PayPalは25日、PayPalアカウントに連携させた銀行口座からの支払いに対応するなどのサービス拡充を発表した。本人確認なしで企業からの支払いを個人が受け取れるようになるサービスも提供され、PayPal Pte東京支店のカントリーマネージャー曽根崇氏は、「金融サービスの民主化というPayPalのミッションを実現するため、今後も高付加価値のサービスを拡充していきたい」と話す。
企業からの支払い&受け取りがよりスムーズに
現在、日本で提供されているPayPalのサービスは、「主にクレジットカードを使ったオンライン決済だった」(曽根氏)。これに対して、今回の新機能は、クレジットカード以外に銀行口座をサポートするほか、企業から個人への支払いと受け取りがより簡単になるなどの新機能を提供する。
PayPalで支払いをする場合、その決済手段としてはクレジットカードが利用できる。買い手に代わってPayPalに支払い、それをPayPalが買い手に入金することで、買い手にクレジットカード情報を伝えず、個別に会員登録しなくても支払いが行えるなどのメリットがある。
銀行口座との連帯機能を追加
この決済手段において、今回新たに銀行口座との連携機能が追加された。これまでも、クレジットカードを所有していない、または持っていても使いたくないという人が一定数いて、そうした人がオンライン決済などをしたい場合は、銀行振込やコンビニ支払いなどに対応しているサイトを使うしかなかった。
銀行口座の登録に対応したことで、買い手側はPayPalの機能を使ってクレジットカードを使わずに支払いができるようになった。売り手側は特に設定をする必要がなく、PayPal決済に対応しているなら、そのまま銀行口座経由の支払いを受けられる。
登録できるのはみずほ銀行、三菱UFJ銀行、三井住友銀行、りそな銀行、埼玉りそな銀行、ゆうちょ銀行の6行。各口座を持つユーザーは、PayPalの管理画面から口座登録を行えば、今後支払時にクレジットカードではなく銀行口座からの支払いを行うことができる。銀行口座払いの場合の振込手数料がかからないというのも特徴だ。
タイムラグなしでリアルタイムの入金が可能
売り手側にとっては、従来のPayPalの決済手数料(例えば3.6%+40円)はそのままで、何も作業をする必要がなく銀行口座支払いに対応できる。クレジットカードを持てない若年層や、クレジットカードを使いたくないユーザーでも買い手としてリーチできるのもメリットだ。「物販では半数のユーザーがクレジットカード払いを好まない」(ラージ・マーチャント統括兼ビジネス・オペレーション ディレクター瓶子昌泰氏)という調査もあり、こうしたユーザーを取り込める点を同社ではアピールする。
また、注文結果と振込結果の突合作業が不要になり、リアルタイムで入金される点もメリット。従来のように銀行振込でのタイムラグが発生しない。銀行口座支払いに対応することで、コンバージョンの向上にも繋がる、とPayPalではアピールする。
毎月支払いが発生するような継続課金にも対応できる。PayPal決済に絞ることで、決済オプションの集約による事務の省力化、手数料の削減も期待できる、という。PayPal決済を経由することで、銀行口座支払いでもPayPalの「売り手保護制度」や「買い手保護制度」を利用できる。
8月からPayPal決済を導入するランナー向けサイトのRUNNETでは、現在の決済比率で60%がクレジットカードだが、40%がコンビニ払いになっており、リアルタイムでの決済をさらに拡大したいと考えていたそうだ。以前は銀行口座振り込みを独自に行っており、3万人程度の利用者がいたそうだが、振込の不備、口座に残金がないときなどに回収する作業が発生しており、サービス提供を中止していた。
今回、PayPal決済の導入でクレジットカードと銀行口座の両方に対応できることで、未回収リスクもなく、ユーザーニーズに応えることができるとしている。
本人確認なしのパーソナルアカウントへの支払いも可能
さらに、PayPalの個人への支払い機能「ペイアウト」が提供される。今まで、PayPal口座に支払いを受ける場合は本人確認を行った上でビジネスアカウントとして登録する必要があった。しかし、今回のバージョンアップで、本人確認をしないパーソナルアカウントでもPayPal口座への支払いが可能になった。
これは、クラウドソーシングで個人への仕事が発注されるようになったり、副業が広がるなどの環境変化で、企業が個人へ報酬などを支払うという例が多くなっていることを受けての機能追加だ。
企業側は、PayPalアカウントに紐付いたメールアドレスさえ分かれば、金額を指定して支払いを行うことが可能。名義や銀行口座の情報なども不要で、企業側もメールアドレスさえ管理すれば支払いが可能になる、管理の容易性も特徴だ。
企業側は、PayPal管理画面からCSVファイルをアップロードするか、API連携を使うことで簡単に支払先を指定でき、API連携を使えば「実質無制限の相手に一斉に支払いができる」(事業開発部長・野田陽介氏)という。
振込手数料が安く、コストの削減にも有効
手数料は支払い元の企業に請求され、支払額の国内宛は2%または120円のうちの安い額、海外宛は2%または5,000円のうちの安い額を、それぞれPayPalが徴収する。受け取り側の個人は、1回10万円までなら本人確認なしで受け取れる。銀行口座への引き出しには本人確認が必要だが、上述の銀行口座支払い用に銀行口座を登録している場合、その口座への引き出しなら新たな確認は必要ないという。
リアルタイムの支払いに対応しており、企業が支払えばすぐに個人はPayPal口座に入金される。世界22通貨での支払いに対応しており、銀行口座への振込手数料よりも安く、手間をハブことによる間接コストの低減にも役立つ、と野田氏はいう。
PayPal口座を持たないユーザーに対しては、入金をするとメールが届き、口座の開設が促される。口座を開設すると、すぐに入金されるという。
個人間でのチケット売買を仲介するチケット流通センターが導入を予定しており、チケット購入者はPayPalでセンター側に支払い、売り手はチケットを買い手に送付し、それが届いたら、センターがPayPal口座に支払いをする、というフローを提供するという。ほかにも、PIXIV FANBOX、Campfireなどのサイトが対応を予定している。
PayPalでは、同様の仕組みとして「PayPal.me」をすでに提供しており、PayPal管理画面から作成した支払いリンクをクリックするだけで代金を支払えるサービスを提供。これも個人に対する報酬などの支払いに利用できる。個人間でも、何らかのサービスの提供や物品売買であれば支払いに利用できるそうだ。なお、決済手数料は売り手側が支払う。
なお、現時点でPayPalは個人間送金に対応していないが、今後の動向も見極めつつ、サービス提供するかどうかを慎重に検討していくそうだ。