三菱UFJファイナンシャル・グループ傘下のカブドットコム証券が、オープンイノベーション推進の一環として、アマゾン ウェブ サービス(以下、AWS)を採用するとは8月7日に発表した。都内では同日に記者発表会を開催。関係者がAWS採用に至った経緯や、今後の展望などについて説明している。
オープンイノベーションに限界を感じていた
証券取引システムを自社開発し、インターネット接続回線からデータセンターに至るまで自社の技術で構築・運用することで経営のメリットを最大化してきたカブドットコム証券。
しかし最近ではシステムの多様性に対する要求が高まり、トラフィックの増大、サイバー攻撃など対処すべき課題も高度化した。これらの課題を解決すべく自社のシステムからの脱却を図る。AWS採用に至った理由は、ほかにもあるという。
登壇したカブドットコム証券の齋藤正勝氏は「フィンテックという言葉が出る前から、当社では金融とデジタルテクノロジーの融合を考えてきた。自社のシステムでスケーラブルに展開してきた自信もある」と、まずはこれまでの歩みを評価。その上で、AWS採用を後押ししたきっかけについて、次のように振り返る。
「証券業界は参入障壁が高い。新規参入する企業はオンプレミスのシステムを、野村さんか大和さんか、どちらかのシステムにつなぐ必要がある。例えばSBI証券さんは野村さんのシステムを、楽天さんは大和さんのシステムを借りて運営している。
これだと、オープンイノベーションにも限界がある」。では業界は、近い将来どのような方向に向かうのだろうか。そこまで考えが至ったとき、自分たちでシステムを抱えるより、クラウドファーストに乗った方が良いのではないかという思いが芽生えはじめたという。
少し前であれば、証券ビジネスを始めたければ証券子会社をつくるか、大手証券会社に頼るなどの必要があった。でも、いまや証券仲介業者などもあり、簡単に言うなら"APIを叩けば証券会社のサービスが提供できる"世の中になった。
齋藤氏は『個人の勝手な予想』と断わった上で、次のように説明する。「ゆくゆくは野村さんをはじめとした企業が、証券会社にAPIを提供すべく、ずらっとAPIを並べる時代が来る」。そうなった場合、どれだけトランザクションが来るかは予想できない。でも、よりオープンな環境のAPIが求められるのは間違いないだろう。上記の理由から、AWS採用を決断したと説明する。
同社では今後、kabu.com APIの活用によりUI/UXを得意とする異業種企業との連携で新しい投資サービスを実現し、顧客のニーズに沿ったサービスを提供、次世代の金融システムを創造していく方針だ。なおシステムを刷新、AWSが提供する標準化済み機能を利用することにより、約2倍のコスト削減効果が実現できると見込んでいる。
新しいAPIで新たな顧客を開拓
三菱UFJファイナンシャル・グループの亀澤宏規氏は「当社としても変革のとき。オープンイノベーションをキーワードに、ブルーオーシャンを探す、つくる、といったことをしていく。新しいAPIを通じて、これまでリーチできなかったお客様にリーチし、提供できなかったサービスを提供していきたい。
カブドットコム証券がMUFG {APIs}の中でkabu.com APIを展開することの意義は、非常に大きいと考えている。グループで一体となり、お客様に様々なサービスを提供していければ」と話した。
このあと、発表会にゲスト登壇したアマゾン ウェブ サービス ジャパンの長崎忠雄氏は「AWSは大きな初期投資なしで、使った分だけお支払いいただくサービス。ビジネスに対してスピードと俊敏性を提供できる。
アメリカであればNetflix、Uber、国内であればソラコムさん、サンサンさんなど急成長中の企業が、面白いアイデアをAWSのクラウドに乗せてサービス展開している」と紹介。カブドットコム証券の方針については、証券業界の垣根をなくし、異業種の新規参入をも促す画期的な動向と評価。その展開に期待を寄せた。