酷暑が続く今年の夏。気軽に行ける涼しい場所で休日を過ごしたい……と思う方も多いはず。せめて雰囲気だけでも涼を感じるスポットはないものか?
それがあるんです! 東京は、さまざまな台地・低地や崖線(崖の連なり)から成り立っています。崖線には湧き水が多く見られ、手付かずの自然が残されています。また、崖線のそばには河川があるため、太古から人々が暮らしており、歴史・文化的な見どころも数多く点在します。
この企画では、特に湧き水の多い「国分寺崖線」の代表的な湧き水を2回に分けて紹介します。さあ、木陰と湧き水で涼を体感するワンデートリップへ出かけましょう!
(注)お出かけの際には帽子、日傘、飲料水などの熱中症予防対策と、虫よけスプレーを忘れずに携帯しましょう。
国分寺崖線とは
古くから地元で「はけ」と呼ばれる国分寺崖線は、立川市、国分寺市、小金井市等を経由し、世田谷区から大田区にかけて、約30キロメートルにおよぶ崖(河岸段丘)です。
武蔵野台地が多摩川に浸食され、10万年以上かけて形成されたそうです。大岡昇平の小説「武蔵野夫人」や、スタジオジブリの『借りぐらしのアリエッティ』で描かれた、東京郊外の水のある風景がまさに「はけ」の世界です。
湧き水スポット1 お鷹の道・真姿の池湧水群
JR国分寺駅南口から駅前の坂を下り、閑静な住宅地を歩くこと約12分。お鷹の道に一歩足を踏み入れると、涼やかなせせらぎの音に癒やされます。江戸時代に尾張徳川家の御鷹場(鷹狩りをする場所)に指定され、それにちなみ、崖線の湧き水を集めて流れる清流沿いの道をお鷹の道と名付けたそうです。
お鷹の道を歩くこと数分。環境省選定名水百選のひとつに選ばれた真姿の池湧水群に到着。この日の気温は36度でしたが、木陰と土と湧き水の効果でしょうか、爽やかな空気を感じました。
真姿の池には、嘉祥元年(848年)、絶世の美女といわれた玉造小町が病気に苦しみ、病の平癒を願い全国行脚をした際に、武蔵国分寺で願をかけたところ、「池で身を清めよ」との霊示を受けて快癒したとの言い伝えがあります。
湧き水スポット2 新次郎池
次に向かったのは、国分寺駅南口から徒歩約12分、東京経済大学構内にある新次郎池。同大学は国分寺崖線上にキャンパスがあり、南側に広大なハケの森が残されています。 新次郎池の名は、池の整備に当たった北澤新次郎元学長にちなむものだそうです。湧き水は池を取り囲むように5箇所から湧き出しているとのこと。ここは「東京の名湧水57選」に選ばれています。
湧き水スポット3 貫井神社
次に向かったのは、東京経済大学から徒歩約10分の所にある貫井神社。同社の境内には、豊富な湧き水が湧き出しており、枯れることがなかったことから黄金井(こがねい)と呼ばれ、市の名前である小金井の由来になったそうです。
こちらも「東京の名湧水57選」に選ばれています。また、境内の石碑文によると大正時代には、長さ50m×幅16.5m×深さ1.6mの湧き水を利用したプールがこの地にあったとのこと。さぞかし冷たくて気持ちよかったでしょうね~!
湧き水スポット4 はけの森美術館
最後は貫井神社から徒歩約15分のところにある、はけの森美術館。かつて同美術館の敷地は、大正から昭和にかけて、近代洋画壇の重鎮として活躍した中村研一のアトリエ兼私邸でした。
美術館の裏に広がる庭園は、美術の森と呼ばれ、美術館に入らなくても自由に散策可能。庭園の中央に湧水源があり、清らかな水がこんこんと湧き出ています。
美術館の裏にある旧中村研一邸とその庭は、戦後を代表するベストセラーとなり映画化された大岡昇平の小説「武蔵野夫人」の主人公、道子の家のモデルといわれています。大岡昇平は戦後の一時期、成城高校の同級生である富永次郎宅に寄寓して、「武蔵野夫人」を執筆したそうです。
富永宅と中村研一邸は同じはけの道沿いにあり、この趣のある邸宅と湧き水のある庭が、大岡昇平に物語のインスピレーションを与えたのかもしれません。2006年には、旧中村研一邸をそのまま利用した「はけの森カフェ」がオープン。湧き水を眺めながら、作品の世界に思いを馳せる……そんなひとときを楽しめます。
後編では調布市内と世田谷区内の湧き水を探訪します。