オンキヨー&パイオニアは7月31日、オンキヨーブランドから密閉型ヘッドホンの新モデルを発表しました。ハウジングに木材の「会津桐」を用いているのが最大の特徴で、2016年から、オーディオイベントなどで試作機が披露されてきたものが、ついに!
今回、クラウドファンディングサイト「未来ショッピング」を活用し、先行販売を行います。「桐ヘッドホン+オリジナルヘッドホンスタンドセット」は限定15台で、価格は32,400円(税込・送料込)。単体の「桐ヘッドホン」は324,000円(税込・送料込)です。1台1台、製品にはシリアルナンバーが刻印されます。クラウドファンディングの期間は2018年9月30日まで、発送は2018年11月1日以降の予定です。
もちろんハイレゾ対応で、再生周波数帯域は10Hz~80,000Hz、出力音圧レベルは99dB、インピーダンスは40Ω、接続プラグは3.5mmの3極ミニプラグ、重さは400g。付属品は、1.6mバランスコード、3mアンバランスコード、6.3mmステレオ標準プラグアダプターです。
桐ヘッドホンが製品化されるまで
さて、桐シリーズ第2弾として登場した“桐ヘッドホン”こと「SN-1」ですが、いきなり世に現れたわけではありません。弊誌の過去記事を引用しつつ、今回正式に発表されるまでの道のりを紹介してみましょう。
桐ヘッドホンがはじめてメディアに公開されたのは、2016年2月のこと。当時の記事を振り返ると、ハウジングに桐材と振動板にセルロースナノファイバーを採用するという基本コンセプトは一貫しているものの、多くの部分に変化が見られます。
たとえば、定在波を防いで音の響きを均一にする目的で、ドライバー背面部分に施した「綾杉彫り」を見比べると、初期版は鋭角だった文様が製品版では丸みを帯びています。今回の発表会では、彫りで響きを制御する和楽器の構造に着目したとの説明がありましたが、相当な試行錯誤があったことがうかがえます。
ハウジングの構造も大きく変化しています。製品版では50mm径ドライバーを背面から抱え込みベースに固定する「フルバスケット方式」を採用、内部は二重構造となっていますが、初期版を見るとベースの孔しか確認できません。
製品版ではスエード調の高級人工素材・アルカンターラが奢られたヘッドバンドとイヤーパッドも、実は大きく変わりました。2016年2月の時点では柔らかい皮革を、2016年12月に開催された「ポタフェス2016冬」の記事によれば、羊の本革を使用しています。
製品開発にあたったオンキヨー ヘッドホン技術グループの山本氏に話を訊くと、「開発初期は(綾杉彫りを)手彫りしていました」とのこと。何度も試作を繰り返したそうですから、会津桐という素材の長所・短所を理解したうえで設計に反映させたことは想像に難くありません。
ハウジング部分全体が桐材の削り出しなのかと訊ねると、「側面部分はアッシュ材を採用しています」(山本氏)。桐材は堅さと粘り強さがある一方で、孔を開けるなどの加工が難しいため、側面部分はアッシュ材として桐材にはめ込んで使用しているそうです。アッシュ材は桐材より堅いものの、軽さなど素材特性の傾向がよく似ているそうで、ここにも強いこだわりが感じられます。
広い音場と“色気”のある音
SN-1の試聴は、USB DAC搭載ヘッドホンアンプ(Pioneer U-05)とパソコンの組み合わせで行いました。音源は、Steely Dan『Aja』、Keith Jarrett『The Koln Concert』、宇多田ヒカル『花束を君に』など、FLACファイル(96kHz/24bit~192kHz/24bit)をチョイスしています。
まずは装着感ですが、SN-1のアルカンターラで覆われたイヤーパッドは柔らかく、肌によくフィットします。側圧はやや緩めで圧迫感はないものの、しっかり耳もとにホールドします。蒸れる感じもありません。見た目は重厚な印象ですが、意外なほど軽やかな装着感を楽しめます。
肝心の音はといえば、スピード感というより音場感を重視した音作りを感じます。100%セルロースナノファイバーの振動板を採用したからか、スネアのアタックはキレよく、バスドラも不自然な膨らみは感じさせませんが、ピアノでいえばアタックよりサステインに魅力を感じさせる音、と表現すれば伝わるでしょうか。倍音成分の豊かさもあり、音のニュアンスに色気があるのです。音場の広がりも豊かで、楽器の位置関係をリアルに感じます。
セルロースナノファイバーという素材は、2016年に復活を遂げたハイエンドスピーカーシリーズ「Scepter(セプター)」に採用されるなど、オンキヨーにノウハウが蓄積されています。鋼鉄の5分の1という軽さでありながら、強度は5倍以上という特性は振動板の素材に適していますが、100%は世界初とのこと。この素材なくしてSN-1の音もなかったはずです。
このSN-1は密閉型ですが、しばらく音楽を聴いていると開放型のような錯覚に陥ります。軽い装着感がそうさせるのかもしれませんが、桐という木材の特性が大きく影響しているのでしょう。値段は約30万円とかなりのものですが、セルロースナノファイバー振動板の製造コストが下がり、量産効果が出ればあるいは……。ついそんなことを考えさせてしまうヘッドホンに仕上がっていることは確かです。
SN-1は、東京・秋葉原のショールーム「ONKYO BASE」で試聴できます。豊かな音の空間に誘(いざな)ってくれるSN-1を、ぜひ体験してみてはいかがでしょうか。