前作『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』(15)に続き、シリーズ第6弾『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』(公開中)を手掛けたクリストファー・マッカリー監督に単独インタビュー。毎回違う監督がメガホンをとることで、それぞれの個性を発揮してきた『ミッション:インポッシブル』シリーズだが、マッカリー監督が初めて2度目のメガホンをとった。
監督、脚本家としてのスキルや情熱は、主演でプロデューサーでもあるトム・クルーズのお墨付きだ。実際にマッカリー監督は、トムの主演映画『アウトロー』(12)の監督をはじめ、プロデューサーや脚本家としてトムと9回もタッグを組んできた。
本作でのイーサン・ハント(トム・クルーズ)は、捕まった仲間の命と引き替えに、奪還したプルトニウムを再び敵に引き渡してしまう。イーサンとIMFチームは、敏腕エージェントのウォーカー(ヘンリー・カヴィル)と共に、3都市における同時核爆発を未然に防ぐべく、新たなミッションに挑む。
毎回トムによる命知らずのアクションに目を見張るが、本作の危険度&スリルは、ケタ外れだ。トムの骨折したシーンがそのまま使われた決死の“ビルジャンプ”や特殊なパラシュートを使うヘイロー・ジャンプ、パリ・凱旋門前をバイクで爆走したり、2000時間の飛行訓練をした後、トム自らヘリコプターを操縦したりと、正直なところ正気の沙汰とは思えないレベルのチャレンジだ。
インタビューでは、マッカリー監督にトムとの仰天撮影裏話をはじめ、興味深い監督のバックグラウンドや、脚本を手掛けた出世作『ユージュアル・サスペクツ』(95)の秘話まで話が及んだ。
――再び『ミッション・インポッシブル』シリーズのメガホンをとることになり、まさに“自己ベスト更新”を余儀なくされたと思いますが、どんな点を心がけて監督をされましたか?
2回目の監督に挑めたのは、きっと僕がクレイジーだから(笑)。シリーズのファンは、毎回、違う監督が演出することを期待しているから、僕も前作とは全く違う演出でいこうと決めた。だから編集者を除き、スタッフは全員替えたんだ。
こんなにスケールの大きい作品を撮ったことがない撮影スタッフもいたけど、僕は本作を通常のアクション映画じゃないスタイルで撮りたかったからちょうど良かった。その分、いろんなディスカッションをして撮ったから、時には衝突することもあったよ。
――アクションはどれも素晴らしいですが、特にヘイロージャンプのシーンが圧巻でした! IMAXレンズをスカイダイビングで使ったのは初めての試みだったそうですね。
使ったのは一番小さなデジタルカメラだ。IMAXカメラは大きすぎるので、フレームだけを使ったんだが、まるで1ショットのように撮るというのが最大の難関だった。スカイダイビング中のトムの顔を、ずっと入れたかったので、トムがダイブする時、カメラマンは後ろ向きに落ちていかないといけなかった。とても難しい撮影だったよ。
――トム・クルーズは、この撮影で100回以上もトライしたそうですね。
そうなんだ。ちょうど夕陽が落ちた直後を狙いたかったので、毎日1回3分間しか撮るチャンスがなかった。少し遅すぎると暗すぎるし、早すぎると明るすぎる。しかも複雑なショットだったから大変だった。また、撮り終わってからもビジュアルエフェクトをかけたので、実は一番お金がかかったシーンでもあるよ。
――これまで「ミッション:インポッシブル」を「ミッション:ポッシブル」に変え続けてきたトム。まさにトム自身がイーサン・ハントなのではないかと思ってしまいますが、監督はトムをどんなふうに見ていますか?
