JALは6月19日、第69回定時株主総会をTKPガーデンシティ品川(東京都港区)で開催した。総会で代表取締役社長執行役員に就任した赤坂祐二氏は社長挨拶において、整備本部長とJALエンジニアリング社長を務めていた経歴も含め、安全の最前線に立つ者としての社会的使命とともに、2020年夏就航を目指す中長距離LCCも含めた「挑戦、そして成長へ」の思いを語った。
中長距離LCCは「グランドデザイン」実現への挑戦
総会は代表取締役会長の植木義晴氏を議長とし、開会挨拶に始まり、事務局報告、監査役報告、事業報告(ビデオ上映)、赤坂社長挨拶、決議案の上程、質疑応答、議決採択、閉会挨拶までを2時間21分の時間(予定では2時間)で行った。2018年3月31日現在における株主総数は12万3,474名であり、総会会場に出席した株主数は1,255名だった。
議決採択では、当期の1株当たりの年間配当金を中間配当52円50銭と合わせた110円とすること、新任3名を含む取締役10名の選任、および、監査役1名の選任について決議し、3議案を全て可決した。
赤坂氏の社長挨拶の冒頭では、「私は、入社以来ほとんどを、整備と安全推進の部門で過ごしてまいりました。安全の最前線に身をおいてきた経験から、安全運航こそがJALグループの存立基盤であり社会的使命であることを、体の隅々に染み込ませてまいりました。今後もより高いレベルの安全を追求し、お客さまや社会に揺るぎない安全をお届けしていく所存です」と述べた。
その上で、5月24日に熊本空港を離陸したボーイング767のエンジン損傷による重大インシデントに関し、「住民の皆さまに多大なご迷惑とご不安を与えてしまい、また、株主の皆さまにも多大なご心配をおかけしました。心よりお詫びを申し上げます。誠心誠意の対応と再発防止に全力を挙げてまいります」と陳謝した。
また、中期計画に関し、2月発表した10年レンジで実現を目指す「グランドデザイン」として掲げた「営業利益率10%以上の高い収益性、売り上げ2兆円、営業利益2,500億円、時価総額3兆円」を達成するひとつの挑戦が、新たな事業領域として取り組む国際線の中長距離LCCであることを明言。「全社一丸となって、社会に貢献し、『世界で一番お客さまに選ばれ、愛される航空会社』になるよう、弛まぬ精進を重ねてまいります」と述べた。
植木会長「中長距離LCCはJALに必要なもの」
78分の時間を予定していた質疑応答では、14名の株主からの質疑があり、株主からも中距離LCCに関する具体的な計画の説明を求める声が挙がっていた。経営企画本部長である西尾忠男常務執行役員からは、JALとしてフルサービスキャリアのサービスをさらに磨くと共に、事業領域の拡大にも取り組み、中長距離は後者に類するもととして取り組むことを説明。中長距離LCCの路線計画などは現在、まだ検討中として事業計画は明言を避けた。
国土交通省は2020年までに、発着枠を最大4万回拡大させる計画をしている。この成田空港の機能性拡大を踏まえ、利用者の価値観の多様化とともに東京オリンピック・パラリンピック競技大会も控えている今、西尾氏は「中長距離LCCにプレイヤーがいないのであれば、両軸(フルサービスキャリアと中長距離LCC)で展開できる」と中長距離LCCの可能性を述べた。
中長距離LCCに対する説明補足として植木氏は、自身も推進派であったことを述べた上で、「787は、北米ではボストン、欧州ではロンドンまで就航できる。学生のような若い方に行ってもらいたい。20~30万円かかるのが半額で行けるようになる。まずはLCCに乗って、成長して社会人になってからでもJALのビジネスクラスに乗ってもらえればと思っている。中長距離LCCはJALに必要なものであり、日本の将来の発展にも必要なもの」という旨をコメントした。
株主からは経営破綻後の2010年末に整理解雇した165人に対する対応を求める声もあり、人財本部長の小田卓也執行役員からは、中長距離LCC等の新たな事業に関して人材の必要性を踏まえた上で、JAL退職者を含めた人々も募集対象にすることを検討していると説明した。
整備や災害対応への意見も
また、2017年9月に発生したエンジントラブルにおける重大インシデントと2018年5月24日に発生したエンジン損傷による重大インシデントに関して、海外企業への整備委託に対して疑問を投げかける声もあった。その説明に対して赤坂氏は、「海外への整備委託と聞いてコストありきというイメージを持っている人もいるかもしれないが、『安かろう、悪かろう』では決してない。いろいろとコミュニケーションをとりながら取り組んでいる。整備に必要なのはお金をかけることであり、万全の対策が必要」という旨を補足した。
さらに、6月18日に発生した大阪北部地震に関し、伊丹空港発着便の欠航でJALが60便欠航した一方、ANAでは欠航が14便にとどまったことにおける、機材繰り以外の説明を求める声もあった。路線統括本部長の菊山英樹専務執行役員からは、欠航・遅延で多くの人々に多大なるご迷惑をおかけしたことを陳謝した上で、JRの復旧状況や伊丹空港被害状況、伊丹空港に滞留している人々の状況を踏まえ、「ギリギリまで運航を引っ張った結果、やっぱり飛べなかったとなるのはお客さまのことを考えると好ましくない。あらゆる状況を踏まえた上で早めに説明することが必要だと思っている」という旨を述べた。
質疑ではそのほか、グループ会社も含めた働き方改革に対する意見もあり、特に整備現場では残業が慢性化しているのではという質問が投げかけられた。JALは現在、働き方改革を進めており、その結果として、2010年の経営破たん直後では社員の残業時間が平均30~40時間/月であったのに対し、2014年度には平均14時間/月、2017年度には7.8時間/月に改善されていることを強調。実際に、ロボットを仮想知的労働者として扱うことでRPA(ロボットによる業務自動化)にも取り組んでいることを例に挙げた。ただし、グループ会社については取り組み開始が1年遅れたため差があるとし、今後、積極的に取り組んでいくと回答した。