国内定期航空保安協議会は6月13日、各空港の保安検査のスキルを競う「保安検査コンテスト」を羽田空港で初開催した。全国の65空港の中から選ばれた15空港・14社の保安検査会社が審査員の前で実技試験を披露し、初代優勝者は地元・羽田空港第2ビル(全日警)となった。
一般からの声も含めて全国から選出
国内定期航空保安協議会が保安検査コンテストを構想したのは2017年夏のこと。2020年東京オリンピック・パラリンピックに向けた航空保安の強化と保安検査品質の向上を目指すと共に、全国の保安検査員が集うことで、それぞれの空港で実践されている技術を共有し高め合うこと場になることを期待して開催された。
参加空港(保安検査会社)に関しては、国内定期航空保安協議会に加盟している14社の航空会社から空港20数社の推薦を募り、その中から協議会が大規模・中規模・小規模というカテゴリー分けした上で、それぞれのカテゴリーから5空港ずつを選出した。選出は特に、一般利用者から寄せられたJAL/ANAの直近1年間のアンケート結果が中心となっており、その結果も踏まえて総合的に判断されている。その結果、大規模(新千歳、羽田、関西、那覇)、中規模(松山、熊本、宮崎、鹿児島、石垣)、小規模(旭川、三沢、静岡、石見)の15空港が選出された。
言葉が通じない中でどう検査する?
審査は、会場内に設置された模擬ハイジャック検査場に訪れるお客5人を対応するというもので、各空港の代表者は案内担当者1名・接触担当者1名の2名1組で実技に当たった。大前提である確実な保安検査の実施と共に、手際の良さ、丁寧さを審査対象とし、「確実」「迅速」「丁寧」の3つのポイントを主な審査基準となった。さらに、実技には10分間の制限時間を設けられており、制限時間を越えた場合は減点される。
審査における保安検査員それぞれの役割は、案内担当者が検査場入り口で検査の協力を依頼し、門型の金属探知機に反応したお客に対しては接触検査担当者が検査を行うというものだ。お客役は加盟航空会社のスタッフが対応し、どんな状況にも対応できるかを見るために、それぞれ個性ある役柄が与えられていた。
まず、特に問題なく保安検査を通過するお客がおり、続いて、花火/クラッカー保有のお客、搭乗券がない/座席希望希望のお客、カッター保有のお客、そして、日本語・英語が通じないお客が登場する。中には、柄の悪そうなお客や不機嫌そうなお客を模した役柄の人もおり、「今回だけは見逃して」「ちょっとだけだから大丈夫じゃないか」等とお願いしてくるお客に対しても、丁寧かつ毅然とした態度で臨めるかを試されるシーンが設定されていた。
今回の実技の中で特に一人ひとりの検査対応力が求められたのは、日本語・英語が通じないお客に対する保安検査だろう。実技ではタイ人/フランス人がお客役になり、日本語・英語で話しかけても分からない仕草をし、手荷物を持ったまま検査場を進もうとすることも。今後ますます多くの外国人が日本を訪れることが想定されている中で、言葉が通じない人に対してもボディーランゲージで伝えることができるかが試された。
「世界で一番温かい保安検査」
各空港の代表者は空港側で選出され、2017年入社の新卒社員から勤続年数16年8カ月のベテランまで、様々な経歴の保安検査員が実技に当たった。審査項目でもある「確実」「迅速」「丁寧」を体現しつつも、中には方言で挨拶をする等、その土地ならではのおもてなしを披露する人もおり、それぞれの空港でどのような保安検査が行われているのかをそれぞれが知るきっかけにもなっているようだった。
審査にはJALやANA、スカイマークからのエアライン審査員に加え、国土交通省 航空保安対策室の安田松明係長と、東京オリンピックパラリンピック競技大会組織委員会 会場警備統括総務部の入口健太主事のゲスト審査員の手で行われた。実際に空港警備を3年経験している入口主事は、「ひとりの旅客になったつもりで審査させていただいていましたが、全員が高いセキュリティーを実現されていて安心できました。東京オリンピック・パラリンピックまで後772日に迫りましたが、みなさんが実現されていた、丁寧さ、保安検査力、謙虚さは、ひとつのアピールになると感じています」とコメントした。
審査の結果、1位は羽田空港第2ビル(全日警)の齋藤秋江さん(勤続年数: 4年8カ月)と橋本淳さん(勤続年数: 1年2カ月)、2位は熊本空港(熊本空港整備)の榊原野々子さん(勤続年数: 1年2カ月)と藤川大貴さん(勤続年数: 4年2カ月)、3位は鹿児島空港(鹿児島総合警備保障)の中村紅琳さん(勤続年数: 2年3カ月)と高嶺雄太さん(勤続年数: 5年4カ月)が選ばれた。上位3組・6人には一人ひとりに、全国の保安検査員の模範であることを認定する「Best Performance of Security バッジ」が贈呈された。
実際、1位に選ばれた齋藤さんと橋本さんの実技は、きびきびとした所作と笑顔が印象的であり、検査内容をお客に説明すると共に、それぞれの状況をお互いに呼び掛けるなどのチームプレイが垣間見えるものだった。実技における10分は「あっという間の時間だった」と話しており、自分で採点するならという質問に対しては、ふたりとも「100点満点中90点」という評価だった。
その減点理由を尋ねたところ、斎藤さんは「5点は迅速さ、5点は英語をもっと学習したい」、橋本さんは「本番までにどんなお客さまがいらっしゃるか予測して臨んでいましたが、予想外なことに対してちょっと戸惑ったところがありました。臨機応変に対応しないといけないので、もっと柔軟に対応できるようにという意味で10点」と答えるなど、高い技術を披露した中でも、さらなる向上ポイントを見出したようだった。
コンテストの総評として、JAL執行役員 空港本部長の阿部孝博氏は、「選ばれた30人の航空保安に対する真摯な対応を目の前にして、これほど心強いものはないです。世界で一番温かい保安検査が、今日だったのではと思っています。私は日本の保安検査は世界一だと思っています。保安検査において、毎日毎日同じことはありません。今日学んだことをそれぞれの空港に持ち帰っていただき、トライしていただきたい」とコメントした。協議会としては、保安検査コンテストは来年度も継続して開催することを検討している。
「どんなフライトだったか」と聞かれれば、機内で寝て過ごしたとしても何かしらの記憶は残っているだろうが、「どんな保安検査だったか」と聞かれても答えられる人は少ないのではないだろうか。空港利用者からすると、保安検査は搭乗手続きにおいて当たり前のもの、場合によっては面倒なものと認識されていることもあるかもしれないが、誰もが安心して空の旅ができるよう、こうしてそれぞれの空港にて保安検査員が日々業務に当たっている。