『まほろ駅前多田便利軒』シリーズのつかみどころのない自由人・行天、『探偵はBARにいる』シリーズの腕っぷしは強いがマイペースな高田、『舟を編む』での心優しい真面目な編集者・馬締。俳優・松田龍平は、これまで数々のキャラクターを演じてきたが、9月7日に公開される主演映画『泣き虫しょったんの奇跡』では、“実在の人物”という難役に挑んだ。
同作は、異色の棋士・瀬川晶司五段の自伝的作品『泣き虫しょったんの奇跡』(講談社文庫刊)を原作に、豊田利晃監督がメガホンを握る。小学生の頃から将棋一筋で生きてきた“しょったん”こと瀬川晶司は、プロ棋士の年齢制限の壁に阻まれて大きな挫折を経験するが、「やっぱり、プロになりたい」と人生をかけた2度目の挑戦へと踏み出す。
歴史上の人物ではなく、実際に今も活躍する現役の瀬川五段を演じるのは、「どうしても今の瀬川さんが気になってしまった」と戸惑いもあったという松田。何度も撮影現場に足を運んでいた瀬川五段本人にその都度意見を聞きながら、撮影に臨んでいたという。その一時は苦労にも思えるが、「自分のやりたいことに対して、自分がどれだけ魂を注いでいるのか、という晶司の気持ちが、自分の役者への気持ちがリンクしたような気がします」と語る通り、役者冥利に尽きる時間でもあった。
松田は、時には自分を投影させながら、年齢制限のタイムリミットが迫るにつれて精神的に追い込まれる姿や大粒の涙を流す感情を熱演。俳優としてこれまでのイメージにない新たな顔を見せつつ、しょったんの心の機微と変遷を丁寧に表現し、「瀬川晶司」という一人の男の波乱に満ちた人生を構築していった。
松田が豊田監督作品で主演を務めるのは、一躍脚光を浴びるきっかけにもなった2002年公開の『青い春』以来、16年ぶり。「豊田さんと一緒にまた映画を作れるということだけで、是非やりたいと思いました」と喜びを噛み締めながら「とにかくがむしゃらに、自分のやれることは全部やろう」という決意のもとで挑んだ。撮影を終えた松田は、こう言い残している。
「この作品に出会えたことが、自分の人生においても大切なことがたくさん繋がっているような気がしました」
(C)2018 「泣き虫しょったんの奇跡」製作委員会 (C)2018 瀬川晶司/講談社