ワインの中でもトップクラスの知名度を誇るボジョレー・ヌーヴォー。解禁日である11月の第3木曜日前後はメディアや店頭でもよく見かけますよね。オフィスで話題に上ることもあるのではないでしょうか。
でも、どうしてボジョレー・ヌーヴォーには解禁日が決められているのでしょう? そもそもボジョレー・ヌーヴォーってどういう意味なのでしょう?
そんな疑問についてすべてわかるボジョレーセミナーが7日、都内の有楽町ワイン倶楽部で開催されました。ゲストとして登場したのは"ボジョレーの帝王"とも称される作り手、ジョルジュ・デュブッフ社の輸出部長であるアドリアン・デュブッフ・ラコンブ氏。ボジョレーワインの第一人者によるセミナーの模様をレポートします。
■"ボジョレーの帝王"ジョルジュ・デュブッフとは
ジョルジュ・デュブッフ社はボジョレー・ヌーヴォーを日本に広めた立役者の一つとして知られるワイナリーです。1950年から家族で作ったワインを販売し、ポール・ボキューズやジョルジュ・ブランなど伝説的なシェフに認められて成長しました。1987年には世界的なワイン雑誌・ワインスペクテイターで「ボジョレーの帝王」と称賛されています。
そのジョルジュ・デュブッフ社で輸出部長を務めるのが、アドリアン・デュブッフ・ラコンブ氏。
今回のセミナーでは、まずアドリアン氏よりボジョレーについて説明がありました。
「ボジョレー・ヌーヴォー」とセットにして語られることが多いボジョレーですが、「ボジョレー」とは地名であり、「ヌーヴォー」とは新酒のこと。
ボジョレーの場所はフランスの中央よりもやや南東、銘醸地として名高いブルゴーニュの南端に位置しています。ただし、ブルゴーニュワインと大きく異なるのがワインに使うぶどうの品種。ブルゴーニュでは赤ワインにピノ・ノワールという品種を使いますが、ボジョレーではガメイと呼ばれる品種が一般的です。11月に解禁となる新酒、おなじみボジョレー・ヌーヴォーの品種もこのガメイが使用されています。
セミナーでは収穫時の様子を写真を用いて解説。収穫はすべて手摘みで行い、収穫されたぶどうはトラックでワイナリーへと搬入。手作業で実をより分けるなど、丁寧にワインが作られていることがわかります。
今年のぶどうの様子はというと、フランスでは雹害が発生し広範囲に影響が出ていたのですが、ボジョレー地区は大きな被害がなく順調とのこと。11月のボジョレー・ヌーヴォーにも期待できそうですね。
■個性の違う4つのボジョレーワインを試飲
セミナーではワイン作りに関するちょっとした雑学クイズも登場しました。たとえば、ぶどう畑の端にバラが植えられているのはなぜでしょうか?
