異例の進路を辿った台風が過ぎ去った千葉県は幕張メッセで、7月29日に開催されたガレージキットの祭典「ワンダーフェスティバル2018[夏]」。デジタル原型の普及が進むなか、今までにないクオリティでの造形を可能にしてきた数々のツールたち。本稿では、同イベント会場内「デジタル原型ステージ」で行われた講演「Fusion 360で創り出すメカモデリング」の様子をお届けする。
講師には、AutodeskでFusion 360エバンジェリストとして活躍する藤村祐爾氏が招かれ、会場に用意された座席には多くの聴講者が詰め掛けていた。
VRの世界に求められる「メカモデリング」
講演では、近年注目を集めているVRの世界においてメカモデリングの作り込みが求められていると話す藤村氏。しかし、その全てを全力投球して作り込むのではなく、ギュッと密度の凝縮された場所と、そうでない場所の密度感の割合が重要だという。「20%の部分に密度の濃いディテールを、80%はヌルッと流す」とは藤村氏の言葉だが、密度感のメリハリに気を配っているそうだ。
藤村氏は、直近のプロジェクトで携わった作品も披露した。垂直離着陸が可能なUAM(アーバン・エア・モビリティ)の研究を行う「Project STINGRAY」の機体をデザイン。ドローンと飛行機が合わさったようなデザインは、なんと1週間の期間で仕上げたのだという。
「使っているツールはわりと単純です。ボリュームを造って切る。そしてフィレット(面取り)。この繰り返し」とのこと。しかし、ここでポイントとなってくるのがツールのコンビネーションだという。思い描いているカタチを整形するために「どのツールでどんな作業工程を経るか」というツールコンビネーションのパターン化を行い、“自分のなかのマイルール”としてライブラリ化できれば、作業効率がグッと向上するという。
「リアルに見せるため」に必要なこと
話題は「作品をいかにリアルに見せるか」に移る。藤村氏は、個々のパーツが実際に造り出せるサイズなのか、に気を配っているとのこと。実際のクルマ製造の現場のように、例えばドアも1枚の鋼板のみでできているのではなく複数のパネルや部材が組み合わさってできている。これと同じように、「Fusion 360」でメカモデリングする際にも、単に格好良いデザインを生み出すというのではなく、本当に造り上げられるかといった視点を持つことで、リアルさがグッと向上するとした。
見えるディテールと見えないディテールを切り分けてデフォルメする能力や、つねに一方向で作業をするのではなく向きを変えてモデリングを行うこと、そして、“自分の色”を持つことに挑んで欲しいと話した藤村氏。藤村氏は、チャンファー(面取りの一種)を大胆に行いながら、その面の上下にフィレットを入れることで、SFライクなリアルさが醸成できると語った。
加えて、作業効率向上のために使い回しが可能なパーツ、テンプレートを自分の引き出しとして用意する重要性を力説する藤村氏。以前、筆者はハリウッド映画の3DCGを担当した人物に話を聞く機会があったが、同じようにさまざまなパーツをライブラリ化していると語っていた。
ライブラリを拡充させることは、自分の表現を広げ、作業時間の短縮にも繋がる。既に「Fusion 360」を使っている方はもちろん、これからメカモデリングに挑戦したいという方は、これらのポイントを念頭に挑んでみてもいいかもしれない。