ロールス・ロイスは同社初のSUV「カリナン」を日本で発表した。SUVの人気は世界的に高まっていて、自動車メーカー各社がラインアップの拡充を急いでいるというのが昨今の状況だが、ついにロールス・ロイスまでが参戦を果たした格好だ。SUVはロールスのイメージにそぐわない感じもするのだが、これは販売台数を追求した動きなのだろうか、それとも別の動機から進めた同社の戦略なのだろうか。

  • ロールス・ロイス「カリナン」

    ロールス・ロイス初のSUV「カリナン」(Cullinan)。その名前は、100年以上も前に南アフリカで発掘された世界最大のダイヤモンドの原石から取ったそうだ

「大量生産するつもりは一切ない」

SUVといえば、基本的には荒れた路面や道路が整備されていないような場所を走るオフロード性能が高いクルマという認識がある。もっとも、最近は乗用車の要素を取り込んだ「クロスオーバー」と呼ばれるSUVが主流になってはいるが、やはり、希少なラグジュアリー・カーを作るロールス・ロイスからSUVが出ることには、少し違和感を覚える。

  • ロールス・ロイス「カリナン」

    サイズは全長5,340mm、全幅2,000mm、全高(空荷時)1,835mm、ホイールベース(前輪と後輪の間)3,295mm。6.75リッターのV12ツインターボエンジンを搭載する。日本での価格は税込み3,800万円から。同社のフラッグシップ「ファントム」の「エクステンデッド・ホイールベース」に比べれば2,700万円以上も安い

ロールス・ロイスも販売台数を伸ばしたくてSUVを作ったのか。こんな疑問が浮かんだが、ロールス・ロイスの言い分は違う。

「ロールス・ロイスにとってカリナンとは、従来の基準から大きく脱却したクルマであり、ロールス・ロイスにしか実現できない方法で、新しい世代の顧客の要望にこたえるクルマだ。新モデルの登場が相次ぐSUV市場に進出はするが、価値の面で妥協したり、平凡なラグジュアリーを提供して、大量生産したりするつもりは一切ない」。これは、カリナンの日本発表会に登壇したロールス・ロイス・モーター・カーズのポール・ハリス氏の言葉だ。

  • ロールス・ロイス「カリナン」の後席

    5人乗り仕様は後席がベンチシートになっている。ロールス・ロイスで初めて後席を前に倒せるようにしたそうだ。長い荷物も積めるということだから、「カリナン」でスキー場に出掛けるのも一興だろう

ロールス・ロイスがSUVを作る歴史的背景

「“アラビアのロレンス”に思いを馳せてください」。意外な人物に言及したのは、ロールス・ロイス・モーター・カーズ本社から来日したカリナン商品企画マネージャーのジョン・シアーズ氏だ。“アラビアのロレンス”とは「砂漠の反乱」で有名なトーマス・エドワード・ロレンスのことだが、彼がアラブの砂漠を旅するときに使ったクルマは、ロールス・ロイス「シルバーゴースト」の装甲車だったという。この装甲車がSUVだったわけではないが、ロールス・ロイスがオフロード性能の高いクルマを作ることには、歴史的背景がある。おそらく、それを伝えたくてシアーズ氏はロレンスに触れたのだろう。

  • ロールス・ロイス「カリナン」を挟んで並ぶジョン・シアーズ氏とポール・ハリス氏

    ロールス・ロイス・モーターカーズでカリナン商品企画マネージャーを務めるジョン・シアーズ氏(左)とアジア太平洋 リージョナル・ディレクターのポール・ハリス氏

数あるSUVの中で、「カリナン」が他のモデルに差をつけられるポイントを問われたハリス氏は、「オンロードでもオフロードでもラグジュアリーな乗り心地が得られるところ」と答えた。カリナンはオールアルミ構造のアーキテクチャーと最新のエアサスペンションを採用しており、ロールス・ロイス車を特徴づける「魔法のじゅうたんのような乗り心地」をオン/オフの双方で実現しているそうだ。こういうクルマであるカリナンならば、「砂の道、雪道、砂利道なども、六本木に買い物に行ったり、銀座に歌舞伎を観に行ったりするのと変わらない、エフォートレスな(苦労を要さない、楽な)感覚で」運転できるとシアーズ氏は話す。

これらの話を総合すると、ロールス・ロイスとしては、SUVを用意しなければ自動車市場の潮流から取り残される、というような理由からカリナンを出すのではなく、ロールス・ロイスらしいSUVが作れると確信したからカリナンを開発した、と言いたいようだ。

  • ロールス・ロイス「カリナン」の使い方「ビューイング・スイート」

    「ビューイング・スイート」という使い方。景色を眺めつつ、「カリナン」後席に備え付けの冷蔵庫で冷やしたシャンパンを楽しむ、といったような趣向だ

とはいえ、従来とは異なるクルマなので、カリナンでは新しい顧客にも出会いたいというのがロールス・ロイスの思いだ。ハリス氏は想定する顧客のイメージとして、「目立ちたくて、若くて、多忙で活発で、社交的であり、アウトドアが好きで、冒険を好み、家族を大切にし、現代的な生活をしつつ、フットワークが軽く、スポーツが好きな人」とキーワードを羅列した。ここには出てきていないが、3,800万円からのクルマを買って、維持できるだけの経済力が前提条件になることはいうまでもない。