言葉では魅力が伝わらず、社内スタッフは“スン”とした空気

スマホゲームのオープニングムービーがきっかけで生まれたタテヨコ動画。仕組みはシンプルで、システム的にもそこまで難しいものではないとのことだが、サービスがカタチになるまでに苦労はなかったのだろうか。

「苦労はたくさんありました。タテヨコは触ってみて初めて魅力が伝わるフォーマットです。言葉で説明するだけでは、なかなか理解してもらえません。ぎこちなく動作するサンプルを作って、協力してくれる仲間を増やしながら、少しずつ開発を進めました。RPGで装備がだんだん強化されていくようなイメージですが、まだ『どうのつるぎ』レベルですね。おおなめくじをようやく倒せるようになった段階です」

  • 神風動画 代表取締役/演出の水崎淳平氏

たしかに、言葉で「スマホを傾けると縦と横で映像が切り替わる」と聞くだけでは、「で?」という感想以外出てこない人も多そうだ。実際、社内の理解を得るのも、一筋縄ではいかなかったという。

「神風動画のスタッフにも協力を依頼することがあるのですが、『私は何を作らされているのだろう』という感じで作業していますね。“スン”という空気にヘコみそうになりますが、ようやく私の熱が伝わり始めたように感じています。ただ、基本的にタテヨコは社外メンバー10人前後のチームで動いているプロジェクト。神風動画のスタッフには純粋にアニメ、映画という通常フォーマットでどれだけ高みを目指せるかというところにいてほしいと考えているため、タテヨコは違うメンバーで取り組んでいます」

神風動画のスタッフには「アニメで高みを目指してほしい」と語る水崎氏。同社の社訓である“妥協は死”の一端を垣間見たような気がした。

さまざまな動画配信メディアへのポテンシャルを秘めたタテヨコ

協力者も少しずつ増えはじめたタテヨコだが、企業向け動画制作サービスとしては、明らかに後発組。参入障壁などはないのだろうか。

「既存の映像制作会社とお客さんを取り合うことにはならないと考えています。自分たちで配信インフラを作ろうという気はあまりなくて、むしろ映像配信会社にタテヨコの仕組みを導入してほしいですね」

  • 神風動画 代表取締役/演出の水崎淳平氏

YouTubeやニコニコ動画などでタテヨコ対応の映像を視聴できるようにすることで、動画の楽しみ方の幅を広げることが大事なのだという。たとえば、YouTubeでは対応動画に360°動画の切り替えボタンが搭載されているように、タテヨコ対応を意味するアイコンを表示させれば、スマホでストリーミング再生をした際に、縦横を切り替えて視聴できることがわかるだろう。

「また、動画投稿者が2種類の映像をアップするだけで、自動でタテヨコのフォーマットに切り替えてくれるようになれば、クリエイターが簡単にタテヨコ動画を作れるようになるでしょう。したがって、お仕事をいただくことも大事ですが、いまはタテヨコに共感してくれる仲間を増やしたいと思っています」

まだ『どうのつるぎ』レベルのタテヨコ動画。新たな仲間を探し、武器のさらなる強化を目指す。