継続利用してくれる優良会員と退会リスクの高い会員それぞれの傾向がわかったところで、次に取り組んだのが具体的なマーケティング施策への落とし込みだ。星野氏によると、入会から32日以内の顧客行動のステップに応じてさまざまな指標を設定し、施策を実施していったという。
具体的には、入会32日以降の継続をKGIに設定し、入会後2週目の視聴UUと複数日視聴UUなどの指標を施策テーマに設定して利用促進の施策を打ち出していったのだそうだ。施策は入会から何日目なのかという状況に応じて「入会から*日目でこういう行動をしていないユーザーは退会リスクが高い」という仮説を立て、退会リスクの高い会員を抽出してメールやアプリのプッシュ通知などOne to Oneのコミュニケーションツールを活用した利用促進を行っていったという。
「例えば、入会して最初の訪問時に何かしらのアクションをしてくれる会員は複数日視聴する可能性が高い。一方で、入会から3回目以降の訪問数が急激に減少するので、初回、2回目の訪問時にサービスの魅力をどう伝えていくかなどを考えた。また、海外ドラマを視聴した人は、次に観る作品も同一ジャンルであることが多いため、その特徴を活かしたレコメンドを行っていくなど、さまざまな施策を展開した」(星野氏)
そして、施策を実施したら次は効果検証だが、星野氏は「これまでは適切な効果検証ができていなかったため効果的な施策の評価ができず、PDCAによる施策の最適化ができなかった」と振り返る。そこで、今回実施した施策では退会リスクの高い会員を“施策を適用する会員”と“施策を適用しない会員”に分けて、その両者のサービス利用状況や退会率にどのような差異が生まれるかを細かく検証していったのだという。
「施策の対象グループと非対象グループでは、対象グループのほうに継続率の改善が見られた」(星野氏)
また、こうして退会リスクの分析、退会リスクの高い対象会員の抽出、そして効果検証のスキームが確立したことによって、32日目以降の継続率を高めるためにさまざまなキャンペーンを展開し、その有効性や費用対効果についても分析を行ったという。例えば、レンタル作品視聴のクーポン配布施策は32日目以降の継続率に効果があるのかといった施策では、大きくは対象グループと非対象グループで差異が生まれなかったが、特定の属性のユーザーに効果が見られたり、クーポン利用会員の継続率はクーポンを利用していない会員よりも高いということがわかったという。
「こうした施策では運用上の課題も見つかった。クーポン配布施策は手動で運用したが、運用の複雑さや施策の負荷に伴い、さまざまな場面でヒューマンエラーが発生してしまう。今後継続的に実施していくにはオペレーションの自動化が必要だ。こうした退会抑止に向けた取り組みはまだ始まったばかり。今後、データを活用したマーケティング活動を強化していきたいが、エイベックスはエンターテインメントの会社。データだけではなくクリエイティブな感覚や感性を融合したエイベックスらしいマーケティングを展開していきたい」(星野氏)