もしいま、そこそこ使えるお金があったら何を買いますか?「あれがほしい」「これを買おう」……。普段から多くのデジタル製品に触れ、ブツ欲があふれてそうなライター諸氏はどんな製品に興味をそそられるのでしょうか。想定金額は「サイコロの目×10万円」、予算内で夢と妄想を広げてもらいます。今回登場するのは、生活家電大好き! 家電ライターの伊森ちづるさんです。
マイナビニュース・デジタル編集部の瀬尾さんから、「お持ちのサイコロを振って出た数字×10万円を予算にして、欲しいものをなんでも記事にしちゃってください」とご連絡をいただきました。そこでお持ちのサイコロ……がなかったので、近所のド○キでサイコロを買って振りました。出た目は「4」。ということで、40万円のバーチャル予算で欲しいもの、コレです!
いま40万円あったら欲しいものは、カシオの電子ピアノ「CELVIANO Grand Hybrid GP-500BP」(以下GP-500)。実勢価格は38万8000円(税込、本校執筆時)。都内の家電量販店で話を聞くと「電子ピアノの平均単価は6万円から7万円」なので、GP-500は超高級品。でもGP-500は、ピアノ経験者なら欲しくなる魅力があるんです。欲しい理由を3つご紹介します。
欲しい理由1 : リストもドビュッシーも愛したC.ベヒシュタインとコラボ
「スタンウェイ」「ベーゼンドルファー」「C.ベヒシュタイン」は、ピアノ経験者なら一度は耳にしたことがあるであろう老舗のピアノメーカー。完全に主観ですが、ざっくりと音の違いをいうと、スタンウェイはキラキラした音、ベーゼンドルファーは重厚な音、C.ベヒシュタインは透明感のあるしっとりした音、という印象です。
この中でもドイツの「C.ベヒシュタイン」は、フランスの作曲家・ドビュッシーに「ピアノ音楽はC.ベヒシュタインのためだけに書かれるべき」といわしめたメーカー。ドビュッシーは「ベルガマスク組曲」の「月の光」といったロマンチックな音楽で有名ですね。ほかにも、リスト、スクリャービンなど名だたる作曲家が愛したという逸話が残る、ピアニスト憧れのメーカーともいえます。
そんなC.ベヒシュタインのピアノは、一台一台がドイツの職人による手作り品。ベヒシュタインジャパンの公式Webサイトをみると、「C.ベヒシュタインマイスター・ピース Millenium 116 K」(アップライトの生ピアノ、黒艶出)の希望小売価格は250万円!! これでもC.ベヒシュタインの中では安いほうですが、趣味の楽器として買うにはとんでもなく勇気がいる価格。しかも生ピアノなので、マンション暮らしの筆者が使うには防音対策などが必要です。
いつか一戸建てに引っ越したらC.ベヒシュタインを置けるかな、いつになるかな……などと思っていたところ出会ったのがGP-500です。
GP-500は、カシオとC.ベヒシュタインが共同開発した電子ピアノ。発表会で聞いたところ、C.ベヒシュタインの音を再現するのは困難を極め、試行錯誤の連続だったそう。カシオの技術者たちのおかげで誕生したGP-500は、C.ベヒシュタインの職人も納得の音だということで、本体に「C.BECHSTEIN」というプレートがついているんです。これをみたとき、「電子ピアノならC.ベヒシュタインの音を防音設備なしでも楽しめるぞ!」と心が躍りました。本当に。
欲しい理由2 : 上手な人は上手に、下手な人は下手に音が出るピアノ
とはいえ、筆者はただ有名ブランドの名を冠した電子ピアノが欲しいわけではありません。GP-500の「素直な音」が魅力的なのです。
ピアノは鍵盤を指で叩いて音を鳴らす楽器。そのため運指のなめらかさ、打鍵の強弱などで音色が変わり、それが曲の表現となるわけです。しかし、安価な電子ピアノだとタッチによる音の違いが出にくく、それほど練習しなくても音がキレイに鳴ります。ある程度、電子的に音色が担保されているので、生ピアノだとガタガタの演奏でも、電子ピアノで弾いたら上手く聞こえることがあります。
楽譜通りに音をただ鳴らすだけならそれでもいいのですが、「表現力」「音色」といった演奏の楽しみを考えると、安価な電子ピアノよりも、弾き方によって音色が変わる生ピアノのほうが楽しみ方に深みがあるに決まっています。
筆者のピアノ講師いわく、「生ピアノの中でも、C.ベヒシュタインは粗(あら)が目立つ楽器」だそう。「C.ベヒシュタインは、音の立ち上がりが早く、弾いたニュアンスがそのまま正直に音として出てくる」と話していました。つまり、「上手な人は上手に、下手な人は下手なまま音が出るピアノ」ということです。自分の上手さ・下手さがよく分かるピアノ、それがC.ベヒシュタインなのです。「下手糞の上級者への道のりは己が下手さを知りて一歩目」という、井上雄彦先生のバスケ漫画『スラムダンク』に登場する安西先生の言葉が蘇ります。
C.ベヒシュタインの名を冠したGP-500はというと、主観ですが反応がよく、叩きつけて弾けば叩きつけたような音、柔らかく弾けば柔らかい音というように、弾いたイメージ通りの音が出てきます。
ピアノを練習するときは、10本の指バランスがよくなるように基礎練習をするのですが、GP-500はそのバランスをしっかり聞き分けられるので、まるで生ピアノを使っているかのように運指の練習がすすみます。
タッチもまるで違うんです。グランドピアノと同じハンマーの動きを再現し、白鍵と黒鍵はグランドピアノと同じ木製。さらに鍵盤を支える土台も木製となっています。鍵盤の長さもグランドピアノと同じように長め。鍵盤の先から支点までの距離が充分にあるので、弾いているときに安定し、グランドピアノで弾いたのと同じような打鍵感が味わえます。さらにすごいと思うのは、生ピアノを弾くとペダルを踏んだときや鍵盤を弾いたときにちょっとしたノイズが生じるのですが、そのノイズすらも音で表現しているのです。
欲しい理由3 : 上手くなるにはいい楽器が必要
筆者がピアノのレッスンで学んだ個人練習のポイントは、「自分の音を聞く」こと。音色、音の強弱、和音の響きなど、楽譜と自分のイメージ通りになるまでひたすらコツコツと練習することです。GP-500は音の反応性と表現力が抜群なので、音の確認がしやすく練習がはかどります。ピアノ練習の醍醐味がこれでもか! ってほど味わえますよ。
マンション暮らしの筆者が生ピアノを持つには、音や振動、部屋の広さの問題があります。ヘッドホンなどで練習できる電子ピアノはマンション暮らしには頼もしい楽器です。しかし筆者の場合、趣味とはいえずっと生ピアノで練習してきたので、電子ピアノのタッチや音色に違和感を抱き、電子ピアノを購入できずにいました。
ピアノそのものを楽しみたいので、電子ピアノ特有の「他の楽器の音が出るモード」「オーケストラと一緒に演奏できるモード」「キーボードが光る」という機能は優先度が低く、ピアノ本来の性能である音色とタッチを重視したかったからです。
GP-500は、素人の筆者ですら弾いただけで音とタッチの違いが分かります。発表会で初めて触ったとき、生ピアノと変わらない感覚に「これ本当に電子ピアノですか!?」と担当者に確認したほどでした。本当に素敵なピアノ。
電子ピアノは生活必需品ではないので、しばらく考えないようにしていたのに……この記事を書いたらまた欲しくなってしまった! ああ!! 欲しいようっ!!