日本海の荒波が打ち寄せ、断崖絶壁の高さが20mにも及ぶ場所があることで知られる国の名勝・天然記念物の東尋坊。自然が生み出したその姿は、勇壮というよりむしろ、壮絶ともいうべき迫力を備えている。
北陸新幹線で身近になった福井へ
この東尋坊がある福井県坂井市は、兼六園などの観光地で知られた金沢から在来線でわずか30分程度。北陸新幹線の開通により、首都圏からのアクセスも一段と早くなり、週末の余暇を利用した観光客が増えていることでも知られている。
2023年の春には敦賀まで延伸されて開業する北陸新幹線は、坂井市に隣接するあわら市に芦原温泉駅を設置、これが実現した際には、わずか3時間強の乗り換えなしで立ち寄れることになる。
首都圏に住んでいると雄大な太平洋は身近だが、荒々しい日本海にはなじみが薄い。その日本海といえば海産物の宝庫として、知る人ぞ知るエリア。富山県ならホタルイカや白エビ、福井県なら越前ガニやふぐなど、海の幸には目のない人であれば、生唾もののグルメスポットなのだ。
坂井市とあわら市では、新たな地域ブランドとして「がけっぷちリゾート」を企画。今回はそこに便乗し、東尋坊のお膝元を目指し、その地で食べられる新鮮な魚介を使った海鮮丼を食することにした。
北陸本線芦原温泉駅より、バス(京福バス東尋坊線に揺られて約1時間。目指す場所は東尋坊だが、目的地はその入り口にある東尋坊横丁(福井県坂井市三国町東尋坊)。ここにはお土産屋や飲食店が軒を連ね、ご当地ならではの名産品などを売っているのだ。
てんこ盛りお刺身丼に巨大な甘えび丼
生け簀に泳ぐ越前ガニやご当地の土産品を横目に、目指すのは「やまに水産」。創業80年という老舗で、福井県三国港の仲買業者の資格を持つ。それゆえ、市場の競りで直接仕入れることができるため、新鮮なだけでなく手軽な値段でおいしい海の幸を提供できるのだという。
昼飯時を狙って早朝の新幹線に乗り込んだため、腹の虫は絶叫に近い悲鳴をあげている。もちろん財布の中身とは念入りな打ち合わせが必要だが、ここまで来た以上、腹八分目ならぬ十二分目まで食べ尽す覚悟だ。
新鮮な海の幸が振る舞われている以上、安いとはいえその値段はきっと高いのではないか。そのような心配をしながら、通された座敷のメニューを見ると、いずれも1,500円程度ではないか。それなら諭吉をはたいてでも、食べられるところまで挑戦することにした。
まずは「お刺身丼」(1,650円/味噌汁付き)。甘エビやハマチ、イカにマグロが彩る海の幸のオールスター丼がこれだ。惜しみなく盛りつけられた刺身たちは、今にも泳ぎ出しそうな色艶。いずれも今にも泳ぎ出しそうな鮮度なことに驚かされる。
続いて、溢れんばかりの甘エビが盛りつけられた「甘えび丼」(1,080円/味噌汁付き)。その数、なんと10匹という豪華さだ。くるくる回る寿司屋でしかお目にかからない甘えびとは、その味もサイズも一線を画している。口にすると、芳醇なえびの香りが広がり、箸が止まることのない逸品だ。
まだまだいくぞ! うに・いくら丼に焼き魚定食
しかし、これだけ豪勢な丼を食べれば、さすがの大食漢もギブアップ寸前。そこで切り札にとっておいたのが、「うに・いくら丼」(1,620円/味噌汁付き)。ウニとイクラが、丼から溢れんばかりに盛りつけられた最高の贅沢品だ。
濃厚な味のウニと、プチプチと弾けるようなイクラの食感が奏でる二重奏は、まさに極楽浄土の味わいといえるのではないか。相交わることのない、異なる食感の宝石たちを頬張って完食したところで白旗宣言。所せましと盛りつけられた新鮮な海の幸は、限界まで胃袋に収まったのだった。
今回、海鮮丼シリーズを食べ尽そうとしたのだが、同行者は「焼き魚定食」(1,620円)を注文。その日のオススメの魚を焼き、ほかにも刺身など定食仕立てのセットなのだが、途中、一口ご賞味させてもらうことに。驚いたのは、新鮮な魚は焼いても違う、ということ。
町場の食堂で食べるそれとは明らかに違う、ふんわりとしながらもしっかりと火は通り、魚の旨味が凝縮された逸品なのだ。次回訪れた時には、丼ではなく焼き魚にチャレンジしてみようと思ったのは内緒の話。
人さみしい荒れた海と断崖絶壁のイメージが強い東尋坊だが、あなどることなかれ。そうした厳しい自然の中で育まれた海の幸こそ、誰の舌でも満足させることができるのだ。冷たい海流の中で必死に生きる魚たち。その生命力をおいしさに変えて、これからもグルメを楽しんでいきたいものだ。
●information
やまに水産
住所: 福井県坂井市三国町安島64-1
アクセス: JR芦原温泉駅下車、東尋坊行きバス約40分(「東尋坊」下車)
※価格は税込