NTTドコモは10日、沖縄県の自治体などと共同で地域振興に取り組む「沖縄振興推進重点取り組み6分野」を発表しました。その一環として、5G環境を構築してパートナーのサービス構築などを支援する5G検証施設「ドコモ5Gオープンラボ OKINAWA」を12月に開設します。

  • こちらは「ドコモ5Gオープンラボ OKINAWA」……ではなく、沖縄本島定番の観光地、首里城の守礼門。発表会は沖縄県で開催されました

東京、大阪に続く3番目の5Gオープンラボで、同社の法人ビジネス本部長で取締役常務執行役員の古川浩司氏は、「沖縄は台湾や中国などにも近く、人口増や出生率の高さなどポテンシャルが高い」と指摘していて、取り組みを強化することで沖縄の発展に寄与したい考えを示しています。

  • ドコモ法人ビジネス本部長・取締役常務執行役員の古川浩司氏

第3の5G検証施設「ドコモ5Gオープンラボ OKINAWA」

ドコモの取り組みは、自然/文化保護推進、観光/インバウンド推進、暮らしやすさ/働きやすさ向上、モビリティ向上、教育改革推進、産業振興推進の6分野。「沖縄にとって極めて重要な課題にICTを使って対応したい」と古川氏は言います。自然/文化保護推進では、国頭村、大宜味村、東村という沖縄やんばる3村と協定を締結し、自然や景観、希少動物、文化の保護といった課題に対して共同で対応することを目指します。

  • 沖縄に対する取り組み重点6分野

  • 自然/文化保護推進の取り組み

観光/インバウンド推進では、ビッグデータ解析やVRを活用した効果的な観光施策の立案、翻訳ツールなどに加えて、キャッシュレス決済の推進について取り組む計画で、宮古島市と連携して、島内のタクシーのクレジットカード対応を推進するとしています。また、連携に参画する中国・銀聯が利用者にクーポン提供などで都島氏の店舗へ誘導するなど観光客の送客に関しても模索していくそうです。

  • 観光/インバウンド推進の取り組み

  • 暮らしやすさ/働きやすさ向上のための取り組み

暮らしやすさ/働きやすさ向上では、石垣市でのスマートアイランド実証実験で水道メーターの漏水監視やゴミ収集車の現在位置把握といった取り組みを実施。モビリティ向上では与那国町でのAI運行バス、沖縄県でのバイクシェアサービスの展開などを提供。教育改革推進では、LTE教育タブレット導入の推進を実施していくとしています。

  • モビリティ向上での取り組み

  • 教育改革推進の取り組み

そして産業振興推進では、5Gオープンラボによって5Gの検証環境を常設することで、沖縄県下の企業・団体などのサービス検証などに活用してもらいたい考えです。5Gのネットワーク環境や基地局などに加え、4Kの映像機器も準備されるため、さまざまな検証が行えます。4月から開設されている東京のオープンラボではすでに約60件の検証が行われたほか、オープンパートナープログラムの参加企業・団体は1,500を突破するなどニーズの高さが伺えます。

  • 産業振興推進の一環として、5Gオープンラボを開設

  • 全国3番目に開設される5Gオープンラボ OKINAWA

今帰仁城をVRで再現する取り組み、3社が協力

ドコモとしては、今秋に開設する大阪のオープンラボに続く、全国3番目のオープンラボとして、沖縄の産業振興に貢献することが狙いです。沖縄県、沖縄ITイノベーション戦略センター、沖縄オープンラボラトリが中心となって、5Gを活用した産業振興を図っていくとしています。

  • 5Gを活用した産業振興や課題解決を目指して地元企業や自治体らとも一緒に取り組みを強化する方針

こうした取り組みの一環として、ドコモは凸版印刷、沖縄観光コンベンションビューローとともに、5Gを用いた歴史教育向けVR/ARコンテンツ配信の実証実験も12月に行います。沖縄県北部にある歴史史跡の今帰仁城を再現するなどしたコンテンツをVRゴーグル向けに配信し、現地の利用者が当時の様子をVR映像として見られるほか、遠隔地の研究者による解説をリアルタイムに受信できるというものです。

  • 5Gを生かした高精細4KVRやARを活用したコンテンツ配信の実験

  • 低遅延を生かした遠隔授業も実施します

5Gを活用することで、大容量の高精細な4KVRコンテンツを配信できるほか、タブレット向けに配信したARコンテンツで出土品などを解説する場合も、遠隔地の研究者側の画面操作などが遅延なくタブレットに表示され、遠隔授業としても成立することが期待されています。

  • 石垣しか残っていない今帰仁城だけでなく、人々の生活や戦争の様子などが再現されます

  • 4KVRコンテンツ配信で使用されるHMDはOculus Goを想定しているそうで、5G回線でコンテンツを受信し、さらにOculus Goまでは無線LANを利用するとのことです

沖縄歴史研究の第一人者である法政大学沖縄文化研究所国内研究員の上里隆史氏が監修し、コンテンツは凸版印刷が作成。ネットワークをドコモが提供します。まずは2019年1月までの予定で遠隔授業の可能性などを検証していくとしています。

遠隔授業に加えて、歴史遺産の再現による文化の継承や新たな沖縄歴史ツーリズムの実現といった目標も挙げられていますが、まずは5Gを使ったコンテンツ配信は約2カ月程度で、その後はLTEを使ったサービス提供を検討していくとしています。

こうした歴史遺産は全国にたくさんあり、今までは石垣を見上げて往時を自分で想像することしかできませんでしたが、現地で実際の光景を見て、さらにVRゴーグルをかければ、現実の映像の上に、高精細なCGで歴史遺産が再現されるのを見られる、というのは、臨場感も高まって想像力をかき立てられ、学習にも、観光にも力が入りそうです。今回は今帰仁城だけですが、今後、ほかの観光地にも拡大して欲しい取り組みです。

5Gで地域振興、得られた知見は全国へ展開

今回の発表では、12月のオープンラボの開設に合わせて5G環境を用意することで、ほかの沖縄県内の自治体、地元企業らがさまざまなアイデアを持ち寄り、地域活性化などに繋がることを古川氏は期待しています。さらに、こうした既存の取り組みをほかの自治体などにも拡大できるように進めていくとしています。

人口増や出生率向上、東アジアの主要都市と東京にそれぞれ4時間以内にアクセスできるという地理的に有利な点など、沖縄県を成長のポテンシャルの高い市場として捉える古川氏。重点6分野の取り組みは、決して目新しい内容ではありませんが、沖縄県で得られた知見を、さらに全国にまで拡大していきたい考えを示しています。

なお、上述の通り、沖縄は3番目の5Gオープンラボとなりますが、その他の地域に新たなラボを開設するかどうかは、環境の変化やニーズに応じて、としています。

  • 首里城正殿。ちなみにこの距離だと意外に分かりづらいですが、漆などの塗り直しのため、下部分は正殿がプリントされたシートでラッピングされています