仕事の生産性アップに直結する、パソコンのタッチタイピング。前回は、タイピング界のゴッドハンドこと、隅野貴裕さんに上達への第一歩であり近道となる「ホームポジション」習得の重要性を解説してもらいました。
3つのスゴ技を学ぶ
今回はスピードアップにつながるテクニック。達人が教える、少々邪道とも言える技の数々には、既にタッチタイピングを習得している人でも「目から鱗」と思えるはず。さらなるスキルアップを目指して、実践してみて欲しい3つのテクニックを紹介します。
キーを使い分ける
隅野さん:タイピングのスピードアップの秘訣は、同じ指を使わないこと。「あいうえお」と「あああああ」を入力してみるとわかると思いますが、同じ指を連続で使う「あああああ」のほうが負荷が集中して速度が落ちます。慣れてくると、同じ指を使わない「あいうえお」のほうが速くなるのです。したがって、いかに同じ指による連続打鍵を回避するかがスピードアップのカギです。
最初に聞いた時は、連打のほうが速いのでは? と思いました。が、よくよく考えると、同時に複数の指で打つほうが速いですね。複数の指がキーワードになります。
隅野さん:キーボードのローマ字入力には、同じ文字を打つ場合でも複数の選択肢がある文字があります。例えば「ふ」は「hu」でも「fu」でも入力できますよね。
隅野さん:例えば「フイ」の2文字。右手人差し指が連続する「hui」に比べると、「fui」のほうが左手に負荷が分散される分ラクに速く打つことができます。他にも「移管」を「ikan」と入力すると、「i」と「k」で中指が連続してして入力速度が落ちますが、「ican」なら少し速くなります。このように、複数の入力方法がある場合には、より速く打てるほうを選択することがポイントです。
指を使い分ける
タイピングにおいて、ホームポジション、そしてその正しい指使いを守ることはとても大切ですが、タイピング速度を上げるためにはあえて教科書通りではない指使いに変えることも必要だと隅野さんはいいます。
隅野さん:例えば、「ゆ(yu)」や「ぬ(nu)」は、教科書通りの指使いでは右手の人差し指のみを使います。ですが、この「u」の部分を人差し指ではなく中指で打ってみると、どうでしょう。同じ指の連続打鍵が無くなり、グッと速くなるのです。先ほどご紹介したキーの使い分けと合わせると、「ふゆ」と打つ場合に、「huyu」と打っていた人が「fuyu」にキーを変え、さらに「u」を右手中指で打つようにすると、指1本で入力していた時と比べて負荷が分散され、かなり速く打てるようになります。
隅野さん:この視点で言うと、日本語の「ん」は曲者。「みんな」など、「ん」の後にナ行の文字が続く場合には、「minnna」と「n」を3回連続して打たなければならず、負担が大きくなります。
隅野さん:そこで、こうしたケースでは「ん」を「xn」とタイプすることを推奨します。これなら左手に負荷を分散することができます。
漢字変換の工夫
日本語入力において、漢字変換は避けることができません。そしてこの漢字変換をいかにスムーズに行うことができるかも、タイピングの速さを左右するポイントだそうです。
隅野さん:漢字変換を単語・単文節単位で行っている人も多いと思いますが、複数の文節を一気に変換する連文節変換のほうが効率的です。例えば、「風が吹く」という文章を入力したい場合に、「かぜ」という単語で区切って変換をすると、「風邪」が出てきてしまうかもしれませんところが、「かぜがふく」をまとめて変換すると、文章全体の単語や動詞の繫がりを踏まえ、「風が吹く」という正しい変換が表示される可能性が高くなります。このため、あまり細切れに変換せず、思い切って長い文章で変換したほうが効率的な入力に繫がります。
確かに、最近のIME(文字入力をサポートするソフトウェア)は優秀なので、長文変換した方が効率が良いですね。さらに隅野さんのスゴ技が紹介されます。
隅野さん:読みのとおりではなく、あえて別の読みで入力する「異読変換」も有効です。例えば、「上手い」と入力したい場合、「うまい」で変換すると「旨い」や「美味い」といった同音異義語が変換候補の上位に表示される可能性があります。そこで「うわて」と入力して「上手」に変換し、その後「い」を追加で入力することで、変換候補の一覧から正しい変換を探す手間と時間を短縮できます。
隅野さん:他にも名詞を動詞化させて変換候補を絞り込むやり方もあります。「挑戦」という単語を入力したい場合に、あえて「挑戦する」と入力して動詞化することで変換候補を絞り込みます。その後バックスペースキーで不要な「する」を削除するのです。人名などの固有名詞を入力する際にもよく使うテクニックですが、いくつもの変換候補の中から目的の漢字を探すよりも、あえて別の読み方や別の単語に置き換えることでその手間を省き、後から不要な文字を削除するほうが速いのです。
文字入力の際の学習機能も便利です。けれど、上記のような技術を身に着けると、学習機能に頼らなくても目的の漢字を自由自在に入力できるようになってきます。毎回変換候補の表示順が変わってしまう学習機能は、オフにしたほうが結果的には速く・安定した漢字変換に繫がるかもしれません。
最後に、隅野さんの超絶タッチタイピング動画を紹介します。まさにゴッドハンドです。
以上、タイピングの達人・隅野貴裕が伝授する、タッチタイピング高速化の3つの裏技。既にタッチタイピングを習得し、ある程度のスピードで入力ができる人でも「なるほど!」と思った方法があるのではないでしょうか。
知らなかった方法がある人は、すぐに取り入れて、デスクワークのさらなる効率アップに努めてみてはいかがでしょうか。
プロフィール : 隅野 貴裕氏
全日本タイピスト連合 代表
毎日パソコン入力コンクール 技術顧問
学生時代よりタッチタイピングの面白さと奥深さに興味を持ち、毎日新聞社主催のタイピング全国大会にて6年連続優勝。内閣総理大臣賞、総務大臣賞、東京都知事賞など多くの賞を受け、その後同大会の技術顧問を務める。 2003年に全日本タイピスト連合を設立し、タッチタイピング技術の普及・深化・底上げと目的として、文字入力の技術研鑽や学校等団体へのタイピング技術指導や講演も行う。