答えは「畑の環境をチェックするバロメーターにしている」から。バラはぶどうよりも病気に弱いため、バラの状態を知ることでぶどうの病害を事前に防ぐことができるのです。
また、ボジョレー・ヌーヴォーにはなぜ解禁日が設けられているのか? というクイズの答えは「早出しによる品質の低下を防ぐため政府が設定した」が正解。11月第3木曜日という解禁日はちゃんと意味があったのですね。
さて、ボジョレーは地名であり、ヌーヴォーは新酒という意味であることは先に書いた通りですが、ボジョレーは何も新酒だけを作っている地域ではありません。一般的な赤ワインやロゼワインなども多く作られており、それらは一年中楽しむことができるのです。
そうしたヌーヴォー以外のボジョレーワインの魅力を伝えたい、ということで今回ご用意いただいたのが4つのワインです。
まずは「ボジョレー2016」。明るめの色合いで、いちごやチェリー、ラズベリーなど軽やかな赤い果実を思わせる香りがあります。軽快な印象で、室温よりも少しだけ冷やすとよりおいしそう。料理とも合わせやすそうなので、パーティーなどで前菜と一緒に飲むと良さそうです。気軽に開けられる価格なのでデイリーワインとしても使えます。
続いて「ボジョレー・ヴィラージュ2016」。これはボジョレー地区の中でもより優れたぶどうが採れる場所に限定して作られたワインです。ボジョレー2016よりも骨格がはっきりとしていて、いちごやラズベリーを基調としながらも、ブルーベリーのような色の濃い果実感が漂います。比較して飲むと、「あ、しっかりした味だ」とすぐにわかる違いがあります。温度はボジョレー2016よりもやや上げ気味がいいでしょう。少し味付けの濃い料理とも寄り添ってくれそうです。
■インスタ映えするロゼワインで“ボジョパ”を提案
この2種類のワインもかなりクオリティが高かったのですが、良い意味で驚かされたのが次に登場した2つのワインです。
まず「ボジョレーロゼ ヌーヴォー ボジョレーパーティー2017」。なんと収穫から1時間以内に醸造されたというロゼワインで、フレッシュさを追求するためにわずかに炭酸をプラスして作られています。
非常に軽快でフレッシュ。コクというよりはごくごくいける飲みやすさを重視した作りで、これからの季節にはまさにぴったりな一杯でした。
実はロゼワイン、最近世界で人気が急上昇しています。
アドリアン氏によると、フランスではロゼは白の消費量を上回っているとのこと。ロゼワインは赤と白の間のような特徴を持つワイン。赤ワインのようなコクを持ちながらも赤ワインほど渋みがないため、とても多くの料理に合わせることができます。極端な話、赤か白かで迷ったらロゼを選んでおけばだいたい外しません。
そういった使いやすさに加えて、最近では綺麗なピンク色が“インスタ映え”するということで大人気になっているのです。アメリカでは青空の下でロゼを楽しむ「Pinknic」やロゼワインを船で楽しむ「ロゼ・クルーズ」といったイベントも開催されているとか。
こうしたロゼブームを受けて、ジョルジュ・デュブッフ社とサントリーでは新しい文化としてボジョレー・ヌーヴォー、そしてボジョレー・ヌーヴォー ロゼでパーティーをする「ボジョパ」を提案しています。ハロウィンとクリスマスをつなぐ11月の定番イベントとして打ち出しているそうです。「ボジョレーロゼ ヌーヴォー ボジョレーパーティー」というワイン名もボジョパを意識しているのでしょう。
■ボジョレーのイメージを覆すサンタムール2015
ボジョレー、ボジョレー・ヴィラージュ、ボジョレーロゼと、いずれも高い品質のワインを体験できたセミナーでしたが、驚いたのは最後に試飲した「サンタムール2015」です。「軽快でフルーティー」というボジョレーのイメージを覆す、複雑でコクのある味わいのワインでした。
サンタムールとは、ボジョレーの中に10ヶ所ある「クリュ」と呼ばれる村の一つ。特に優れたぶどうを産出するため、特別に「クリュ・デュ・ボジョレー」という肩書きを名乗ることが許されている、いわば“選ばれし村”なのです。
もちろん、品質も飛び抜けています。今回試飲したワインの中でも香りに段違いの深みがあり、一口飲むと複雑で多層的な味の要素が感じられます。軽快というよりも重厚。ワインだけでも楽しめますし、しっかりとした肉料理と合わせるとすばらしい相性を見せてくれそうです。
何よりすばらしいのは価格で、近年高騰しがちなフランスワインにあって、このサンタムールは2,000円台! すばらしいコストパフォーマンスです。ボジョレーといえばヌーヴォーというイメージをお持ちの方にこそ、ぜひ試していただきたいですね。
まだまだヌーヴォーの印象が強いボジョレーワインですが、実際にはヌーヴォー以外にも様々なワインが楽しめる産地です。世界的なトレンドであるヘルシーな食事との相性も良いことから、今後さらに注目されるのではないでしょうか。