテックとは、簡単に言えば、金融の世界にデジタル技術が入ってきて金融のあり方が変わるということ」

――日本でもApple PayやGoogle Payなど新しい決済サービスがユーザーを拡大しています。今後、数年で一気にキャッシュレス化が進みそうですが、どんなメリットが考えられますか? また、デメリットも教えてください。

岸さん「メリットはたくさんあります。お店側は現金を扱う必要がないためコストが下がり、収支計算のミスもなくなる。個人としては現金を持ち歩かない、家に置かなくて済むとセキュリティが向上する。加えて、お金の動きがデータで可視化されます。デメリットは、高齢者など、デジタルに弱い人が取り残されてしまうことですね」

――それ以外に、たくさん使ってしまうんじゃないかという不安もありそうです。

岸さん「心理学の実験でも証明されているのですが、現金の支払いにはお金が減るという実感がありますが、カードでの支払いには実感が伴わないんです。キャッシュレス化が進むと浪費しやすいリスクはあるでしょうね」

松井さん「無駄遣いしないためには、家計簿アプリがいいです。支出を見える化することにより、お金管理への意識が変わります」

働き方改革でワークライフバランスを実現

――2つめのキーワードは「働き方改革」。これにより、どんな変化があるのでしょうか?

松井さん「高校生のころからAKBで活動していたので、公私の区別がないほど忙しく、アルバイトもしたことがありません。長時間の収録、海外ロケ、深夜からのラジオ生放送など、日によってバラバラ。私自身は、働き方改革といわれてもイメージがわきません」

  • 松井咲子さん「働き方改革といわれてもイメージがわきません」

岸さん「働き方改革が目指していることは長時間労働の見直しにより、ワークライフバランスを実現させようということです。その延長として多様な働き方を実現すること。これから徐々に効果が出てくるでしょうが、長時間労働を緩和してワークライフバランスを実現しようとするだけではダメ。働く人の賃金を上げるには生産性を上げないといけません。自由になった時間を活用して高度なスキルや知識を身につけたりなど、意識的に生産性を上げることも大事。その点がまだ周知されていないのではないでしょうか」

――個々がライフスタイルについて再考する必要がありそうです。そうするとお金とのつきあい方も変わってくるのではないでしょうか?

岸さん「日本の財政状況は世界最悪とも言われます。今後、景気はさらに下火になるでしょう。高齢者が増え続ければ、将来社会保障の水準を引き下げざるを得ません。お金の管理は自分で自分の身を守るという事が大事になってきます」

人生100年時代に備える

――最後のキーワード「人生100年時代を生きる」について、お二方の考えをお聞かせください。

松井さん「いつか結婚して子どもや孫ができたら、たくさんおもちゃを買ってあげたり、旅行に連れて行ってあげたりしたいなと思います。『自分の身は自分で守らないといけない』というお話で現実を知り、急に不安になってきました」

岸さん「日本は今難しいタイミングにあります。長寿国となりましたが、社会保障制度の引き下げの懸念もある。90歳まで生きるとしても65歳で定年を迎えてもまだ残り25年もあるんです。結論として今後多くの人が長く働く時代になるでしょう。終身雇用も崩れ、定年を待たずに転職を余儀なくされることもある。そうなると自分の人生のキャリアプランを再考する必要がある。それだけじゃ足りないから、資産運用をしっかりやって、なるべく将来の安心を高めていくことを早い段階から始めた方がいい」

――資産運用の重要性については周知されてきていますが、すでに何かしておられますか?

松井さん「していないです。何からはじめればいいのかわからないです」

岸さん「実際に金融・経済がわからないと投資ができない。おいくつでしたっけ?」

松井さん「27歳です」

岸さん「若いころからはじめれば、長い期間投資できるので有益です。重要なのは『長期分散投資をすること』。金融投資の世界って獰猛な人の集まりなんです。素人が勝ち残るにはリスクを下げるしかありません。ネット上の情報は信用してはダメ。年間3%のリターンでも20数年で元金・元値が倍になるんです。高望みをせず、偶然儲けたらラッキーぐらいに考えることですね。さらに、国は『貯蓄からの資産形成』を勧めるべく、さまざまな税制優遇を用意しているので、フル活用しましょう。例えばNISAやiDeCo、確定拠出年金、つみたてNISA(積立NISA)など。投資にはリスクがあるのでリターンは毎年変動しますが、税制優遇のメリットは確定的。分散投資、税制優遇を同時にフル活用することが大事です」

松井さん「いろいろと教えてほしいです」

岸さん「はじめは『インデックスファンド』といって、平均株価に連動したETFを買う。細かい企業個別のことを調べなくても株価の上下が経済全体で予測ができるので、それを通じて勉強するのがいいと思いますよ」

まとめ

松井さんのように「興味はある」「これからはじめたい」という人は、信頼できる情報に当たることが大事。そして、恐る恐るでもまずははじめてみること。そういう意味でも、この「マネービバ@汐留」では、最新のマネー情報を得ながら、銀行というプロに相談できる希少な場所といえる。ここを使い倒すことがカギになりそうだ。未来を明るくするのは自分次第……!

資産運用のポイント
1「長期投資」
2「分散投資(債券・株・不動産投資)」
3「貯蓄から資産形成」―「税制優遇」「インデックスファンド(投資信託、ETF上場投資信託)」―