「単なる半導体企業ではなく、NVIDIAはプラットフォームの会社」。GPUの開発からAI関連での存在感を高めるNVIDIAで通信業界におけるAIおよびアクセラレーテッド コンピューティングのグローバル責任者であるSoma Velayutham氏は、こう語ります。今回、Velayuthum氏は5G時代の通信事業者に対して同社が提供するプラットフォームについて説明しました。

  • NVIDIAのSoma Velayutham氏

NVIDIAは、コンピューターのグラフィクス処理を担当するGPUを開発していますが、画像処理以外の計算処理を担わせるGPUコンピューティングとともに、ここ数年で事業の主軸を大きく転換させました。

もちろん、いまでもグラフィックス向けのGPUを提供していますが、HPCや工業向けに加え、AIやディープラーニングの処理でも大きな力を発揮しています。そして、同社のGPUコンピューティングによるソリューションは、通信業界向けにも提供できる、というのがVelayuthum氏の説明です。

Velayuthum氏は、通信業界の現状について「以前に比べて、キャリアの利益は運が良ければフラットですが、1顧客あたりのトラフィックは毎年2倍ずつ増えています。さらに、顧客1人あたりのネットワークでの処理量は年6倍のペースで成長しています。グラフで見るとほぼ垂直の伸びです」と指摘します。

  • キャリアの利益は横ばいでも、コストは大幅に増大しています

利益に対してコストが増大している現状に対してキャリアは、「デジタルライフスタイルサービスを提供することで、単なる土管ではなく、付加価値を提供しています」(Velayuthum氏)。動画やクラウド、IoT、ゲームといったコンテンツサービスを提供することで利益の拡大を図っているわけです。日本のキャリアは元より、米ベライゾンとYahoo!、AOLとタイムワーナーといったように、世界でもそうした動向が見られていると言います。

  • 利益拡大のために、キャリアはさまざまなサービスを提供するようになっています

Velayuthum氏は、NVIDIAが提供するテクノロジーがこうしたサービスに貢献でき、ソリューションの提供をしているということです。

利益の拡大に加え、コストの低減も課題です。キャリア向けのソリューションでは、仮想化、SDN、5Gのようなネットワークの効率化、エッジコンピューティングという4つの手法があり、「この4つを完璧に実施できた場合、コスト状況は2~3倍改善すると言われます。しかし、すべて完璧にやった場合でも、これで十分といえるのでしょうか」とVelayuthum氏は問いかけます。

  • コスト削減のための方策は4つありますが、これを完璧に提供しても、コストの拡大に追いつけないとVelayutham氏は言います

今後のデータトラフィックの増大は、2~3倍程度のコスト改善が簡単に吹き飛ぶレベルで拡大するとVelayuthum氏は説明します。「コスト削減で2~3倍改善しても、需要は300倍になると言われています」とVelayuthum氏。

  • 未来のスマートカーとの比較ですが、現在のiPhoneが月に1GB程度の無線通信を行っているのに対して、スマートカーは月に50~500GBを消費し、iPhoneの500倍の利用量になり、トータルのデータ量は300倍になる、との試算を紹介

処理しなければならないデータ量の増大に対応して、プロセッサ側の性能向上も必要ですが、Velayuthum氏は、CPUの性能向上はここのところ、1年で10%程度に留まっていると指摘。一方で、GPUは年2倍の性能向上を続けており、GPUを使うことでコスト削減の効果がさらに拡大するとアピールします。

  • CPUとGPUの性能向上の比較

例えばデュアルCPUサーバー600台、消費電力360kWという従来のHPCをGPUコンピューティングに置き換えると、コストは1/5、使用スペースは1/7、消費電力は1/7になると言います。

  • CPUとGPUを使ったHPCのサイズと性能の比較

「ディープラーニング、HPC、自動運転車、ヘルスケアなどで業界の再発明を促すテクノロジーを、プラットフォーム会社として提供できます」。Velayuthum氏はNVIDIAの役割をそう強調します。こうしたテクノロジーに基づくプラットフォームを、通信業界にも適用して、課題解決を目指したいというのがVelayuthum氏の主張です。

膨大な通信データをGPUコンピューティングを使ったAIやディープラーニングによって処理して最適化する、GPUコンピューティングによる仮想化でより高速化する、5Gの各種ソフトウェア処理をGPUで支援する、といった点をVelayuthum氏は挙げて、GPUのテクノロジーが通信業界に寄与するとしています。

すでに米ベライゾンは基地局の性能向上のためにAIとディープラーニングを採用。従来1つの処理で4時間かかっていたところが、GPUによって4分になるなど高速化を果たし、より多くの処理が可能になったことで精度が向上したと言います。ネットワークの動向を予測が高まり、パケ詰まりのようなネットワークの問題を事前に予測して防げるようになったそうです。

米ライス大学との研究では、CPUベースの試験端末で5Gの処理を行った場合、通信速度は103Mbps、遅延は15.65msだったのに対し、GPUベースだと995Mbps、0.864msと大幅に高速化し、「パフォーマンスは10倍になった」とVelayuthum氏は胸を張ります。

  • ベライゾンやライス大学との協業による成果

同社はNTTドコモとも協業しており、AIを使ったタクシー乗車予測サービスの「AIタクシー」において、同社のGPUコンピューティングとディープラーニングが使われているそうです。

ほかに同社は中国チャイナモバイルや韓国SKテレコムなどとも協業していますが、Velayuthum氏は、まだキャリアの同社ソリューションの採用は多くはないと言います。GPUコンピューティングやAI、ディープラーニングなどのテクノロジーは、キャリアのコスト効率化やサービス向上に繋がるとして、Velayuthum氏は今後、キャリアの採用をアピールしていきたい考えを示しています。

  • 同社が協業する各社。これ以外のキャリアの数はまだ多くはないとのことです