RPAのパイロット導入であるカタログ請求システムで十分な手応えを得られように見えるが、ロボットの作成には、3カ月ほどかかったという。
「(人の作業を録画し、同じ作業を行わせることができる)レコーディング型ですから、動作するロボットを作ること自体は難しくないということでした。まずはそれが本当かどうか確認してみようということで、現場主導にしました。実際には、当時のインタフェースが英語であったため翻訳しながら確認しましたし、うまくいかない部分をエンジニアが相談に乗ることもありました」と楠本氏。
しかしその後、受託業務30件に対して100件以上のロボットを作成。これらの稼働によって月間180時間以上の人的作業を削減できるようになったという。
「基本的に業務の見直しというものはやっていません。現状の業務の中でロボットに任せられる場所を探し、それを自動化することで手間を減らしました」と楠本氏は語る。
RPA化の業務の切り分けに使われたのが、分析チェックシートだ。これによって、業務のステップを可視化し、人の手が必要な部分とルーチンで自動化できる部分に分ける。
「さらに1つの業務の流れを追って1つのロボットにするのではなく、ロボットのパーツ化を行いました。たとえば、多くの業務で発生するシステムへのログイン、トップメニューの選択、サブメニューの選択といった各種作業を個別のロボットにし、加えて、個別に異なる部分はExcelのデータを参照する形にして、必要時にはExcelを書き換えるだけで済むようにしました」(楠本氏)
つまり、レポートの送付先メールアドレスを変更するというような時にロボット自体に手を入れず、参照しているExcelのシートにあるメールアドレスだけを書き換えればよい仕組みだ。これによってメンテナンス性が高く、現場でも簡単に変化に対応できるロボットが作成できたという。
メンテナンス性とスピードUPを果たしてグループ企業へ展開
住友林業情報システムでは、この成果をもって2016年からはロボットの販売業務に向けて動き出した。
「社内である程度展開したところで課題が見えてきたので、一旦外販は停止し、運用とメンテナンスについて見直しをしました。改善を行った上で、本格的な展開は2018年から行っています」と楠本氏。
課題の1つは、業務の変化に対応するためのメンテナンス性の向上だ。これは先に述べたロボットのパーツ化とパラメーターのExcelからの取得で対応している。
もう1つは、ロボット作成にあたってのスピード感だ。これはRPAがある程度知られるようになり、業務効率化のために導入を希望する声が多かったことに起因する。
「現場でレコーディング作業することを許してしまうと、適切な利用ができていないロボットや、野良ロボットなどができてしまう可能性があるため、作ったロボットを提供するという形をとっています。しかし、やりたいという声はあっても、内部作成が間に合わないという状況でした。そこで取引先に覚えてもらって対応しました」と楠本氏。
どこでどのようなロボットが動いているのかを一元的に管理する、ロボットの人事部門ともいえるシステムも作られた。
こうした準備を経た上で本格的なグループ展開を開始した現在は、現場からの要望があったもの、住友林業の情報システム部門として効果があると判断したものなどから導入が進められているという。
「たとえば、ハウスメーカー部門は60を超える支店があるのですが、全支店で共通する業務をロボット化しようとしています。今後はグループ内への展開に加えて、取引先などにも対応して行きたいですね」と語る楠本氏は、「RPAが使えない業務はありません。業務の一部でも手放すことができれば効率化できます。業務全体をロボット化するのではなく、人とロボットを共存させるのです。難しいのはそこですね。人とロボットをつなぐのが大変です。人が使いやすいインタフェースが不足しているので、そのためのポータルなどを作らなければなりません」と、楠本氏は積極的な導入と情報システム部門の役割についても語ってくれた。