トムとイーサン・ハントとの大きな違いが1つだけある。イーサンはやむを得ずミッションに取り組んでいるけど、トムはいつだってやりたくてやっている。彼は仕事が大好きなんだ。だから時々トムに「イーサン・ハントは恐怖心をもってミッションに挑んでいるよ」と念を押すこともある。そのくらいトムは楽しんでやっているから。
――ちなみに、トムは毎回、1つ間違えば命取りとなる危険なアクションにトライしています。愚問かもしれませんが、監督として「これは危ないからやめよう」と、トムを止めることは可能でしょうか?
ううーん……(大きくため息)。きっとトムを止めることなんて誰にもできないよ(苦笑)。今回、ヘリコプターのシークエンスもかなり危険度が高い撮影で、全員が固唾をのんで挑んだけど、本当に何も起きなくて良かった。そしたら、ビルからビルへとジャンプするシーンで事故が起きてしまった。あれは、ずっと走って1回だけジャンプするという、他と比べるとそこまで難しいアクションではないと思っていたから、その油断が落とし穴になってしまった。
――監督は、高校卒業後、大学に行かずに5年間旅をしたり、探偵事務所で働いたりされたとか。その人生経験が今の仕事に生かされているのでしょうか?
探偵事務所ではなく、警備会社で警備員をやっていただけさ。特別ドラマチックなことも起きない退屈な仕事で、僕は映画館の警備もやっていた。当時住んでいたのは、ドラッグが蔓延しているような街で、映画館でトラブルやケンカが起きないように見張るのが僕の仕事だった。ただ、今振り返ると、その仕事をしていたことが、後々になってとても良かったと思っている。
――映画館の警備員の仕事が、今の仕事とどう結びついたのですか?
僕は映画館の一番後ろに立って、観客の反応をずっと観ていたんだ。観客は映画を観ながら、意見を交わしたり、反応したりするでしょ。警備員として働いた4年間で、人がどんなふうに映画を観るのか、また、どういうところに反応するのかということを無意識に学んでいったんだと思う。
観客は頭が良くて、なかでも本当に賢い観客は、物語の落ちを読んでしまう。その観客がポロリとネタバレをしてしまった時なんて最悪だよ(笑)。だから、監督は観客よりも賢くなければいけない。でも、ストーリー自体は誰もがついてこられるような作りにしなければいけないと痛感させられた。それを踏まえて書いたのが『ユージュアル・サスペクツ』の脚本だ。
――なるほど、『ユージュアル・サスペクツ』は、予断を許さない展開が見事なサスペンス映画でした。監督したブライアン・シンガーとは、トム・クルーズ主演映画『ワルキューレ』(08)をはじめ、何作も組まれていますね。
ブライアン・シンガーは僕の幼なじみで、小学校からの付き合いなんだ。彼とはずっと一緒に映画作りをしてきたよ。ブライアン・シンガーが大学で4年間映画作りを学んでいた頃、僕は映画館で“映画の見方”を勉強していたということだ。今、僕がトムと仕事ができているのも、過去の積み重ねがあったからだと思うと、実に感慨深いよ。
クリストファー・マッカリー
1968年6月12日、アメリカ生まれ。脚本家、プロデューサー、映画監督。『ユージュアル・サスペクツ』(95)で第68回アカデミー賞脚本賞他、数多くの賞を受賞。脚本と監督を務めた作品は『誘拐犯』(00)や『アウトロー』(12)、『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』(15)。トム・クルーズの出演作では、『ワルキューレ』(08)や『オール・ユー・ニード・イズ・キル』(14)、『ザ・マミー/呪われた砂漠の王女』(17)などの脚本を手掛けている
山崎伸子
フリーライター、時々編集者、毎日呑兵衛。エリア情報誌、映画雑誌、映画サイトの編集者を経てフリーに。映画やドラマのインタビューやコラムを中心に執筆。好きな映画と座右の銘は『ライフ・イズ・ビューティフル』、好きな俳優はブラッド・ピット。好きな監督は、クリストファー・ノーラン、ウディ・アレン、岩井俊二、宮崎駿、黒沢清、中村義洋。ドラマは朝ドラと大河をマスト視聴
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