• 「瀬戸内」エリアを拠点に活躍するSTU48もVR映画を体験

VAIOは26日、東映、クラフターと共同で、映画館で多人数が同時にVR映像を楽しむ共同事業「映画館でVR!」の詳細を発表しました。東京・新宿にある映画館「バルト9」(シアター7)で、7月2日からVRヘッドマウントディスプレイを使った先行体験上映が開始されます。実際のサービスインに先駆け、日本初をうたう「映画館でVR!」のメディア向け体験会も開催されました。

  • 映画館で楽しむ「映画館でVR!」

「映画館でVR!」とは何か? というと、「VRヘッドマウントディスプレイを使い、映画館のサラウンド音響でVR映像を楽しむもの」となります。今回、PCメーカーのVAIO、映画製作・配給会社の東映、映像制作会社のクラフター3社による共同事業として、新宿「バルト9」のシアター7で、7月2日から「映画館でVR!」の先行体験上映が開始されます。

サービス開始時のコンテンツは、「夏をやりなおす」「おそ松さん VR」「evangelion:Another Impact(VR)」の3本立て。鑑賞チケットは30日(土)の0時から販売開始し、チケット料金は大人・子ども問わず、一律で1,500円です。

上映タイミングは1日2回ほど。上映時間はガイダンス映像含め約30分で、コンテンツ1つあたりの実視聴時間は約5分前後となっています。システム上の同時視聴人数は最大100人ですが、シアター7の席数は81席と、余裕のある構成です。

  • 「夏をやりなおす」は、クラフターオリジナルのシネマティックVR作品。ドイツで開催されたIT関連見本市「CEBIT 2018」で公開され、連日列ができるほどの注目コンテンツだったため、「映画館でVR!」コンテンツに採用されたという。上映時間は約5分44秒

  • 「おそ松さん VR」は、TVアニメ「おそ松さん」から派生したVR作品。本編でも馴染みのある銭湯を舞台に、TVアニメと同じ声優陣が、6つ子の願いをひとつだけ叶える能力を持ったプレイヤー(視聴者)に話しかけてくる内容となっている。上映時間は約6分24秒

  • 「evangelion:Another Impact(VR)」は、2015年の「日本アニメ(ーター)見本市」で公開された短編アニメーションをVR化した作品。突如暴走したエヴァンゲリオンの迫力をVRで体験できる。上映時間は約4分55秒

STU48が悲鳴! 「誰かの悲鳴でより怖くなる」

先行体験会では「瀬戸内」エリアを本拠地として活躍するSTU48が登場。石田みなみさん、今村美月さん、田中皓子さん、土路生優里さん、薮下楓さんの5名が、VR映画を体験しました。

  • STUの石田みなみさん、今村美月さん、田中皓子さん、土路生優里さん、薮下楓さん(左から順に)

STUのメンバーからは、「蝉の声が後ろから聞こえ、迫力があった」と、映画館ならではのサウンドの良さや、「皆が一緒に見られるので、誰かの悲鳴でより怖くなった」と、他の人と一緒に楽しむエンターテインメント性の高さを評価する声が挙がっていました。また、「映画とは違ってストーリーに入り込める」「小説が好きなユーザーだと、このVRで自分が主人公になったように楽しめる」という感想も。薮下楓さんは「VRでは、ライブ会場より近い位置にいられる。船を拠点に活動するので、船に乗っている感じをお届けできたら」と、今後公演に使用する船舶「船上劇場」も交えて話しました。

  • VR映画を体験! 最初は「景色がすごい!」「女の子と目が合う」という声が上がっていたが……

  • 中盤以降、空中落下シーンでは悲鳴が上がることも(意外と怖いコンテンツです)

実際の先行上映を体験!

まず、入り口で視聴用のVRヘッドマウントディスプレイが配布されます。使用されているのは、Pico社の6DoF対応スタンドアロン型VRヘッドマウントディスプレイ(「pico neo」とみられます)。顔と接する部分は柔らかい素材でできており、装着感は良好でした。眼鏡のユーザーは、鼻パッドへの当たりが強いかもしれません。

映像視聴の仕組みは、シアター内に設置された無線アンテナとサーバーから、VRコンテンツを各デバイスに送信。視聴者はケーブル不要で、映画館ならではの音響とともに、VRコンテンツを楽しめるようになっています。なお、6DoFとは、前後、左右、上下の各軸方向(およびそれぞれの軸周りの回転)を指し、ユーザーの動きをヘッドマウントディスプレイが検知し、ユーザーの動きに合わせてVRの映像が変化します。

