「もちろん心配事はたくさんある。だが、新体制でスタートを切ってから、開発者たちは元気であり、これから新たなものに挑戦できるという希望を持って取り組んでいる」。
富士通クライアントコンピューティングで開発部門を統括する仁川進執行役員はそう切り出した。
「川崎の開発体制は、FCCLにとって『宝』。これまでにも、他社にないものを開発し、市場に投入してきた。その姿勢は、これからもまったく変化がない」と続ける。
レノボ傘下による新体制となったFCCLが最初に投入する新PCは、業界初の小学生向けPCと位置づける「LIFEBOOK LHシリーズ」だ。
「はじめての『じぶん』パソコン」をキャッチフレーズとし、小学生が初めて所有するPCをコンセプトに開発したものであり、これも他社にない切り口の新たなPCとなる。
「2017年6月に、コンシューマの開発部門と販売部門が一体化したことにより、開発した初めて製品がLHシリーズ。利用現場の声を、開発部門に直接反映して作った製品である。ワイワイガヤガヤしながらのモノづくりは、かつての携帯電話のモノづくりに似たところがある」と仁川執行役員は語る。
そして、13.3型としては世界最軽量のUHシリーズも同様に、FCCLらしさの象徴ともいえるPCだ。
「今年秋以降には、より軽く、より動作時間を長くし、これまで以上にこだわりを持ったキーボードを搭載した世界最軽量の新製品を投入することを、みなさんにお伝えできるだろう」と、この領域に対しても、今後も継続的に製品投入する姿勢をみせる。
「商品という観点からみれば、変わるものは一切ない。いやむしろ、これまで以上に、お客様が求める本当に必要な機能を搭載したデバイスを、投入しつづけることができるようになる」と断言する。
「これまで以上」という部分に、レノボとの協業の成果を盛り込みたいと仁川執行役員は考えている。
部品の共通化で開発、調達、期間コストを削減
では、開発においては、レノボとの協業によって、どんなメリットが生まれるのだろうか。仁川執行役員は、いくつかの具体的事例を示す。
「たとえばチップセットの開発は、FCCLが独自に行ってきた部分であったが、チップの評価や、標準的に活用できる基本部分に関しては、レノボのノウハウを活用できるようになる」とする。重複していた部分の共通化が可能になるというわけだ。
レノボのノウハウを活用できる部分は、チップセット以外にも多岐に渡る。
世界最軽量のUHシリーズの場合にも、すべての部品が軽量化を実現する特別なものではない。共通的に使っている標準部品も多い。さらに、標準部品をベースにカスタマイズする際にも、レノボが評価し、使用してきた部品をもとに拡張することが可能になり、これも一から評価を行うよりも工数は大きく縮小し、コスト削減や開発期間の短縮化にもつなげることができる。
「FCCLの基準に照らし合わせたり、最終製品として組み上げた際に、お客様に影響がないともいえる部分に関しては、レノボの評価結果やそれをもとにして調達できる部品を活用すれば、そこに割いていたリソースを、付加価値の創出などの領域にまわすことができる」というわけだ。
さらに、開発に活用する各種ツール類も、レノボが活用しているものを利用できるとみている。CADやシミュレーションなどのツールなどがその対象だ。
「富士通グループ全体として活用してきたツールや、工場の生産レイアウトのシミュレーションツールなどでは、日本での開発、生産に最適化した形に作り込んだり、積み上げてきたりしたものが多く、それを使い続けるケースもある。だが、熱シミュレーションのツールなどは汎用的なツールを利用しており、こうしたものはレノボと共通のものを活用したい」と語る。
だがその一方で、「同等の成果しか見込めないツールや、仮に効果があったとしても、設備を移動したり、置き換えたりする手間、あるいは現場が利用知識を習得する手間などといったことを考慮した場合、移行しないほうがいいという判断が働くこともあるだろう。また、レノボのリソースを活用することで、作業する場所が変わったり、作業が分断するというデメリットも考える必要がある。全体のバランスを考えて、これらの取捨選択をどうするかがこれから重要になる」とも語る。