スポーツをライブで観戦するとき、「選手を別の角度から見たい」「すぐにリプレイを確認したい」などと思うことがあります。眼の前で行われている試合を見つつ、手元のタブレットで自分だけの選手映像をチェックできたら――。沖縄セルラー電話、KDDI、KDDI総合研究所が実証実験を公開した「自由視点映像」は、そんなスポーツ観戦におけるファンの願いを叶えるものになっていました。

  • KDDI、5Gを使った「自由視点映像」スポーツ観戦の実証実験

    沖縄セルラー電話、KDDI、KDDI総合研究所が開発した「自由視点映像」とは?

自由視点映像とは?

KDDIでは、自由視点映像として「タイムスライス自由視点」と「自由視点VR」という2つの観点から開発を進めています。タイムスライス自由視点とは、様々なアングルから撮影されたカメラ映像を滑らかに切り替えていくことで自由視点を実現する、従来の方式です。

カメラの台数がそれなりに必要となり、またカメラを向けていないアングルからの映像は見ることができないというデメリットもあります。一方で自由視点VRは、3Dモデルを作成することで自由視点を実現する技術。カメラの台数を大幅に減らせて、カメラのないアングルからの映像も視聴できます。

  • KDDI、5Gを使った「自由視点映像」スポーツ観戦の実証実験

    沖縄セルラー電話、KDDI、KDDI総合研究所は、6月27日に行われたプロ野球公式戦(北海道日本ハムファイターズ 対 福岡ソフトバンクホークス)のスタジアムにおいて、5Gタブレット端末を活用した自由視点VR映像のリアルタイム配信に世界で初めて成功しました

【動画】音声が流れます。ご注意ください。

沖縄セルラースタジアム那覇で行われた実証実験に筆者も参加してきたので、その設備や体験した感想をお伝えしましょう。

スタジアムで実証実験!

まずスタジアムには、スタンド席の最上段に16台の4Kカメラがずらりと設置されていました。こうして様々な角度から撮影したバッターボックス付近の映像が、サーバールーム(後述)に転送されます。

  • KDDI、5Gを使った「自由視点映像」スポーツ観戦の実証実験

    スタンド席の最上段に設置された16台の4Kカメラで、バッターボックス付近を撮影していました

集められた映像を処理するため、スタジアムにはサーバールームが特設されていました。ここで16台のカメラ映像を集約し、映像を元に選手の3Dモデルを作成してリアルタイムに配信していきます。サーバー冷却用の、おびただしい数の扇風機が回っていました。

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    自由視点VR映像を作成してリアルタイム配信するサーバールーム。タブレット端末の1台1台にひも付いた配信サーバーが用意されていました

映像の配信には、次世代移動通信システム「5G」が欠かせません。「高速・大容量」「低遅延」「多接続」といった5Gの特長が、ここで最大限に生かされるわけです。スタジアムのレフトスタンドの照明塔には、5G基地局のアンテナが設置されていました。4つのアンテナから28GHz帯(700MHz幅)の電波を吹かせることで、観客席に5Gエリアを構築。10台の5G対応タブレット端末で、自由視点映像が楽しめる設計です。

  • KDDI、5Gを使った「自由視点映像」スポーツ観戦の実証実験
  • KDDI、5Gを使った「自由視点映像」スポーツ観戦の実証実験

    5G基地局として利用されていたレフトスタンドの照明塔。矢印の位置に、アンテナが設置されているのが分かります

スタジアム2階のコンコースにも、自由視点映像のリアルタイム配信とバッター視点のライブ映像をVRで楽しめる「au 5G体感」ブースを設置。一般の来場者が迫力のある映像に見入っていました。

  • KDDI、5Gを使った「自由視点映像」スポーツ観戦の実証実験
  • KDDI、5Gを使った「自由視点映像」スポーツ観戦の実証実験

    2階のコンコースにもau 5G体感ブースを設置

今回の実証実験に先立ち、KDDIモバイル技術本部の松永彰氏は次のように説明します。

「高い処理技術を要求される自由視点VR映像は、これまでリアルタイムの配信が難しいとされていました。アルゴリズムを工夫し、また5Gを使うことで世界で初めて実現しています。ゆくゆくは、ご家庭でもスタジアムにいるような臨場感を味わってもらえるのでは。

また野球に限らず、ほかのスポーツにも活用できます。KDDIでは『5G時代の新しいスポーツ視聴体験』として、エンドユーザーの皆さんにワクワク感を提供できるサービスを考えていきます」

  • KDDI、5Gを使った「自由視点映像」スポーツ観戦の実証実験

    KDDIモバイル技術本部 シニアディレクターの松永彰氏

5Gの商用化は、2020年ごろになるといわれています。今回の自由視点映像技術を生かしたサービスはいつごろ、どのような形で開始されるのでしょう。これについて松永氏は「提供の時期などは現在、検討している段階です。広い分野に応用できる技術です。スポーツやエンターテイメントはもちろん、社会的な場面にも活用していければ」と話していました。

いよいよ2年後に迫った東京オリンピック。ひょっとしたら、自由視点VR映像を駆使したサービスを利用して、自宅にいながら、スタジアムで競技を観戦しているような興奮とワクワクが得られるようになるのかも知れません。