接続による薬剤投与

IoTでは、ワイヤレス接続によってクラウドにデータがプッシュされ、それがAIによってビッグデータとして分析され、傾向が特定されます。このプロセスをIoMT(Internet of Medical Things)に応用することで、最終的にそのデータを、類似する状態の患者の治療方法改善に役立てることができます。

それには、医療分野でのテクノロジー利用について、総合的なアプローチが求められます。複数の分野を1つのソリューションにまとめる必要があるからです。スウォンジー大学のインスティテュート・オブ・ライフ・サイエンスでは、ナノテクノロジーの最新技術によって実現したセンサを、スマート包帯に組み込む方法を研究しています。この包帯は5G接続に対応するもので、傷をモニタリングするだけでなく、データを医療関係者にリモートかつリアルタイムで伝達することが可能です。さらにこのアプローチでは、3Dプリンタを利用して包帯を製造します。

ナノテクノロジーによって、生物学とテクノロジーの世界のギャップが埋まりつつあります。またこれは、IoMTの実現技術でもあります。ナノ粒子を利用して体内の特定の細胞に治療を施す研究も進んでおり、それについても良好な結果が報告されています。細胞レベルで対象を特定した治療の利点としては、薬剤が分散されるため、体が薬剤を代謝する必要がなくなることが挙げられます。それによって投与量が減り、より効果的な治療が可能になり、医療機関のコスト削減にもつながります。

医療分野でのMEMS

MEMSテクノロジーはすでに携帯電話の分野で応用されており、小型のデバイスで3/6/9軸の高精度の動作検知を可能にしています。MEMSマイクロフォンによって革新的な補聴器が生まれたように、このテクノロジーはウェアラブル フィットネストラッカーでも広範に利用されていますが、可能性はさらに広がっています。

MEMSマイクロフォンを使い捨てコンタクトレンズに直接装着することで、眼球内圧力(IOP)の変化を測定できるようになります。それにより、緑内障の初期徴候である、角膜の形状の変化を検知できます。ワイヤレス通信機能を持ったMEMS対応のIOPセンサが、スイスの企業Sensimedから発売されています。図2は、センサとトランスデューサが組み込まれた使い捨てコンタクトレンズ(1)、目の周りに装着するアンテナ(2)、データレコーダー(4)という、システムを構成する3つの要素を示しています。それらが細いワイヤー(3)で接続されています。

  • SensimedのIOPセンサ

    図2 使い捨てコンタクトレンズに組み込まれたSensimedのIOPセンサは、NFCによって接続されています (出典:www.sensimed.ch)

このシステムではNFCテクノロジーによってセンサがワイヤレスで動作し、測定結果がアンテナに送信されます。システム内で最大のパーツになり得る電源装置(主にバッテリー)を接続する必要がないため、このアプローチは広範なIoMTデバイスに適用できる可能性があります。NFCの機能を応用すれば、他にもさまざまなタイプのセンサを、制御に必要なマイクロエレクトロニクスと合わせてスマートファブリックに組み込むことが可能になります。

まとめ

かつてない部門横断的なテクノロジーによって実現したスマートファブリックが、医療の姿を変えつつあります。その多くはまだ研究段階にありますが、開発は急速に進んでいます。IoMTは、医師と患者の関係を永久に変える可能性を秘めています。

著者プロフィール

Rudy Ramos(ルディ・ラモス)
マウザー・エレクトロニクス
プロジェクトマネージャー(テクニカル・コンテンツ・マーケティング・チーム)

Keller Graduate School of ManagementでMBAを取得しています。また、専門的な技術分野と管理分野で30年を超える経験を持っており、これまでに、半導体、マーケティング、製造、防衛などさまざまな業界で、複雑で緊急を要するプロジェクトやプログラムを管理してきました。

マウザー勤務以前は、National SemiconductorやTexas Instrumentsに勤務したほか、シルクスクリーニングビジネスの立ち上げも行なっています。