  • 映画館で、一人一人がVRヘッドマウントディスプレイを装着するという、ちょっとシュールな体験会

  • Pico社の6DoF対応スタンドアロン型VRヘッドマウントディスプレイ。VAIO側で、サーバーからのデバイス一元管理機能や、コンテンツ盗難防止機能などを追加している

  • バンド部分の先にある、銀色のボタンを押して長さを調節する

上映前には、係員による口頭での案内もあり、アトラクションを体験する感覚でした。ちなみに、このとき上映されたVR映画「夏をやりなおす」には制服姿の女の子が出てきますが、単に女の子とキャッキャウフフとやりとりする内容ではなく、中盤から「なぜ夏をやりなおすのか」がわかる驚きの真相が明らかになっていきます。

没入感は高く、5.1chサラウンドによる臨場感ある音響も迫力がありました。一般的には「一人で体験する」VRデバイスですが、映画館では他の人の小さな叫び声や動きが感じられ、「皆で一緒に体験する」感覚がとても強かったです。一方で、周りが見えないため、自分の荷物が盗られたりしないかや、左右を見渡す動作をしたとき誰かにぶつかってしまわないか、といったことが気になりました。

また、乗り物酔いをしやすい筆者はVR酔いもしやすいタイプで、今回体験した約5分のコンテンツでも軽度のVR酔いを感じました。もし体験中にVR速やかにゴーグルを外し、目を休ませることをお勧めします。

VR酔いに関しては、コンテンツを制作したクラフターが「リフレッシュレートを高めることや、コンテンツの演出を酔いにくいものにすることで改善したい。技術と内容、演出の全体を調整し、できるだけVR酔いを低減するコンテンツを制作していく」と話していました。

なぜいま「VR映画」をリリースするのか?

  • 「映画館でVR!」を手がける3社。左から東映の村松秀信 取締役企画調整部長、VAIOの赤羽良介 執行役員副社長、クラフターの古田彰一 代表取締役社長

VR映画事業の背景には、三者三様の視点があります。東映の村松秀信 取締役企画調整部長は、「アバター」のヒットで浸透した3D映画が頭打ちになっている一方で、衝撃や風、水しぶきなどを実際に吹き出す演出のある4D映画の上映数が急激に伸びているという映画業界の現状を語りました。「体験型シアターのニーズが高まっている。『VR映画』で新たな映画体験を提供したい」としています。

加えて、東映には仮面ライダーシリーズをはじめたとした「特撮」や、「プリキュア」シリーズ、「ドラゴンボール」といった、東映アニメーションが制作するコンテンツ資産があります。村松氏は、特撮系を中心とした注目度の高いアニメコンテンツをVR映画に活かす考えも示しました。

VAIOの赤羽良介 執行役員副社長は「劇場で多人数が同時にVR体験をする潜在的ニーズを感じた」とコメント。2年ほど前にVRを体験し、その質の高さに驚いたといいます。「映画館でVR!」では、VRヘッドマウントディスプレイの調達および最適化、視聴環境の構築を担当。VAIOはコンテンツおよびVRヘッドマウントディスプレイ、視聴環境の構築などをパッケージ化し、映画館などに向け販売も手がけます。

本業のPC開発・製造事業に加え、電子機器の受託事業(EMS事業)も成長しているというVAIOですが、同社が収益的に第3の柱と位置づける、今回のVRソリューション事業には「将来のPCの在り方につながる期待感もある」といい、「VAIOがVRへの知見を深めることは大事」だと語りました。

クラフターは、博報堂グループで映像制作事業を手がける会社。自社でもアニメーション制作を手がけていますが、2017年3月にアニメーション制作会社「ラッキーピクチャーズ」を買収し事業を拡大しています。

クラフターの古田彰一 代表取締役社長は「今までのVRに足りなかったのは音。VR映像の没入感と映画館のサラウンド音響で、ホラーVRなら隣の悲鳴が、コメディなら笑い声が聞こえる。VRでも一体感が楽しめる」と語りました。なお、先行上映期間は7月2日から1カ月程度となり、1日2回の上映回数や、今後の展開は、ユーザー動向を見て調整していくとのことです。

  • 「映画館でVR!」におけるVAIO、東映、クラフターの担当分野